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第4話 妖精の小径にて僕は

 妖精の小径は小さな部屋に繋がっていた。距離としては10メートルかそこら。ダンジョン本流からすぐそこだ。


 部屋の大きさは六畳間くらいだろうか。僕の自室とさして変わらないように思える。つまり4人で入ると狭く感じる。


 部屋の奥には宝箱が鎮座していた。当たりだ。それは両手でも抱えられないほどの大きさで、頭の中で思い描いていた宝箱よりずっと大きいのが意外だった。だが考えてみればこれくらいの大きさがなければ武器や鎧は収まらないだろう。


「開けろ」


「えっ?」


 檜山が命令口調で語りかける相手はこの場には僕しかいない。だが指名されたのが意外で、僕は疑問の声を上げていた。相田はともかく檜山と久瀬はどちらが宝箱を開けるかで揉めるのではないかとすら思っていたからだ。


「いいから開けろつってんだよ。それとも宝箱すら開けられないのか?」


「それはできると思う、けど」


 現在の筋力値は13。小学生高学年くらいの筋力値だ。それでも宝箱の蓋を開けるくらいならできるだろう。


「思う、じゃねーんだよ。開けろ。いや、ちょっと待て」


 檜山はそう言うと久瀬と相田に耳打ちをする。小声で僕にはなんと言ったのか聞こえなかった。


「よし、いいぞ。開けろ」


「分かりました」


 僕は進み出て宝箱の前に立つ。両手を宝箱の蓋にかけ、上に引っ張った。鍵は掛かっていなかったのか、思っていたよりずっと軽く蓋が開く。

 いや、軽い、なんてものじゃなかった。むしろ蓋のほうが自分から開いた。次の瞬間、視界が真っ暗になって何も見えなくなる。


「ミミックだって!?」


「罠は罠でも最悪じゃねーか!」


 檜山たちのその声はやけにくぐもって聞こえた。まるで水中にいるかのようだ。胸の辺りに強い衝撃が走る。挟まれた。いや、噛みつかれた!?


 擬態箱(ミミック)はダンジョンでは時折見かけるモンスターであるらしい。伝聞になってしまうのは、僕がミミックと遭遇したことが無かったからだ。遭遇するにしても10階層は潜らなければ出会わないとネットには書いてあった。


 そして付け加える情報があるとすればミミックの強さは、大体それが発見されるより1階層奥のモンスターと同等であるということだ。つまり定説通りであれば、このミミックは第4層のモンスターと同等の強さがあると言うことになる。


「助けて!」


 そう叫んだつもりだったが、声はほとんど出なかった。僕の上半身はすでにミミックの口の中にあって、そこは粘り気の強い液体のようなもので満たされているようだった。

 開けた口の中に液体がドロリと流れ込んできて、僕は溺れた。


「やべぇ、弘樹、蒼太、逃げるぞ!」


「魔石は!?」


「構ってる場合か! あいつが食われてる間にここを出るぞ!」


 その声は遠かったが、確かに聞こえた。当然というか檜山たちは僕を助けるためにミミックに立ち向かうという気はまったく無いらしい。僕の背負っているリュックサックに入っている魔石のほうが大事らしかった。


 その頃には僕の体はほとんどミミックの口の中にあって、僕は宝箱の大きさにようやく納得がいった。確かにこれくらいの大きさが無ければ人間を丸呑みにはできないだろう。


 バタンと宝箱の口が閉じる音がした。


 僕は食われた。

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