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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第388話 疑った後に信じるともう疑わない

「戻りました」


 代筆屋のところに戻ってきた僕は、もう慣れた感じでソファに座る。


「思ったより時間がかかったな。良い部屋はなかったか?」


「いえ、もう契約してきましたよ」


 僕はそう言って借りた部屋の鍵を掲げる。


「そうだとしたら早すぎない?」


「幸い同じ建物で二部屋押さえられました。白河ユイの住まいに困っていたのを忘れてたのでちょうど良かったです」


「困ってたら普通は忘れないんだよなあ」


 ちょっと立て込みすぎてて忘れちゃってたんだよ。仕方ないよ。


「じゃあ、ちゃっちゃとマイナポータルで転出届出してしまえ。転入のほうはオンラインではできないからな。どうする?」


「代理人に行かせることって依頼できます?」


「そりゃ請け負うが、どこ?」


「神楽坂です」


「そこ新宿区だなあ。転出届いらないわ」


「確か書類手続きは最初の契約に含まれていましたよね」


「書類を作るのはな。だけど代理人に行かせるとなると別料金だ。でも、転入届出すだけかあ。いいよ。サービスしとくよ。新しい住所だけ教えてくれ。あと委任状印刷してくるから、署名と捺印な」


「分かりました。白河ユイの転出と転入はどうしましょう?」


「しらねぇよ。18になったら、本人にやらせりゃいいだろ」


「まあ、確かに」


 26日になったら白河ユイは様々な手続きを自分の意思で行えるようになる。

 以前の住所から転出して、新しい場所に転入する手続きを自分で行うことは、新しい自分に生まれ変わるための通過儀礼になるかもしれない。


「一応、白河ユイには住民票とかの閲覧制限をかけるように忠告しとけよ。実の親なら居所を調べられるからな」


「優しいんですね」


「息子がファンだからな。仕方ない」


 そういやそんなこと言ってたね。


「こっちとしてもさっさと住所は変えてもらったほうが助かるし、明日にでも住所は変わるようにしておく。んったく、新宿に住むなら婚姻届と同時で良かっただろうが」


「さっきまで神楽坂のことすら知りませんでしたし、今の今まで神楽坂が新宿区内であることを知りませんでしたよ」


「まあ、いいけどさ。新宿区役所って歌舞伎町にあるし」


「そうなんですか?」


「あれ、婚姻届出したんじゃねぇの?」


「浅草のほうで出したんですよね。婚姻届ってどこで出してもいいので」


「そりゃそうだけど。まあ、散歩ついでに出しておくよ」


 なるほど。サービスするわけだ。

 近いもんね。歌舞伎町。


「ほい、これ委任状」


 プリントアウトされた紙を渡されたので、僕は署名し、樋口湊の現住所を書いて、捺印した。


「あれ、これ委任の目的とか委任相手の名前が空欄じゃないです?」


「そこも手書きが必要なんだよなあ。まあ、本当は全部手書きが一番いいんだが。一応、委任者の署名捺印があればギリ通る」


「ということは代筆屋さんのお名前を?」


「えーっと、これ、この名前と住所を書いてくれ」


 代筆屋はポケットから名刺入れみたいなものから運転免許証を取り出す。

 顔写真は代筆屋のものだけど、氏名欄には、ん~、藤堂竹三郎?


「いい名だろ」


「これ絶対偽名ですよね」


「実在人物なんだよなあ。年齢も俺と割と近い」


「まあ、そりゃバックアップくらいありますよね」


 戸籍の売り買いをしている代筆屋が自分自身の欺瞞用戸籍を持っていないはずがなかったな。


「こんなん疑われません?」


「それがいいんだろうが。一回疑ってかかって調べたら実在しているとなると、人はそこからもう疑わなくなる。他人に聞かれても、いや、この名前の人、ちゃんと実在してるんですよ! って言い出すくらいだ」


 人って騙されやすい生き物だねぇ。

 僕自身も気を付けよ。


 僕はさらさらと藤堂竹三郎の名前と住所を書き写す。


「委任の目的はどう書けばいいですか?」


「住民基本台帳の転入の手続きにかかる一切の権限、だな」


「一切の権限って文言怖いんですけど」


「それは真っ当な感性で結構。だけど、これは定型文みたいなもんだから、そう書かないとかえって面倒なのよ」


 うーん、本当かな?

 僕はスマホを手に取って調べてみると、確かに代筆屋の言う通りみたいだ。


「お前なあ。その臆面も無くスマホで調べ出すのはあんまりよい仕草じゃないぞ」


「かと言って、あなたの言うことが本当かちょっと確かめさせてくださいって言うのもちょっと」


「そう言う時はちょっとトイレを貸してくださいとか言って人目を切るんだよ」


「あー、そんな手が」


 僕が深く納得していると、代筆屋は呆れたように首を傾げた。


「お前さん、妙なところが抜けてるよな」


「誰だって完璧なわけじゃないんですよ」


 ロージア先生もそんな感じのことを言ってたし、たぶんそう!

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