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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第386話 現金は意外と嫌がられる

「それで印刷屋のほうだが、流石に額が大きいんで金を受け取ってからでないと動かない。金型の製作やら製造は裏のない真っ当な工場こうばを使うからな」


 まあ、事が大きくなるから裏側の世界で回すには限界があるよね。


「秘密保持契約《NDA》を交わしておきたいんですが、信用できるところですか?」


「それは大丈夫だ。どちらの意味でもな。相手方も下請けで部品製造なんかのときにNDAを交わすだろうし、慣れたもんだと思うぞ」


「ならいいんですけど」


 僕はバックパックから百万円の札束を五つ取り出してテーブルに置く。

 なんかもう慣れた光景だ。

 変わったのはこの現金が真っ当な金だ、ということだろう。


「二千五百万は小切手って言ってましたけど、現金よりそのほうがいいですか?」


「頭痛薬飲んでいいか? はぁ、真っ当にやってるところにあんまり大きな現金持って行ってやるなよ。せめて振り込みにしてやれ」


「そういうもんですか」


 なんか現金が一番有り難がられそうな気がするけどなあ。

 税務署に見つかりにくいだろうし。


「そりゃそうだ。一番扱いが面倒なんだからさ。現金なんて。金の流れが明らかになっていい、真っ当な取引なら振り込みが一番だ」


「でも限度額がありますよね」


「そうなんだよなあ。最近厳しいから窓口でも二千五百万は難しいかもな。小切手を書いてくれ」


「はいはい」


 僕は小切手に金額やらを記入していく。

 もらったときに銀行で使い方は聞いてあるので、特に詰まるところもない。


 記入の終わった小切手を代筆屋に渡す。


「じゃあ試作品ができたら連絡が行くようにするから、知らん番号からでも電話に出ろよ」


「結構電話に出られないタイミングがあると思うんですが、折り返しでもいいですかね?」


 ステラリアに関わっている時とか、なんなら9月に入って学校が始まっているという可能性もあるだろう。


「先払いしてるんだし、多少待たせても平気だろ」


「まあ、実際、物を見てちゃんと稼働するか試してみないとなんとも言えませんしね。一応、銀でダメだった場合に試して欲しい金属があるんですが、どうしましょう? 先に渡しておいたほうがいいです?」


「なんて金属? とはもう聞かねぇぞ。その金属の特性にもよるだろうから、少量でも先に渡しておいたほうがいいと思うが、用意ではできるのか?」


 うーん、アーリアなら魔銀も直接買い付けできるはずなんだよな。

 普通に魔銀の武器とか売られてるし、手に入らないということはないだろう。


「少量なら明後日にはなんとか。工場の人にも顔合わせしておきたいんですが、止めといたほうがいいですよね」


「おまえさん、見た目が若すぎるからなあ」


 ぽんと何十億も出そうしていた取引相手がこんな子どもだとは夢にも思っていないだろうし、騙されたと感じるかもしれない。

 代筆屋や印刷屋を間に挟んでおいたほうが確実だ。

 お金はかかるけどさ。


「小切手は渡しておきますけど、明後日には金属を、そうですね。片手か、両手で持てるくらいの量だけ手に入れて持ってきます。加工難度は高くないと聞いてはいるんですが、なにせ僕は金属を扱ったものがないもので」


「インゴットで、だよな?」


「そのつもりです。なんというか、規格は違うと思いますが」


「分かった。詳しくは聞かねぇ。聞きたくねぇ。それじゃ消滅金型の製作自体は始めさせるぞ。その新しい別の金属で作るなら、別途制作費がかかることを忘れるなよ」


「一億くらい先に払っておいていいですか?」


「駄目だ。試作品が上手く動いて量産化の目処が立ったらそれでもいいが、今の段階では相手が嫌がる。まずは銀で、駄目ならその金属で、それでも駄目なら諦めるか、別の素材で試すかだ」


「素材を持ち込んだ場合でも制作費は500万なんですかね? これ、銀の価格も含んでると思っていましたが」


「そこはまた別途見積もりを出すから、そのつもりでいてくれ。未知の素材なんだとしたら、逆に値段が上がることもあり得るからな」


「分かりました」


 現代日本でもっとも魔力が通りやすいとされるのは、実は純銀ではなく、レアメタルを混ぜた銀の合金だ。

 銀なのに金とは? とも思うが、これは金属のことなので、金でいい。

 それも試してみて欲しいんだよな。

 案外、アーリアより日本の方が先を行ってる可能性もあるし。

 ただ純銀から加工できるものなので先に純銀を試して欲しいのだ。


「こうなってくると東京にいちいち出てくるのが面倒になってきますね」


「この手の金属加工会社は大阪にも多いと聞くが?」


「そうかもしれませんが伝手がないですし、多分東大阪あたりですよね。自分のところからだと交通の便がなあ」


 あの辺って多分車での移動が大前提だよね。

 車の免許はまだ年齢的に、いや、取れるか。樋口湊名義で。

 でも柊和也でも一回取るのが面倒なんだよなあ。


「自動車免許を二回取るの面倒なんですよね。簡単な方法ってないですか?」


「そうなら二回目は一発試験でいいんでないか?」


「一発試験?」


 聞き慣れない言葉に僕はオウム返しにする。


「教習所とか、自動車学校に通わずに、運転免許センターでいきなり試験を受けるやり方だよ。昔はそれで取ってる人も多かったぞ」


「そんなのできるんですか?」


「まあ、あんまり現実的な話ではないよな。試験場でいきなり運転して、ちゃんと各技能を示せるのか、ってことになるし。昔は誰でも無免許で練習してたから余裕だったが、今のご時世だとなあ。でもおまえさんの場合は、一回普通に免許取った後に受けるんだから、なんとかなるだろ」


「それって一日で終わるんですか?」


「確かそうだと思うが」


「じゃ、樋口湊で免許取るかあ。それにしたって一回目は時間がかかりますよね」


「そうだな。というか、免許の前に住所をどうにかしてくれ。今の住所は探られると色々とマズい」


「そうでした。でも人手が無いんですよ。僕が自由に動ける時間が全然足りてないんです」


「アウトソーシングしろよ。例えば今回は部屋を借りる手続き自体は自分で行かなきゃならんが、探すのは人任せでもいいだろ。どうせ住むわけじゃないんだし」


「それもそうなんですが、いや、今ならまだ不動産屋も空いてますよね」


 時計を確認すると16時を過ぎたところだ。


「まあ、まだ閉まっちゃいないだろうな」


「この近くに不動産屋はあります?」


「ビル出て左、道沿い300メートルくらいだ」


「ダッシュで行ってきます」


「俺との話の途中だろって言いたいけど、さっさと行ってこい」


 僕の現住所を一番変えて欲しいの代筆屋だもんね。

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