第383話 まだ飲んだうちに入らない
「まあ、とりあえず酒が回る前に仕事の話をしようや」
とビールが半分くらいまで減ったジョッキを手に話を変えたのはエリスさん。
「今日のあれこれはカズヤの危機を救うためだったから、報酬を請求したりはしねーけど、明日からあの娘ッ子をパワーレベリングするってなら、それは依頼、だよな?」
「そうですね。一人につき一日金貨5枚だと考えていますが、どうですか?」
相場よりやや多いけど、パーティメンバーに払うのだからそれくらいでもいい。
「魔石は?」
「15層スタートですけど、そうだなあ。半分を依頼主である僕が受け取って、残りを僕に先払いしてください。こっちでの飲食や買い物代に充てますよ」
エリスさんはジョッキの残りをぐいと煽って、テーブルに置いた。
「それなら、まあ、いいか? あたしはいいけど、皆は?」
「私はそれでいいですよ」
「私も!」
「アタシもそれでいいぜ」
これで全員の同意が取れた。
「じゃあ、そういうことで。今日の飲み食いは当然僕が出しますから気にしないでくださいね」
「最初から気にしてないが?」
まあ、確かにそんな感じだよね。
僕とアキちゃんは命を救われたわけで、報酬は無しだとしても誠意を尽くすのは当然だ。
とりあえず店員さんがタンの次に注文した肉を大量に持ってきてくれたので、それぞれが飲み物を追加注文して僕が率先して肉を焼いていく。
「肉の焼き加減の好みは教えてくださいね。勝手に網からは取っていかないでください。レアな焼き方が好きな人が、次々肉を取っていって、しっかり焼けているほうが好きな人がまったく食べられない恐れがあります。その辺調整しながら配りますからね」
「分かった分かった」
それから僕は肉焼き係として焼いて配って焼いて配ってし続けた。
人気なのはバラとかカルビか。
焼き加減はシャノンさんとエリスさんがレアでもガンガン食べて、ロージアさんとニーナちゃんはわりとしっかり焼いて欲しいみたいだ。
「焼きたての肉をこういう風に食うのも悪くねーな! 酒とも合うし、最高じゃねーか。このタレも美味い! これが牛肉か。アーリアでも食えりゃいいのにな」
「日本の牛は美味しくなるようにこだわって育て方も考えられているらしいですから、アーリアでは味が違うかもしれないですね」
「育て方?」
シャノンさんが聞いてくる。
純粋に家畜に育て方なんかあんの? という感じなんだろう。
囲いを作って餌やるだけじゃん、って思ってそう。
「日本だと例えば餌にビールを与えたりするとか聞いたことありますね。真偽は確かめてませんが」
「こいつこれ飲んで育ってんの!? もったいねぇ!」
肉とジョッキを見比べるシャノンさん。
別にあなたの飲む分を飲まれたわけじゃないんだからいいじゃないの。
「だけどそれによって美味しくなるんだったら?」
「くぅ~、しゃあねえ。お前は酒飲み仲間だ!」
それ今から食う肉にかける言葉じゃないんですよね。
「それで15層だからですと、一日では20層くらいまで進むのが精一杯ではないですか?」
ロージアさんが仕事の話に戻してくれて助かる。
「護衛が必要なのはアキちゃんだけですし、道順も23層到着までは分かっています。そこまでは僕がアキちゃんを背負いながらダッシュで、そこからは地図を作りながら可能なところまで進む感じにしたいですね」
肉を焼きながら明日の目標を伝える。
「パーティ編成はどうするんですか? アキさんがパーティに入るのは当然として、誰が抜けます?」
「うーん、実はメルには明日も別件で頑張ってもらいたいんですよね。まあ、効率上げるために僕は抜けてていいと思うけれど、そうだなあ。効率最優先なら、シャノンさんとアキちゃんの二人パーティにしてシャノンさんに単独で敵を倒していってもらう形かなあ」
「あたしじゃなくて?」
「これは僕の感じてることなんですけど、エリスさんのほうがサポートに適してると思うんですよね。二人は強さに差は感じないけど、シャノンさんのほうが殲滅速度は早い、と思う。だからこういうときはシャノンさんをメインアタッカーに、エリスさんをサポートアタッカーに据えたい、というのが僕の判断なんだけど、メルはどう思う?」
そう水を向けると、メルはもぐもぐしていた肉を飲み込んでから言った。
「今回の臨時編成はロージアさんがリーダーだと思うから、ロージアさんにお任せかな」
「そうですね。最初はカズヤさんの提案通りでいいと思います。敵の強さを見ながら適時、メンバーの修正をしたいですね。たとえばシャノンさんとエリスさんの二人前衛を入れる場合や、私を加えて、あるいは加えずに強化魔法を使う場合など、今後、カズヤさんの家族をパワーレベリングするときの情報を少しでも得ておきたいです」
「後で情報共有よろしくね!」
「はい。任せてください」
よぉし、ロージアさんにはちゃんと育てたこの大きなカルビをあげよう。
まあ、どうせ全部僕の奢りだから、何をどう食べてもらってもいいんだけど。
「そういや白米を頼んでないな。僕は食べるけど、他にご飯いる人は?」
「白米? 粥とかパエリアにして食うやつだよな?」
「あー、そういえばアーリアで白ご飯って見たことないな。食べ放題じゃないし、残していいから全員分頼むか。メルもいる?」
「いる!」
メルはもう日本食には慣れたもんだもんね。箸もちゃんと使えてるし。
他のメンバーは海外客向けのナイフとフォークを使っている。
ククク、タレを付けた肉を白ご飯にポンポンして食べた後の、タレの付いたご飯の旨さを知るがいい。
なんで、悪役みたいに言った、僕?
あと、ついつい白ご飯にお肉をポンポンしちゃうのはなんでなの?




