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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第380話 自分たちで肉を焼く

「それじゃメルとカズヤの結婚を祝して、乾杯!」


 シャノンさんが音頭を取って、それぞれがグラスを掲げ、飲み物に口を付けた。

 当然メルは僕の隣だ。

 なんだかいつもより距離が近い感じがするのは気のせいだろうか。


「ぷはーっ、いやぁ、感慨深いな。つっても半年ちょっとくらいか」


 乾杯が終わるや否や思い出話が始まる。

 まあ、結婚の祝いの席だし、そうもなるか。

 本当の結婚かというと疑問符が浮かぶんだけど、メルも特に否定しないし、埋められる外堀なら埋めるぞ。僕は。

 誰かの影響を受けている気がする。誰だろうなあ。


「この麦酒、雑味がなくて美味いな。それにしても考えてみりゃとんでもない半年だった。ガキ二人がドラゴンを倒すんだって現れてよ、まだレベルは一桁と来たもんだ。普通なら相手にゃしない」


 キンキンに冷えたビールを喉に流し込んだエリスさんが言った。


「パワーレベリング自体は聞いたことがあるが、アーリアでは珍しいよな?」


「少なくともあたしは聞いたこと無いね」


「だよなあ。金持ちがボンを欠けのあるパーティに捻じ込んで、ってのはたまに聞くけど、パーティ全員をパワーレベリングってのは聞いたことがない。攻略ギルドくらいか? アーリアには無いしな」


「私も20層のドラゴンと言われたから、レベル20ちょっとくらいまでかなと思ってたわぁ。普通はドラゴンが20層にいないなんて知らなかったし」


 ロージアさんが赤ワインを口にしながら言う。

 謎の吸血姫感があるな。謎の。

 多分、背景のお花のせいだと思う。幻視だけど。


「レベル40まではあたまおかしいよな。実際やりすぎだったし」


「そうは言っても30層ドラゴンに一回敗走してるじゃないですか」


「あれはお前のミスだろうが。普通にやってたら勝ってたっつーの」


 それを言われたらぐうの音も出ないね。


「20層のドラゴンは、後ろから見てた感じだと25層のサンドワームくらいでしたか?」


 どうやら焼き肉店のオレンジジュースはニーナちゃんのお気に召したらしく、もうグラスは半分くらい減っている。


「まー、もうちょい上かな。気合い入れて臨んだから、後衛から見たら弱く見えたかもだけど、それくらいの強さはあった」


「30層ほどではなかったですよね」


 とはロージアさん。


「それはそうなんだよなあ。あいつなんで受肉してたんだろうな」


「こっちの殺人機械キルマータもそうだったけど、ん? あれも受肉で良いのか?」


 エリスさんが首を傾げた。

 やっぱそこ引っかかるよね。


「ダンジョンから外に出た魔物が魔石を失って受肉するのは、まあ常識だよな。あのドラゴンは解体されたが、体内から魔石は見つからなかった。一般的な受肉をしていたということになる」


 あ、やっぱりそうなんだ。

 メルのことがあってドラゴン解体の顛末は聞いてなかったんだよね。


「とは言え、ドラゴンが一回出てきてまた戻ったなんて話はありませんしね」


 ロージアさんが補足情報をくれる。


「基本的に魔物は階層を超えないとされているしな。ポータルに寄ってくること自体が無いし」


「ポータル周辺は安全地帯ですもんね」


「とは言え、ポータルを介さないで階層を超える可能性はあるよな」


 エリスさんがそう言ったので僕はびっくりした。


「そうなんですか?」


「これはギルドは認めていないし、自分でも確かめていないから、真偽の分からない話だが、とあるポータルからまったく違う階層のポータルに辿り着いたという逸話がある」


「ああ、ハッフベイクの遭難か。逸話というよりおとぎ話じゃね?」


「それ知ってます!」


 ニーナちゃんが手を上げる。

 アーリアでは知られた話なのかな?


「ダンジョンの中に町を作ろうとした人のお話ですよね!」


「よく知ってんな。冒険者が知ってるだけだと思ってたが」


「ダンジョンの中に、町?」


「理論上は可能だろ。例えばアーリアのダンジョンだ。色んな自然環境があって、特に浅い層は草原だったり、森林だったり、人が住むことに適した環境が、それこそどこまでも広がってる」


「でも魔物が出ますよね?」


「それはダンジョンの外でもそうだろうが。何のために結界装置があると思ってんだよ」


 確かにそうか。

 魔物が入ってこられない空間が結界装置によって得られるのであれば、ダンジョンの中に人の住む空間を作り出すことも可能だ。


「でも逸話ということはうまく行かなかったんですね?」


「うーん、伝聞だからな。うまくやってるところもあるんじゃね? アーリアではダンジョン内に土地を求める必要は無いというか、そんなことするのは犯罪者の類いだけだ。だけど砂漠の国があるとして、そこのダンジョンの中に豊かな森林地帯が存在していたら? 当然そっちに移住を考える。だから完全なホラ話というわけでもないと思うんだが」


「エリスさん、要点がズレていますよ」


「だな。ハッフベイクは冒険者というより、探検家だった。町を作ろうとしたというよりは、拠点って感じだ。こいつは奥に潜るんじゃなくて、ある層を探検し尽くそうとしたんだ」


「拠点と言っても結界装置は決定的な欠点がありますよね?」


 巨大な魔石を使うことで魔物の入ってこられない空間を生み出す結界装置だけど、これは一度発動するとその場所から動かせない。魔石を取り外して結界を解除すれば動かせるようになるけれど、その際、魔石は失われる。

 価値の高い魔石を山ほど抱えていかなければ、移動拠点としては使えない。


「なので一定距離ごとに拠点を作って人を残したんだ。こまけー話は置いておいて、最終的にハッフベイクは、何層かズレたポータルに辿り着いたとされている。これはつまり、ダンジョン内であたしらは階層間をポータルで移動するけど、実際にはひとつの世界の中で場所を移動しているだけじゃないかという考えだ」


「はー、まあ、確かにあり得ない話ではないですね」


 考えたこともなかった。

 ダンジョンってのはそう作られたエリアのことで、当然広さには限りがあるものだとそう思い込んでいた。


「おまたせしましたー!」


 そこで最初の肉が届く。

 よく分からんからと注文を任せられたので、とりあえずタンを人数分頼んだので、広い皿に薄切りにになった牛タンがずらりと並んでいる。

 僕は真っ先にトングを取った。

 皆は勝手が分からないだろうしね。


「とりあえず僕が焼き係をするから、慣れたら自分でもやってね」


「へぇ、自分で調理するんか。なんで?」


 アーリアで外食とは調理済みのものが出てくるのが当たり前だ。

 自分で調理するなら、店には行かない。


「焼き加減には好みがあるからね。一旦僕の好みでやるけど。あ、生肉はお腹が痛くなるから、絶対に触ったものを口に入れないようにね。生焼け肉を勝手に口に入れないように」


「まあ、そりゃそうだろうな」


 そう言うけどドラゴン肉は半生で平気で食っとったやないかい!


「お腹痛くなっても回復しますよ!」


「もしかしたら生肉に浄化を使えば大丈夫かもしれないけど、浄化って熟練度いくつの魔法だっけ?」


「18ですね」


「なるほどね」


 浄化の魔法が生肉の細菌を死滅させるとしても、それがお店に普及するのは難しそうだ。


 ところでメルさん、ずっとぴったりくっついてくれるのは嬉しいんだけど、肉を取りにくいです。

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