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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第377話 人間第一印象がすべて

「あのねえ、ヒロくん。熱く語るのはいいんだけど、一般的にカラオケは楽しい時間を得るための対価としてお金を払っているの。歌うのも、聞くのも、聞かずにおしゃべりするのも、楽しければオールオーケーなのよ」


 なん……だと……。


 咲良社長にカラオケ屋のシステムについて力説した僕はあっさりと返り討ちにあった。


「あなたが言っていることは、ビュッフェに来たのに、原価がどうだの言って、得をするんだと、原価率の高い品ばかり無理矢理にでも食べてる客みたいなものよ。時間を楽しめ!」


 ぐああ、そんな客になるまいと思っていたそれになっていたというのか、僕は。


「つまりカラオケ店とは自由に歌が歌える空間で友だちと駄弁る時間を買っているということですか。僕、カラオケはコミュニケーションの戦場だと思ってたんですけど」


「なにそれ?」


「皆が知っていて、なおかつ歌える曲を、場の空気から察する戦いです」


「そんなん好きに歌いなさいよ。というか、それのできる人とカラオケに行きなさい」


 人生の問い、人によって答えが違いすぎない?


「そもそもですね、僕の好きな曲ってマイナーすぎて、曲を知っている人が周りにいないんです」


「ほう。例えば?」


 僕は曲名を挙げるが、咲良社長もアキちゃんもピンときてないようだったので、アーティスト名を告げるが、それも同じだった。


「分からん。歌ってみ」


「カラオケで盛り上がるようなタイプの曲じゃないんです」


「いいから歌え」


 デンモクをぐいぐいと押しつけられて、僕は仕方なく曲を入力する。


 うーん、前奏長い曲ってこの時点で演奏停止押したくなるよな。

 なんとか歌いきって、リピートが繰り返されるところで、また演奏停止を押したくなるけど、誘惑に耐えきって、リピート終了。あとちょっと曲は続くんだけど、僕はデンモクに手を伸ばした。

 すると咲良社長がさっとそれを取り上げる。


「あの、もう歌うパートは終わったんですが」


「ヒロくんはこの曲が好きで歌ったのよね?」


「はい。もちろんそうです」


「例えば家で聴くときに、歌の部分が終わったからと言って、そこで次の曲に行く?」


「いきませんよ。でもこれはカラオケで、歌いに来ているのでは?」


「それは歌う側の論理じゃい! こっちは知らない曲聞かされて、しかも曲の終わりまでカットされたら、訳分からんままなんじゃい! せめて曲の最後まで聴かせんしゃい! 勝手に終わらすな。聴いてるほうが中途半端のまま曲が一生終わらんのじゃ」


「おおう」


 確かにそうだ。

 歌い終わって音楽だけ流れてる部分って気まずくって飛ばしちゃってたけど、自分はそこのラスト一音まで好きだから、この曲を歌ったんじゃないのか?


 そして音楽が止まる。

 誰も予約を入れていないから、カラオケ機の流す映像が自動で流れ始める。


「ええと、ぶっちゃけた話、よく分かりませんでした。歌が下手で」


「ごふっ!」


「音が外れてるというより、キーが合ってなかったよね? これ女性ボーカルの曲じゃない?」


「げふっ!」


 僕は席の背もたれからずり落ちて、座面に横たわった。


「そうです。女性アーティストの曲を原キーのまま歌って、高音についていけませんでした。僕ではこの曲の魅力を引き出せない」


「まあ、たぶん上手く歌えてたとしても、あんまり盛り上がるタイプの曲じゃないわよね」


「僕、最初にそう言いました」


 どろどろと僕は座面で溶けてスライムになりそう。


「でもヒロくんは、この曲が好きなんだなあって気持ちだけは伝わってきたわよ。こういう曲が好きなのね。いいのよ。私たちは、ヒロくんの好きを知れて嬉しいから。ね、ユウもそうでしょ」


「うん。今度原曲を聴いてみるね」


「マジで原曲がいいから、一回聴いてくれ。ただしcoverには気をつけるんだ。なんで元のアーティストが完璧に歌っている曲をcoverするんだ。自動再生で流れてきた時にテンション下がるんだよ」


「わぁ、こういうヒロくん、新鮮で可愛いかも」


「そうねえ」


「その点、初音ミクが初出の曲はいい。歌い手ひとりひとりが曲を解釈して、それぞれにその曲を歌ってる感じで、クラシックとかオペラに近いものを感じる。個性による違いも、そういう演出として楽しめる。ただしあたかも自分の曲みたいに宣伝するヤツはクソ。そのまま自分の曲にしてしまうやつは死ねばいい。wikiにもそいつの曲みたいに書かれてたりして、マジでテンション下がる」


「面倒くさそうなこと言い出した」


「ヒロらしくて、これも可愛い」


 咲良社長と長柄秋は、座面に横たわったままぶつくさ言う僕をつんつんと突いている。


「ユウ、それは痘痕あばたえくぼよ」


「あばたもえくぼ?」


「好意を持っていると悪いところも良く見えちゃうってこと。よく第一印象が大事っていうでしょ。それはね、最初の印象がいいと、第二第三の印象も良い方に見てもらえるってことなの」


 僕は起き上がった。


「その話、興味があります」


「復活した」


「うーんとね、例えばある日、事務所に髪の毛ボサボサの、肩にはフケのついたヨレヨレの服を着た若い男性が現れました。どうやら社長と知り合いのようで、彼がマネージャーになりました。ユウ、プラマイ100点で評価して」


「えー、社長のコネでねじ込まれた人かなあ。あんまり良い気持ちはしないよね。マイナス70点くらい?」


「その男性はユウの行動をいつもじっと見ています」


「うわ、なんかやだ。マイナス100点」


「そしてカラオケに同行する機会があって、彼は全然空気の読めてない曲を熱唱し、ご満悦です」


「マイナス200点」


 限界突破しちゃった。


「ではヒロくんに置き換えて見ましょ。イケメンっていうほどでもないけど、清潔感のある若い男性がマネージャーとしてやってきました。同じように評価してみて」


「まあ、欲目抜きで50点くらい?」


「その男性はユウの行動をいつもじっと見ています」


「マネージャーだもんね。ちゃんと見てくれてるのかな。70点」


「そしてカラオケに同行する機会があって、彼は全然空気の読めてない曲を熱唱し、ご満悦です」


「これ、ヒロとして考えて良いの?」


「いいわよ」


「じゃあ300点」


 結局欲目が入ってんじゃないの?


「つまり2と3が同じでも第一印象によって受ける印象が逆転する場合もあるのよ」


「つまり行動や内面で評価してもらうには、そもそも第一印象が良くなければプラスにならないということですか?」


「必ずではないけれどね。相手に好意があればじっと見られているのって、自分に興味を持ってくれているのかな? っていい気持ちになるけれど、相手に不快感があったらじっと見られているのって、もう恐怖しかないわけ」


「マジかあ……」


 僕は両手で顔を覆う。


「ヒロくんはちゃんと第一印象に気を遣ってるじゃないの」


「いま過去の自分が追いかけてきてます」


「そうなんだ。前のヒロくんがどんなだったのか興味があるわね」


「もう最悪なんで止めてください」


「それでもきっと私たちは垢抜けないヒロくんのことを可愛いって思っちゃうのよ。それがいま言ったことなの」


 社長、そろそろ隠してくれないと僕も素知らぬ振りを続けるの辛くなってきました。

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