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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第371話 怒られるために連絡する

 まるで猫のように僕に体を擦りつけておいて、僕が思わず抱きしめようとするとメルはするりと逃げていった。

 その手にはもうスマホが握られていて、誰かと通話中になっている。


「うん、うん、分かった。すぐに行くね」


 聞き耳スキルの発動は間に合わなかったけれど、画面には[ユウくん]と出ていたので、小鳥遊ユウへと電話をかけたのだろう。

 いつ連絡先交換したの?


「みんな服選びに夢中だって。私たちも行こ」


 まあ、二時間はかかると最初から思ってたし、当然ですよね。


 なんで僕は二時間の余裕を取ってたんですかね? 分からないです。


 僕らはルミネからユニクロに移動する。

 なんで前回ファストファッションってぼかしたのに、台無しにするの?


 店内で最初に見つかったのはエリスさんだった。


「おい、カズヤ! これはいくらで、あたしはいくら持ってるんだ?」


「服のどこかにこういうタグがついてて、そこに書いてあるこれが値段。エリスさんは……」


 僕は考えるのを止めた。


「どれでも買えるから、好きに一式選んでいいよ。いま着替えるためだからね。それ以外は禁止で」


「着ぶくれしていいか?」


「また今度、好きに買い物できる機会を作るからそれはやめてください」


「そうか。じゃあいま着たい服を自由に選んでいいんだな」


「試着もできるから、その時はアキちゃんか、メルに声をかけて。慣れたら自分で店員さんに話しかけてもいいから」


 もう色々と諦めた僕はそういうことにした。


「アキちゃん?」


 メルが首を傾げたんので説明しておく。


「小鳥遊ユウの本名が長柄秋って言うんだ。それでアキちゃん。僕は彼女を女の子として扱うことにしたから、今後もそう呼ぶ。これは決まったことだから、僕はそうする」


「ふぅん、まあ、それはそれでいいよ」


「じゃあ、メルは他のメンバーも見つけていまの感じで伝えてくれたら嬉しい」


「ひーくんは?」


「僕は咲良社長に連絡してくる……」


 気が重いけどやらないわけにはいかないんだよなあ。


 僕は一旦店から外に出て、咲良社長に電話を掛ける。

 ワンコールで繋がる。


『無事だったのね!』


 第一声がそれで、僕は電話が遅れたことを申し訳なく思う。

 そうだよな。花伝咲良はそういう人だった。


「すみません。ダンジョンの中でちょっと出られない状況になってました。今は無事に出ています。小鳥遊ユウも無事です。傷ひとつつけてませんよ」


『ならいいんだけど。……よくないんだけど。ユウにはLINEしてあるけど、ユウは昨晩ウチに泊まったことにしてあります』


「そうなんですか?」


『やりたくなかったけど、仕方ないじゃないのよ。オリヴィアさんからダンジョンに行ったことは聞いたし、その上で連絡が取れないとなると……、戻ってくると信じてたから、そうしたのよ』


「本当にすみません。ダンジョンでは予想も付かないことが起きると分かってはいたのですが、油断していました。僕のミスです」


『怪我は無いのね? もちろんユウもあなたも』


「……大丈夫です。怪我なんてありませんよ」


 今は大丈夫ですよ。


『ちょっとLINEのビデオ通話にしていい?』


「疑ってません?」


『嘘じゃないなら証明してみせろや』


 浮気を疑う妻かな?


「はいはい」


 僕はLINEのビデオ通話を咲良社長に繋ぐ。


『映る範囲でいいから全身見せてみ』


「こんな感じでいいです?」


『スマホ持つ手を変えてみて』


「なんでそんなに疑うんですか?」


『おめーがなんか誤魔化そうとしてるからじゃい!』


「分かりました。負けました。右手が半分くらい切り飛ばされましたよ。回復魔法で傷ひとつありませんが、服に証拠が残ってます。言い訳はできません」


『自白が遅い! ねえ、それ探索者ジョークとかじゃないの?』


「だったら良かったんですけど。仲間にレベル40回復魔法熟練度21の子がいるので、腕が残ってさえいればくっつくんですよね。今回右肩吹っ飛ばされた仲間も、戦闘中に復帰してきましたし、探索者はそういうもんです」


『いま話しながら調べたけど、そんなことwikiにも書いてねーわ!』


 まあ、こっちの世界のwikiだもんね。

 アーリアにアリスペディアがあったら是非とも読んでみたい。


「諦めてください。僕の常識ではそうなんです。探索者は普通に命のやりとりをしてるんですよ。それは探索者なら誰だってそうです」


『ぐぬぬ、とりあえずいまどこにいるの? オリヴィアさんとは合流した? してるわよね。どうせオリヴィアさんと再会してから連絡してきたんでしょ』


「そんな! そうですけど……」


『なんで一瞬心外だ、みたいな空気出したの? どこにいるのか早く教えろなさい』


「新宿駅の西側にあるユニクロ前ですけど」


『そこのユニクロの中にいなさい。いいわね! LINEで店舗の位置情報送りなさい!』


「浮気現場に踏み込む妻ですか……」


『そうだったらあなたのスマホにそれ用のアプリ仕込んでおくわよ! そうしときゃよかった! ものは相談なんだけど』


「嫌ですよ! 待ってますから来てください。どうせまだ一時間くらいは身動き取れませんから」


『女の臭いがする』


「まあ、オリヴィアがいますし」


『別の女の臭いもする』


「これ電話ですよねぇ!」


 ビデオ通話の画面からは咲良社長が消え、ガタガタと物音と『ちょっと後任せたわ!』とか聞こえてきたので、多分事務所にいたんだろう。

 それなら一時間もかからないと思うので、僕はそっと通話を切った。

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