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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第368話 ネジを外せ

 武器を拾いに行って、前線復帰。


「カズヤ! なんかありそうだが、芯を外してる感じだ! どこを狙えばいい!」


 エリスさんは防戦一方かと思いきや、反撃で何かを掴みかけている。

 マイナスドライバーには何かがある。

 僕のステータスでは足りないのだと思った。だけどエリスさんでも上手く働かないとすると、なんだ?


「狙いは関節部、反時計回りを意識してみてください!」


「どういうことだよ!?」


 アーリアにはネジ構造がまだ無いから、回転で外すというのが感覚的に理解できないのだと思う。

 異世界であることを考えると、どっち周りが正解なのかも分からない。


 けれど時計の回りが地球と同じ向きな以上、おそらくそれが正方向のはずだ。


 アーリアでも太陽は東から昇って、南天を越え、西に沈む。

 日時計は、立てられた杭から伸びた影が、いわゆる時計回り方向に半回転して時刻を教えてくれる。


 これを正方向、つまりネジを締める向きとして設計するのは、感覚的にも、思想的にも正しいはずだ。

 故に逆に回せば外れる!


 となるとエリスさんが攻撃に移れるように、僕が敵の敵意ヘイトを取らなければならない。


 敵意ヘイトとは敵の注意がどれだけ向いているかと示す表現で、具体的に数値化されているわけではない。

 実際には数値があるのだろうけれど、それは僕らに対しては隠されている。

 僕らは感覚的にそれを扱っているけれど、ある程度の法則性は知れている。


 敵性体を発見したとき、ダメージを受けたとき、妨害を受けたとき、敵意ヘイトリストに載っている対象への回復や支援が行われたとき、これらが主な敵意ヘイト上昇判定の発生する行為だ。

 ダメージを与えない攻撃は敵意ヘイトが上昇しない。

 僕はこの殺人機械キルマータの金属外皮を抜けるだけの攻撃をしなければならない。


 エリスさんから受け取った剣を振る。金属音を立てて、刃の腕に防がれる。

 ダメージを与えるためには、どこを狙うのがいい?


 つい考えそうになる思考を、僕は投げ捨てた。


 僕はつい物事を考えてしまう癖がある。

 どうすれば一番効率がいいのかを考える。

 正しくやろうとしてしまうのだ。


 そのために戦闘行為において常に一歩遅れる。

 あらかじめ決めてある行動であればともかく、状況に応じて即時に行動するのは苦手だ。


 だけどいま僕に求められているのは前衛だ。

 敵意ヘイトを引き受ける重戦士だ。


 ならば――、


 僕は思考して、その結論として思考を捨てる。


 飛び込め! 考えない反射の世界へ!


 感情と行動を直接繋ぐ。


 いいか、敵だからぶん殴る。

 反撃はこえーから避ける。あるいは受ける。


 それだけだ。


「うおおおおおおおおおおおお!」


 どこを殴れば効果的かなんかクソどうでもいい。

 こいつは敵だ。仲間を傷つけた敵だ。

 だから殺す。ぶっ壊す!


 乗る。感情が剣に乗る。

 防がれる? 関係ないね。そのまま押し込んでやるよ!

 でも力負けする。


 なら好きに弾けよ。

 僕は弾かれた勢いで一回転し、逆側から斬撃。

 刃は殺人機械キルマータの背中を捉える。


 硬ってぇ!


 じゃあ、もっと強く殴るわ!


 両手持ちに切り替えて、振り上げた。


 お前は薪だ。

 僕は斧だ。


 故に割れる。


 ――わけもなく、だが刃は食い込んだ。


 薪に斧の刃が食い込むように、抜けなくなる。


 こういう時、薪割りならどうするか知ってるか?


「ふぬううううううう!」


 薪ごと持ち上げてもう一回叩きつけるんだよ!


 だが持ち上げて叩きつける前に振り払われる。

 殺人機械キルマータの手がその頭部から刃を引き抜く。

 僕は構わず振り下ろしたが、空を切った。


 殺人機械キルマータの顔がこちらを向いた。

 僕はとびっきりの笑顔を向けてやる。


 取ったぞ!

 敵意ヘイト


「よくやった!」


 エリスさんが称賛の声を上げる。

 その手に握られたマイナスドライバーが殺人機械キルマータの背に突き立つ。

 突き刺さりはしなかったが、関節部に捻じ込まれた。


「えっと、時計と逆!」


 一瞬考えなきゃいけないのやめて!


 ごとり、と、殺人機械キルマータの腕が一本落ちた。

 ネジを外すには明らかに回転が足りなかったが、それは問題ではなかった。


 やはりこのマイナスドライバーは機械特攻武器だ!

 その特性は分解。

 機械の接合部であれば外せる!


「カズヤ、よくやった! 武器渡せ!」


 シャノンさんが戦線復帰してくる。

 うわ、めちゃくちゃ痛そうにしてる。


 僕が剣を投げ渡すと、シャノンさんの一撃で殺人機械キルマータは壁まで吹っ飛んでいった。

 あの、シャノンさん。今のは蹴りです。武器を渡した意味はなに?


「アホが! フェイントだよ!」


 僕は口にしていないので、殺人機械キルマータに向けた言葉だったんだろうけど、ちょっと僕にも刺さったよね。


 僕はシャノンさんが負傷したときに落とした剣を拾いに走る。


「重戦士三人(・・)だ。もう勝ち目はねーよ」


 砲口がシャノンさんに向いたが、発射前にシャノンさんが砲口を剣で弾いて、砲弾は壁に食い込むに留まった。

 剣を手に僕も合流。

 すでに腕を一本失った殺人機械キルマータには為す術もない。


 僕とシャノンさんの攻撃を防ぐのに手一杯で、エリスさんのマイナスドライバーで次々と部品へと解体されていく。


 金属外皮が外れ、その中の機械部が露わになり、そこへシャノンさんが力任せに剣を叩きつけた。

 火花が散って、そしてついに殺人機械キルマータは動きを止めた。


 僕たちは勝利したのだ。

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