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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第351話 僕らは夫婦になった(書類上)

「はい。確かに受理いたしました。おめでとうございます。受理証明書を用意しますのでお待ちくださいね」


 ニッコリと微笑んで窓口のお姉さんは僕らの婚姻届を手に席を立つ。


 婚姻届なんてただの手続きだ。

 という考え方もある。


 契約は双方の合意が形成された時点で成立する、という話は前にしたよね。


 結婚も契約だから合意の時点で実は成立している。


 なので合意形成、つまり婚約以降は、この破棄には正当な理由が必要だ。

 なぜなら契約が成立しているので、一方的に破棄はできない。


 つまりこの前、僕がメルに籍に入ってくれと言って、メルがいいよと答えた瞬間に僕らの婚姻関係は結ばれたと言える。


 なんならこのまま籍を入れなくたって、社会的にあの二人って結婚してるよねって思われるくらいの関係を築いていれば、具体的には3年の同棲生活があれば、僕らは内縁という入籍はしてないけど、事実上結婚しているよねって権利を主張できる。


 もちろん入籍していない分、主張できる範囲は狭まるけど、実は結婚って入籍は絶対条件ではないんだよね。


 つまりあの時点で僕らは結婚していた?


 他人から認められるかどうかという点を気にしないのであればそう言うこともできる。


 できないか。

 できないよね。

 そうだよね。知ってた。

 ちょっと無理言いました。


 メルは偽装の身分を手に入れ、その戸籍を分籍し安全性を増すために僕と書類上の結婚を了承したのであって、僕との事実的な婚姻関係を承諾したわけではない。


 ちょっと話がズレちゃうけど、これは真面目な話だから、一回聞いてほしい。


 性的な交渉に正当な理由がないまま、まったく応じないというのは離婚事由として認められる。

 つまり性交渉の断絶は婚姻という契約関係が破綻していると法律が見なすだからだ。


 これは逆に考えたら婚姻関係は性的な関係が前提になっているということだ。


 メルは僕とそういう関係を認めたかどうか?


 いいえ。


 なので僕らは結婚していません。

 事実というものはいつでも悲しいね。


 なんてことを考えているうちに、婚姻届の写しをくれた窓口のお姉さんは、今後の手続きについて説明を終えていた。


「なんだかあっさりだね」


 と、メルが物足りなさそうに言う。

 結婚って人生の一大事だからもっと色んなことが起きると思っていたんだと思う。


「まあ、これは手続きだけだからね。本当の結婚ならお祝いの会をやるんだよ」


「えっ! やりたい!」


 ぴょんと飛び跳ねてメルが僕の服の袖をぐいと引っ張った。


「えっ?」


 そのメルの行動と言葉に僕はあまりにもびっくりしてリアクションが取れない。


 だってさっきまで考えてたことが考えてたことなので、メルからの接触はちょっと、あの……。


 そんな僕の困惑っぷりにメルもメルで困惑したようだった。


「え? お祝いってすごーく楽しくない?」


 あまりにも純粋なメルの意見に僕は自分の闇が浄化されるのを感じた。


 そうだ。

 パーティなんて理由をこじつけて何回やったっていい!


 だけど、流石に結婚式は何回もしたらマズいって。


「ああ、うん。あのね。メル。それをすると皆に僕らは結婚しましたというお報せにもなるんだよ。社会的にも本当に夫婦になってしまう」


 僕がそう言うと、メルは袖から手を離して、腕を組むと、むむむと唸りだした。


 メルらしくない長考だ。


 そんなに悩まなくてもいいじゃん……。


 僕が悲しみに心の中で涙をほろりと流していると、ようやくメルの中でなんらかの整理がついたようだった。


「う~~~~~ん、それは困っちゃうねぇ。でもお祝いの会は気になる! どんなの? どんなのなの?」


「僕も参列したことはないし詳しくはないなあ。今度式場でも見学に行く?」


 僕はさりげなく自分の欲望を……、さりげない?


「行ってみたい!」


「よし、予約しとく!」


 せっかくだから東京にいるうちに見学しときたいよね!


 違うぞ、これは外堀を埋めようとしているわけではない。

 やめろ、イマジナリー鳴海カノン。

 なぜ同じ日に同じ式場の予約を取ろうとしているんだ!


 そういや樋口湊と樋口アナスタシア恵里が式場見学っていいのかな?


 先に入籍だけして結婚式は後からって夫婦は別に珍しくないか。

 うん。別におかしいことではない気がする。


 とは言え、三津崎から樋口に姓が変わったことによる影響は結構大きい。


 現代日本では結婚では女性の姓が変わるのがまだ一般的だし、三津崎名義での活動はほとんどしてないのに、少なくとも銀行口座の名義変更手続きは必要だ。


 うーん、面倒だなんて言ってはいけないんだろうな。


 これが僕の思い込みならいいんだけど、社会が女性に対して姓の変更という多大な手続きを押しつけていたという感覚がある。

 自分の身に降りかかってきたから気付いただけで、それを当たり前だと思っていた自分が怖い。


 結婚後も夫婦ともに生来の姓を名乗り続けるのが当たり前にするべきじゃない?


 一方で家族という枠組みの姓は別途必要だと思う。


 そこが選択制じゃなくて自由に作れたらいいな。

 もちろん入籍時に限るべきだけど、姓を自由に決められる社会でもいいんじゃない?


 家の名前を守りたいならそうすればいいし、そうじゃなかったら変えられるという権利があってもいい。


「そういやアーリアにはファミリーネームって無いよね?」


 メルは本名がメルシアで、特にファミリーネームがあるような話は聞いていない。


 メルにとって家族はとても重要な要素だから、あれば絶対に話してくれているはずだ。


「そうだね。貴族の人が領地名を名前に付けることはあるけど。普通の人にはそういうのってないね。名前にもあんまり種類がないかな。人の名前ってこれって決まりがあって、法律とかじゃないんだけど、そこから外れると変な人って思われちゃう」


「じゃあ、例えばメルのことを、メルのいない場所で指して誰かに言いたかったらどうしたらいいの?」


「今の私なら冒険者のメルシアで通じると思うよ。そんな感じで、何をしてる誰それみたいな言い方が多いかな。被りがあるなら、属性を付け足す感じ。だからアーリアの外でだったら、アーリアの冒険者のメルシアって感じ」


「なるほど。そんな感じなんだ」


 そうらしいぞ、歌舞伎町の代筆屋!

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