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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第350話 今日という記念日の始まり

 2023年8月23日が始まった。


 冷房の効いたホテルの部屋で目覚めた僕はまずはアーリアへとキャラクターデータコンバートする。

 こっちも夏なんだけど、東京みたいな蒸し暑さはなくて、カラッとしてるから気持ちがいい。

 まだ時間が早いということもあるだろうけど。


 メルはすでに僕の部屋で待っていた。

 アーリアの僕の部屋でスマホをポチポチしているアーリア人という目眩がしそうな光景だ。

 画面を見るに、ダウンロード済みの漫画を読んでいたのかな。


 すっかりスマホに毒されちゃって。


「おっはよ! ひーくん! モバイルバッテリー貸して!」


 うん。

 一日充電できなかったから、そら限界だよね。

 こうなるかなと思って用意してあるよ。モバイルバッテリー。

 iPhoneはMagSafe対応してるモバイルバッテリーがいいよね。

 ペタッとくっつけるだけで充電開始するのは神。


 どうやらメルは本調子に戻ったようだ。

 こうして見ると、やっぱり東京での濃密な日々はアーリア人であるメルにとっては負担が大きすぎるんだろうな。

 日本人の僕ですら、人の多さだけで酔いそうになるもん。


 僕の地元が田舎すぎるか。

 奈良の中でもどちらかというと田舎のほうだからね。

 まだアーリアのほうがよほど都会である。


「おはよう、メル。君をちゃんとメルと呼べるのがこんなに嬉しいなんてね」


 僕がそうぼやくと、メルは首を傾げる。


「オリヴィアでも私は嬉しいよ。リヴって呼んでくれてもいいのに」


「ごめんね。僕の中では大事な一線なんだ」


 リヴというのはメルのお父さんがお母さんを呼んでいた愛称だと聞いている。

 メル自身はそんなに気にしていないし、観客にもリヴって呼んでと呼びかけている。

 きっと彼女にとってはなんでもないことだし、むしろリヴって呼ばれるほうが嬉しいんだろう。


 でもさ、なんていうの、僕がメルをリヴって呼ぶと、なんか彼女の両親に自分たちを重ね合わせているようで自意識過剰なんだとは思うけど、ほら、まだ早いよね。


「そういうところなんだよねえ」


「なにが?」


「ひーくんがひーくんだってコト」


 いつだって僕は僕だよ?

 入籍しても樋口湊だからひーくんだしね。


「はい。パーティ申請送ったよ。日本に戻ろ」


 僕はメルから来たパーティ申請を了承して、キャラクターデータコンバートで日本のホテルの部屋に移動する。

 メルが日本に[戻ろ]と言ったことが嬉しいような、くすぐったいような、でもなんだか寂しいような気もする。


 変な話だけど、彼女にはあっちの、つまりアルテリアという世界のアーリアという町で生まれ育ったメルであってほしい。


 僕らは違う世界の二人だから出会ったし、違うところがたくさんある。


 いつも一緒にいる僕らが似てくるのは当然のことなんだけど、この違いを大事にしていたいだなんて思う僕は変かな?


「さて、今日の予定を確認するよ。13時からステラリアのレッスンやなんやかんやで20時くらいまで予定がある。その後メルは橘メイと一緒に彼女の部屋に行ってチャンネル登録者に登録ありがとうと言う生配信をして欲しい。具体的なことは橘メイにお願いしておくから、メルは今晩やる配信が生配信。つまりリアルタイムで世界中に見られているということを意識して欲しいんだ」


「世界中に……、パパやママも見るかな?」


「難しいと思う。こっちの世界にいるとしても、今日の配信はオリヴィアに興味のある日本人のほんの一部しか見ない。こっちには80億人くらいの人がいて、今日見に来る人は多くて数万人くらいだ」


 全世界の人に認知してもらうには、まだまだ遠い。

 流石にネット系のニュースなんかでは取り上げているところが結構ある。

 過去にバズった謎の女の子がライブに現れた、というのは、話題になっている。


「ただオリヴィアがパパとママを探すために活動を始めたという話はして欲しい。つまりオリヴィアの目的をはっきりさせるんだ。名前が母親のものだということも言っていい。目的地の共有は視聴者にとっても分かりやすいストーリーになる」


「うーん、難しいことはよく分からないけど、私はパパとママを探したくって、ママの名前を使って配信者になりましたって言ってもいいんだね」


 それだけ分かっていれば必要十分だ。


「というか、どこかのタイミングで必ず言って欲しい。あともしも日本語以外のコメントがあったら積極的に拾って行って。メルの多言語能力は僕らにとっては売りのひとつだ。今後の展開を考えると、ここで拾えると大きい」


「んと、その二つは分かったよ。それ以上は覚えらんないかも」


「基本的な流れは橘メイに任せておいて大丈夫だと思う。橘メイはちょっと感情的なだけで悪い子ではないよ」


「ふぅん……」


 いだっ! なんで蹴ったの?

 昨日のは僕の妄想のメルですよね?


「メイちゃんとは一回おはなししておいたほうがいいと思ってたんだ」


「そうなんだ。ちょうど良かったね」


「うん」


 橘メイ。もしかしたら今日が君の命日だ。


「問題は夕方以降は僕が別行動なんだよね。橘メイの家までは橘メイが連れて行ってくれるけど、メルはまだこっちでの移動に慣れてないよね」


「ん~、遅い時間ならメイちゃんのところに泊まろうかな。そのつもりで準備していくね。それが駄目だったらタクシーを使うよ」


「オーケー。じゃあここのホテルだって分かるように、フライヤーかなにかがフロントに置いてあったと思うから、それ持って行けばいいか」


「ひーくんの用事は結界装置の話だっけ?」


「そうそう、見積もりが出てるはずなんだ。昨日結構稼げたからお金の問題は無い」


「ん、分かった。それはひーくんの計画だもんね。えっとお昼からだとまだ結構時間があるね」


「それなんだけどさ」


 僕はドクドク強く脈打つ心臓が落ち着くように願いながら、続きの言葉を口にした。


「一緒に婚姻届を出しに行かない?」

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