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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第349話 中の人はいます

 通りに出たところで待っていたタクシーに神立さんの名を告げると、アプリで呼んだタクシーで間違いなかったので、神立さんを促して、自分も乗り込んだ。


「ひとまず近くの駅へ。神立さん、どこで飲み直すんですか? タクシーで行きますか?」


「駅前で適当に店に入るよ。運転手さん、ぶつくさ文句を言っても大丈夫な店ない?」


「そんなの歓迎してくれる店はないよ。俺の紹介だって言われても困るし、駅前で降ろすから適当に入ってくれ」


 そうして駅前にタクシーが到着すると、神立さんはフラフラした足取りで繁華街のほうへと消えていった。

 あの人、いま帯封切ってない札束持ってるけど、大丈夫かな?


 その背中を見送って僕はホテルに戻るための電車に乗り込んだ。


 なんだか一人でゆっくりするのすごく久しぶりな気がするけど、これ、この数日が濃密すぎるだけだよね。


 SNSをチェックして返事をしていく。


 なるほどなー。

 電車でスマホを見てる人ばっかりで、何を見てるんだろうって思ってたけど、移動時間の有効活用なんだ。


 各グループへのSNSでの連絡って、本腰を入れるとものすごく時間を消費するし、やりとりが発生すると終わらないけど、電車移動時に限れば、区切りもできるし、他にできることもないのでちょうどいい。


 今村さんからもメッセージがいっぱい来てるけど、読める量じゃないな、これ。


『ごめん、いま忙しくて、また連絡します』


 とだけ送っておく。


 大丈夫。約束を忘れてるわけじゃないよ。


 ただ、なあ。


 僕はメルから預かっているiPhoneを取り出した。

 アイコンの上に出てる通知の数を示す数字が軒並み四桁に行ってて笑うしかない。


 YouTubeのチャンネル登録者数は83万人を超えた。

 明日にも100万人に届くかもしれない。


 咲良社長にLINEを送る。


『すみません。オリヴィアのチャンネルが明日にも登録者100万人行きそうなんですけど、配信機材って貸してもらえたりしますか?』


 返事は割とすぐに来た。


『うちに所属する人の配信は基本自室かスタジオなんだけど、タイミング読めないわよね。うちも今は余裕が無いし、100万人待機とかは止めたほうがいいんじゃない?』


『そうなんですけど、やっぱり節目じゃないですか』


『それは下積みに苦労した人の台詞よ!』

『用意してたけど、間に合わなかった配信でいいんじゃない? ちょうどいいからメイの家で不仲説を否定してきてよ』


『たとえ二人が大げんかしても僕は関係ないですからね』


『いっそヒロくんの名前を出して炎上しろ』


『契約違反だ!』


 僕らにはお互いのために努力するという契約があるはずだ。


 とは言ってもこれはただのじゃれ合いだ。

 僕らはそれなりに気の置けない仲になってきたということだろう。


『冗談はさておき、明日でしょ。今からスタジオを抑えるのは難しいわね』

『ユウの家はご両親がいらっしゃるし、カノンのところか、メイのところか』


『鳴海カノンの部屋なら知ってますけど、なんと言いますか』


 謎の既成事実作られそうで怖いんだよね。


『メイのところなら良いってもんでもないでしょ。ただ個人的にはメイのところで不仲説を否定してきて欲しいけど』


『本人が嫌がりません? オリヴィアは別に嫌がらないとは思いますが』


『いま一緒じゃないの? メイには一応聞いてみるわね』


『僕らだって常に一緒にいるわけではないんですよ。確認をお願いします』


 そこで一旦やりとりは途切れる。


 うーん、OriviaChallengeアカウントは、SNSによっては大量の、碌でもないものを交えたメッセージが来ているな。

 メルには見ないように言ってあるけど、こういうのどうしたらいいんだろう?

 通報して、ブロックしてくしかないか。

 いや、大量すぎて無理ぃ。


『メイはOKだって。明日のレッスンの後にオリヴィアさんだけなら歓迎だそうよ。オリヴィアさんはアカウントへログインできる?』


 まあ、流石に今日のことがあった上で、僕を部屋に迎えようとはならないよね。

 僕は僕で歌舞伎町の代筆屋のところに行かなければいけないので逆にちょうどいい。


『IDとパスワードを書いた紙と、二段階認証用に紐付けたスマホを持たせます』

『橘メイの力を借りないとログインすらできなさそうですけど、悪用したりしないですよね? あの子』


『そういう間違った方法は考えもしない子だから、そこは安心して』


『確かにいつでも真正面から、ってタイプですね』


 正々堂々というか、単なるアホというか。

 僕は好きだけどさ。そういうの。


『じゃ時間未定でも配信する告知はしといたほうがいいわよ。なんか変な耐久配信だけは止めておきなさい。本当に止めておきなさい』


 なんか嫌な経験があるのかな。


『○○万人感謝配信とか言っておけば、当日開始時に100万人超えてるネタができるわ。100万人超えてから感謝配信とか言うと、突然登録者が減って割ることがあるから止めておきなさい。それから明日はレッスンとライブの打ち合わせがあるから、昼までには事務所に来てね』


『了解です。じゃあ80万人記念でSNSに告知打っときますね。これ僕がオリヴィアの振りして更新するんですか? ファンを騙してるみたいで嫌だなあ』


『この業界はそういうもんよ。覚悟決めなさい』


 真実を知るたびに世界を覆うテクスチャは一枚ずつ剥がれ落ちていく。


 その向こう側にあるのは印刷屋の言ったように汚泥ばかりだろうか。

 それともタクシー運転手が言ったように、すべてが流れ落ちれば宝物が残るのだろうか。


 確かめるのだ。

 汚泥を洗い流して確かめるしかない。

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