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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第326話 実は販売は続いている

「小鳥遊ユウ!」


 僕は咲良社長の部屋の鍵を開けるのももどかしく、危うくドアノブを捻り切りそうになるのをなんとか堪えつつ、解錠に成功する。(ちゃんと鍵を使いました)


 防音と思しき分厚いドアの向こう側にはフローリングにうつ伏せに斃れるマイフレンドと、その背に馬乗りになった九重ユラだ。


「九重ユラァァァ!」


 僕はズカズカと室内に乗り込んだ。(靴は脱ぎました)


 そんな僕の敵意ヘイトに気付いたのかそうでないのか、九重ユラは僕を見つけると、パァと顔を明るくして、それまで下敷きにしていた小鳥遊ユウなどもうどうでもいいかのように駆け寄ってくる。


「……気を付けるんだ、ヒロくん、ユラは、つよい……」


 いや、流石に君が弱すぎるんだと思うよ。マイフレンド。


 違う。

 生きていたのか! 無事で良かった!


 僕が小鳥遊ユウに気を取られている間に間合いを詰めてきた九重ユラは僕にぼふっと抱きつくと、よじ登り始めた。


「抱っこ」


「あ、はい」


 僕がその体を支えると、九重ユラは僕の頭にむぎゅうと抱きついてくる。


「ちょっと、ユウ、なにがあったの?」


 九重ユラに取り憑かれた僕の横を通り抜けて咲良社長が小鳥遊ユウに駆け寄る。


「……ユラは、取り憑かれたんだ。男性の安定感に……」


 確かに小鳥遊ユウでは九重ユラを抱き上げることはできないだろう。

 とは言っても、僕そんなに背は高くないんだけどな。

 ギリ人権無いくらいだし。


 おかしいよな。

 男性が低身長で人権が無くなるなら、女性だって貧ごふ。


 なんかイマジナリーメルに殴られたな。

 想像なのにダメージ通った気がする。


 まあ、ステラリアは割りと身長低めというか、咲良社長も含め、低身長が多い。

 その分、普通の身長の橘メイと鳴海カノンが目立ちやすいんだろうな。

 それでも僕よりはちょい低いくらいだけど。


「それであなた乗り潰されてたのね。ありがとう。後は責任を持ってなんとかするから、ヒロくん、送っていってあげて」


「それ自動的にユラちゃんも憑いてきませんか?」


 側頭部に押しつけられる柔らかい感触は努めて意識しないようにしながら僕は尋ねる。


 この子、本当に何歳なんだ?

 咲良社長は拾ってきたって言ってたし、公式の年齢設定はネタじゃなくて、ガチの年齢不詳か。この子。


 えええ、捜索願とか出てない?


「大丈夫よ。そうしていたらパパと娘……には見えないわね」


 ダメじゃん!


「ほーらほら、おいで、ユラ、ヒロくんはお家に帰るのよ」


 お家じゃなくてホテルです。


「や! パパのお家ここ!」


 まるで幼児のような言葉に、咲良社長は一瞬だけ考えて、僕を見た。


「……ごくり、ヒロくん?」


「やけに生々しい音が聞こえましたよ!」


「き、気のせいよ。柑橘系のドリンクでも誰かが飲んだんじゃないかしら?」


 どういうこと?


「大丈夫だよ。ヒロくん。社長のよく分からない発言は大体世代間断絶ジェネレーションギャップだから、ググれば分かる」


 いつの間にか復活していた小鳥遊ユウが取り戻したスマホにポチポチと入力する。


 持ってるのがiPhoneでもググるって言うんだね。


「あれ、おかしいな。検索の仕方が悪いのかな?」


 小鳥遊ユウが首を傾げる。

 僕も追いかけるように検索を開始する。


 WEB検索は誰がやっても同じ、ということはない。

 どんな手がかりをもとに、どんな情報を求めるかによって検索に使う文字列も変わる。

 僕はなんなら検索士なんて資格を作ってもいいと思っている。

 それくらい奥深いのがWEB検索だ。


 完全一致や除外など、細かいテクニックもあるけど、それは置いておいて、今回は柑橘系の飲料であることが分かっている。唾を飲み込む音に関連している。


 ――柑橘系 飲料 唾を飲み込む音


 ダメだ、喉が鳴ることを過剰に気にする症状についてばかりが出てくる。

 ここで分かることは、最後の[唾を飲み込む音]というフレーズがこの症状に合致しすぎて、他を変えてもここに引っ張られるだろうということ。


 ――柑橘系 飲料


 範囲が広すぎる。

 最低でももうひとつ特定材料が必要だ。


 ――柑橘系 飲料 ごくっ


 これかな?


「百年伝統のしずく かんきつジュース[極ごくっ]ってヤツですか?」


「全然違うわ! これよ! 知らないの?」


 咲良社長が突き付けてきたスマホの画面にはGokuriという飲料のページが映し出されている。


「全然知らないですね。これコンビニにあります?」


「ちょっと前まであったのよ」


 大人の言うちょっとは長いからなあ。

 五年くらいかな?


「もう売ってないんじゃないですか?」


「あるもん! Amazonにちゃんとあるもん!」


 再度突き付けられるスマホの画面。

 確かにAmazonで販売されているようだ。


「はー、そういう商品もあるんですね」


「常識じゃないの……?」


 世の中、見かける商品だけではない。

 この件から分かるのは、つまり人はそれぞれの行動範囲で見かけるものを、誰でも知っていると思いがちだということだ。


 常識というのは自分だけのもので、世の中で共有はされていない。


 辞書を引けばまた別のことが書いてある。


[健全な一般人が共通に持っている、または持つべき、普通の知識や思慮分別]


 となれば、例えばお金の価値や、その使い方なんかは常識だ。

 けれど商品知識はほぼ当てはまらないと言っていい。

 よほど知名度のある国民的な商品なら別だけど、自分がそう思っていても、実は違うということはよく起こるだろう。


 世代の人はみんな知っていて、世代が変わると全然知らない。


 この場合はまさしく世代間断絶ジェネレーションギャップだ。


「オレンジジュース!」


 九重ユラが言った。

 良い単語だ。


 オレンジジュースを知らない人はいない。

 商品名でなければ常識だと言える。


「飲みたい!」


 あ、そういうことね。

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