第33話 先生に怒られよう
1ヶ月ぶりの登校初日から僕は生徒指導室のお世話になっている。僕の向かいには生活指導の細田先生。細眼鏡という渾名が付いているとおり、細身の体に眼鏡を掛けている鋭い雰囲気を持った先生だ。
「さて、柊くんの言い分を聞きましょう」
細田先生は腕を組んで僕の言葉を待つ。
「檜山くんたちにトイレに呼び出されて、以前ダンジョンに一緒に潜った時の魔石の話が拗れた結果、檜山くんに殴られました。それで反撃しただけです」
「なぜ反撃を? 君は逃げようとすることも、大声で助けを呼ぶこともできたはずです。結局暴力に訴えれば、先に暴力を使った側と同じではありませんか?」
「逃げれば同じことの繰り返しになると思ったからです。僕が反撃するのだということを檜山くんたちに知ってもらう必要がありました」
細田先生は肩を竦めた。
「それでは動物と変わらない。君の言い分が正しいとしても、君のやったことが正当化されるわけではありません」
「正当防衛には当たらないということですか?」
「そう言う問題ではありません。殴られたからと言って、殴って良い訳では無いということです」
「先生は僕に黙って殴られていろ、と仰りたいのですか?」
細田先生は組んだ腕を解いて、胸ポケットの辺りを探るような仕草をした。なんとなく煙草に手をやったのだなと分かる。先生にとっては残念なことに、今のご時世、学校内は完全禁煙だ。
「……先ほども言いましたが、逃げるなり、助けを呼ぶなり、やり方はあったはずです。実際、賀川先生が到着して君たちは暴力を止めたではないですか。君も彼らも教師の前で暴力を振るうほど愚かではなかった。であるなら君が反撃したのもやはり間違いだったということにはなりませんか?」
細田先生は、当然のことながら教師の目線だ。だけど生徒には生徒にしか分からない力関係がある。あそこで逃げたり、助けを求めたりすれば、これまで固定されていた僕と檜山たちの上下関係に変化は起こらない。
だがそれは別に細田先生に分かってもらわなければならない話でもない。僕は十分に目的を達したし、教師たちに問題児だと目を付けられたいわけでもない。
「そうですね。先生の言う通りかも知れません。今後はこのようなことのないように気を付けたいと思います」
「理解していただけたのなら結構。……振りができれば十分です」
「えっ?」
「授業に戻って良いですよ。君は行方不明になっていた間に勉強が遅れているでしょう。補習にもきちんと出ること。いいですね」
「分かりました。それでは失礼します」
僕は生徒指導室を後にして教室に戻った。遅れて檜山や久瀬、相田もそれぞれ違うタイミングで教室に戻ってくる。どうやら全員が別々に聴取を受けていたようだ。3人に口裏を合わせる時間は無かったはずだが、さてどうなることやら。




