第31話 久々に登校しよう
10月15日金曜日。日課となったランニングを終えた僕は久しぶりに自転車で登校する。駐輪場に自転車を駐めた辺りから生徒たちの視線を感じ始める。どうやら僕が行方不明になったことは結構知られているようだ。
教室に入ると中にいたクラスメイトたちがざわついた。
「柊?」
「死んだんじゃ?」
あちこちから囁き声が聞こえてくる。僕はそれらに構うことなく自分の席へと向かう。それからふと不安に思って手近にいたクラスメイトに話しかける。
「おはよう、田中くん、僕がいない間に席替えとかしてないよね?」
「あ、ああ、うん」
僕は安心して自分の席に座った。ざわめきは収まるどころか大きくなった気がする。
「柊、なんか違くね?」
「あんなんだっけ、あいつ?」
異世界に飛ばされ、1ヶ月を過ごした。変わらないわけがない。だが一目で分かるほどに僕は変わっただろうか? 自分では分からないが、周りの反応を見るに、どうやらそうであるらしい。
鞄から机に教科書などを移し、鞄を机の横に掛けた。
「げっ、柊!? なんで生きてんだ!?」
教室の入り口の方からそんな声が聞こえて、そちらを見ると檜山だった。久瀬と相田も一緒だ。いつも通りの3人組というわけだ。僕の死を吹聴して回ったのは彼ら以外にはあり得ない。多分、僕が自分からミミックに飛びついたとかダンジョン管理局にしたのと同じ話をしているに違いない。
「僕が生きてたらなにか都合が悪かった?」
「どういうことだ、おぃ。おめぇは確かにミミックに食われたはずだろう」
「僕もそう思う。だけどどういうわけか生きていたんだ」
「はぁ? 舐め腐ってんのか? てめぇ」
ドスドスと足を踏みならしながら檜山がこっちへと向かってくる。不思議だ。以前ほど怖くはない。少なくとも製材所の職人たちほどの迫力は檜山には無いからだろうか。
僕は席から立ち上がった。
僕はどちらかというと小柄で檜山を見上げる形になる。体格差はレベルではどうにもならないし、多分ステータスでもまだ檜山には劣っている。だけど2回殴られる間に1発くらいは殴り返せるだろう。
「舐めてなんかいないよ。ミミックに勝てなかった檜山くん」
「てめぇ!」
檜山が激高して拳を振り上げる。僕は歯を食いしばって1発目を耐えようとした。だが同時に拳を握りしめる。殴られたら殴り返す。そのつもりだった。
だけど振り上がった檜山の拳を久瀬が押さえる。
「教室ではやべぇって」
檜山は手でブルブルと震わせて、しかしその手を下ろした。そこまで馬鹿ではなかったか。僕のほうもこれ以上煽るわけにはいかない。
「覚えてろよ、柊ィ!」
三下みたいなことを言って檜山が足を踏みならしながら自分の席に向かう。僕は思わず笑いを堪えなければならなかった。ここで笑ったら煽ってるのと同じだ。
僕は肩を竦めて席に座った。




