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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第323話 過剰請求されて手を打とう

「あっという間だったわね。今ならまだみんないるんじゃない?」


 咲良社長が時計を見て呟く。


「確かに。間に合うなら戻ろうかな」


 そう思って何気なく室内を一瞥したときに、ふと一台の機械が目に入る。


「えっと、偽造屋さん、で、いいんですかね?」


「おい、止めろ止めろ。俺は印刷屋だよ」


 ガチで焦ってるやん。

 アーク溶接の音で大丈夫だと思うんだけど、住宅地はやっぱヤバいんですかね?


「分かりました。ところであの機械はなんですか?」


「ん? あれか? X線スキャナーだよ。持ち込まれた品がやべー場合もあるからな」


「いわゆる物体を透過して中身を見られる?」


「そうだな。それが?」


 僕の中に図が描かれる。

 とても手間がかかり、難しいと思っていたこと。


「例えば、例えばなんですが、とある複雑な物体をそのスキャナーで読み込んで、そっちの3Dプリンターで出力するというようなこともできますか?」


「ものによるな。スキャンできる材質でないと話にならんし、あんまりにも複雑なものも難しい。なに? なんかあんの?」


「直の依頼はしてほしくないということでしたが、見積もりのために品を置いていくことくらいはしてもいいですか? 結果などは代筆屋さんから伺いますので」


「置いていくのはいいが、ものが壊れないとも限らんぞ? 見てみないとなんとも言えんが」


「ちょっと待っててください。10分もかかりません。すみません。社長はここで待っててください」


「ちょ、ヒロくん?」


 僕は慌てて印刷屋を出て、路地の目立たない場所でアーリアにキャラクターデータコンバートする。

 僕の部屋に無造作に置いてあった結界装置を手に、再び日本へ。

 すぐに印刷屋のチャイムを押して、中へ戻った。


「これなんですけど」


「早すぎない?」


「どこにあったのよ。それ……」


 僕は困惑する印刷屋に結界装置を押しつける。


「とにかく一回スキャンしてみてもらえませんか? 代筆屋さんには100万渡しておきますから」


「そういうことなら、まあいいか」


「100万!?」


 びっくりする咲良社長を余所に印刷屋は結界装置を受け取ってX線スキャナーに置いた。


「これ爆発したりしない?」


「動力を入れてないので大丈夫です」


「入れてたら爆発するのぉ?」


 嫌そうな声を上げつつ、印刷屋はX線スキャナーの電源を入れて、装置を作動させる。


「うっわ、なにこれ?」


 パソコンのモニターに映し出される結界装置の複雑な内部構造。

 なるほど、確かに魔術を使うときの構成を物理的に造成したものだ。


「電子基板みてーだな。でもこの感じは単一素材か? 電子基板の形に枝分かれをした珊瑚って印象だ。ボウズ、これはなんだ?」


「お答えはできません。これの電子基板のようになっている部分を銀で作りたいんです。そのために金型を作ろうと思っていましたが、……できますか?」


「できるならいくらでも払うって顔しやがって……。オリジナルを非破壊でか?」


「バラしてもらっても構いません。金型が作れるのであれば、オリジナルにはこだわりません」


「これだけ複雑だとプレスじゃ無理だ。鋳造になるが、ええ、これ金型何個いるの? 完成品はいくつ作りたいのよ」


「それで何かが違うんですか?」


「制作数が少ないなら金型そのものの素材が多少やわくてもいいだろ。大量生産ってなら、かてー金属で作らなきゃならん。加工にも手間がかかる」


「両方です。とにかく作れる金型と、大量生産用の金型、両方必要です」


「おまえさんねえ。多少金を持っているんかもしれんが、これは中小企業がぶっとぶレベルの金がかかるぞ。100万なら、まあ見積もりは出してやるが、え? マジ? マジ顔じゃねーか。分かってる? 億じゃ足りないぜ?」


「億!?」


 と声を上げたのは咲良社長。


 いや、さっき白河ユイに二億出すってたじゃない。

 これくらいで驚いてはいけない。


「まずは見積もりを。できるかできないかを可能な限り早く知りたいです」


 運転免許証(偽造)が手に入った今、探索者証を作って魔石を売り払うことができる。


 三十層未満の魔石を全部吐き出せば、……流石にいくらになるかは想像もつかないな。

 十億とか二十億って話ではないのは間違いない。

 もう一桁上の取引になる。


 だけど僕にはこれが必要だ。


 結界装置を地球側の技術で再生産できるかどうか。

 どう検証するかが悩みの種だったが、意外なところから機会が振ってきた。


 完成品の検証が必要だけど、基本的に形がある程度同じであれば、同じ結果が返ってくるはず。

 それが魔術というものだからだ。


 問題は材質の差。

 アーリアでは魔力への親和性が高いいわゆる魔銀で作られているが、日本ではそれに類するような素材はダンジョンでしか手に入らない。

 量産することを考えると純銀でどうなるか。

 魔銀と純銀、両方を検証したいところだ。


「すっかり酔いが醒めちまったよ。見積もりはいつまでに必要?」


「可能な限り早く。必要であれば見積もり費用の上乗せもします。いくら必要ですか?」


 僕の資金は尽きたが、メルの資金がまだ残っている。

 勝手に借りることになるけど、メルなら許してくれる。

 もちろんちゃんと返すよ。


「あー、代筆屋に二千万置いていけ。それで明日が終わるまでに見積もりを出してやるよ」


「確か一日って十七時に終わるんでしたよね?」


「その計算だと水曜日にならん?」


 そう聞いてきた印刷屋だったけど、僕の顔を見て考えを改めた。

 僕は冗談を受け流せるような精神状態じゃない。


 僕が東京にいられる時間はさほど長くない。

 八月が終わるまでに済ませなければいけないことのなんて多いことか!


 金で時間を買えるならいくらでも払う。

 いいか、時間ってのは誰にでも平等なんて嘘っぱちだ。


 人によって最も価値に変動があるのが時間だ。

 そしてそれは遡及性がある。

 とある時間の価値は、その時と、後から思い返した時で異なるのだ。


 いま感じている時間の価値を見誤るな!


 金で買える一秒なら僕は買うぞ!


「火曜日十七時だ! 代筆屋に見積もりメールしとくから、あっちから聞いてくれ!」


「分かりました。お願いします」


「あー、クソ、徹夜だよ。いいか、ぼったくるからな。本当だぞ!」


「では契約成立ですね」


 僕はニッコリと契約の成立を告げた。

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