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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第321話 詳しいことは企業秘密

「三津崎湊です。アポがあると思いますが、よろしいですか?」


 僕は階段を上がりきったところから声を掛ける。


「聞いてるよ~。そんなとこで突っ立ってないで入って入って」


「お邪魔しますね」


 僕はほとんど習性で室内を観察する。

 年配の男性が座るソファとその前のローテーブル以外は、色々な機械が設置されている。

 どの機械も見覚えが無く、何に使うものかも分からない。


「女連れで来るかもとは聞いてたけどよ。思ってた子と感じが違うなあ。もっと肌がピチピチのが来ると思ってたぜ。だいぶ若作りしてるけど、ア――」


「付き添いです」


 男の言葉に被せるように咲良社長がニッコリと微笑んで言った。

 うーん、敵意ヘイト


 男は一瞬、ピクッと眉を動かしたから敵意ヘイトに気付いた。


 男性は六十は越えているように見える。

 これくらいの年齢で敵意ヘイトに気付けるほどレベルを上げているというのは相当に珍しい。

 早い人でレベルが10くらいから気付くって感じだから、本当に結構レベルが高いということになる。

 日本基準では、だけど。


 しかも裏社会に関係する者であれば、探索者証を手に入れるのも難し……、いや、その探索者証を作るための偽造身分証を作りに来てるんだった。

 余裕だな。


 男は首をちょっと傾げただけで、まあ、どうでもいいか、という顔になった。


「さて、それじゃ写真を預かろうか。普通自動車第一種だけでいいよな? 大型乗ったりする?」


「運転のためには使いませんよ」


「そいつぁ賢明だ」


 僕が写真を取り出すと、男は手袋をしてから受け取った。

 そして写真を確認して、足下から持ち上げたエアブローで表面に風を当てる。


「よし」


 そう言って立ち上がり、何かの機械に挟む。

 それからスクリーンセーバーがかかっていたパソコンのマウスを触って画面を復帰させると、なにかをクリックした。


 機械から駆動音が聞こえてくる。


「なにをしてるんですか?」


「ああ、スキャンだよ」


「スキャン、ですか? 写真を?」


「この写真をそのまま免許証に使うと思ってたのか?」


「思ってましたね」


「はっはは、正直なあんちゃんだ。この業界じゃ珍しい。運転免許は初めて?」


「はい。なので仕上がりを見ても、それがどれくらい本物らしいか判断ができないんですよね」


「そっちの若作り。あんちゃんに本物を見せておいてやれよ」


「若作りはしてますけどね。はい。三津崎くん。どうぞ」


 咲良社長が取り出した免許証を受け取ってマジマジと見つめる。

 うーん、咲良社長の生年月日と現住所が分かっちゃった。


 年については何も言うまい。

 非常に繊細センシティブで個人的な情報だしね。


 さて、どうやら運転免許証とかあらかじめ印字されている台紙に、内容を印字していくように作られているようだ。

 顔写真のところも完全に平面であること。表面にぴったりとくっ付いているところ、指でなぞってもいっさい感触が変わらないから、この写真は印刷されたものであると分かる。


「これは相当綺麗にスキャンして印字しないといけませんね」


「それがそういうわけでもねーんよな。まあ運転免許はそれでいいけど。今回は見せるだけだろ。そんな気にしなくても平気平気」


「僕は200万払ってるんですけどね」


「俺は150万だし、しかもまだ受け取ってすらいねぇ。別に手ぇ抜きゃしねぇよ。書類の偽造で素人さんがよくある失敗が綺麗にしすぎるんだ」


「綺麗にしすぎる?」


「例えば実際の証明書類に350dpiの解像度が使われていたとするだろ。偽造するときに気合いを入れて1200dpiにしちゃう、ということがある。いいか? 本当ならそこまではっきりくっきり写ってないのに、その画像だけ妙に鮮明だとどうなる?」


「違和感があるんでしょうかね」


「そうだ。偽造書類が見破られないためには、綺麗にやることじゃない。違和感を感じさせないことが肝要だ。ちゃんと本物のように雑に作るのさ。忘れちゃいけねぇ。偽造屋が作るのは一点ものだがな、本物は毎日大量に作られる工業品なんだ」


 パソコンに取り込まれた写真をなにかのソフトに取り込んで、男性は少しだけ操作する。

 少し離れた機械が動き出す。


 流れからするとプリンターなんだけど、僕の知るプリンターとは形が全然違うな。

 がちゃがちゃと結構うるさい。


 しばらく待って機械が止まると、男性はそこから免許証を取り出して、別の機械にかけた。


「次はなんですか?」


「そりゃ、おめぇ、企業秘密だよ」

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