第317話 美しさの価値について
そう、美しさには金がかかる。
ただ例外もあるよ。
なんだと思った?
メル?
それは正解だから先にハズレの話をしようね!
例えば美術品と答えた君。
原価厨だね。
昔の僕もそうだったから分かるよ。
要は紙と絵の具じゃん!
だけど今の僕は知っている。
絵画には画家の魂と人生が詰め込まれている。
その技術を得るのに費やした時間は? そのコストは?
それ込みでも価格に見合わない?
まあ、そうだね。
誰でも知ってる絵にゴッホのひまわりってのがあるよね。
今から話すのは七枚あるうちの、最高額がついたやつ。
たぶんみんなが思い浮かべたやつだよ。
多くの人がこう思う。
確かに凄いけど自分にとって58億円の価値はないな。
その感性は正しい。
58億円持ってたら買ってるって思った人は後でちょっとお話しよ。
君には投資家の才能がある。
いまホットな良い儲け話があるんだ。
ちなみに儲け話を人が持ってきたら、必ず本人のポートフォリオを見せてもらおう。
開示を嫌がるようなら話を聞くな。
このひまわりに58億円の値が付いた理由。
それこそ僕が異世界交易に美術品を持ち込まない理由だ。
実はね、美術品って普遍的な美しさがそのまま価値になるわけじゃない。
その作者の人生、美術品が辿った経歴、美術史、なんなら今、現在、今日の世界情勢まで、すべての背景情報が価値に加算される。減算されるときもあるけど。
だからその積み重ねが無い別の世界に持ち込んでもあまり価値が上がらないんだ。
おっと話が逸れたかな?
造形物の話になると、つい熱くなっちゃうな。
美しいものには金がかかるって話だったよね。
この金って言葉は、価値とか手間にも置き換えられる。
美術品の価値は背景も含まれるってことは、その価値を維持する努力を払い続けなきゃいけないってことだ。
世界に認められる名画が永遠に名画であるためには、なんらかのコストがずっとかかってる。
その名画をそのままの状態で保存するためのコスト。
その名画が有名であり続けるために宣伝するコスト。
その名画を展示するためにかかるコスト。
すでに制作者が逝去していてすらこうだ。
なお制作者が生きていたら、その人が有名であり続けるためのコストもかかるからね。
これをする人をパトロンと言います。
経済的支援者を意味する言葉で、本来は性的な意味はないんだけど、日本では誤用が一般的になってるかもね。
語源を考えると父という意味を含むので、パパ活のパパはパトロンだよ。
半周回って性的じゃねーか!
さて美術品になぜ金がかかるのかって話をしてみたけど、意外と意識したことはなかったんじゃない?
君は美しいから美しいって思ってなかった?
その感性はとても素晴らしいから、大事にしてほしい。
芸術品を見て、まず価格が気になるような人にはならないでほしい。
商人の僕が言うことじゃないけどね。
君は美術品について、その美しさに価格がついているんだって思ってなかった?
違うんだ。美しさはお金には換えられないんだ。
美しさの横に値札がついていても、それは美しさの数値化ではないんだ。
より美しいものが、より価格が高いということにはならない。
美しさには金がかかるって話と矛盾してるって?
そう思ったんなら、君は自分が常に論理的思考をしているか考え直したほうがいい。
いいかい?
感動は金に変換できない。
金を払って得られる感動はあるけど、君が感じた感動をお金に換えることはできないんだ。
君が何かで得た感動を誰かに伝えたいと思うことはとても素敵だよ。
だけどそれをするためにはコストがかかるよね。って話。
そのコストこそが美しさにかかる金だ。
費用をかけずに、ただあるだけで美しいものはある。
だけどその美しさを存続させて、人に伝えるためには物凄く費用がかかるってこと。
では正解を言うよ。
メルは存在するだけで美しい。
でもメルにずっと綺麗でいてもらうためにはとても費用がかかる。
だからね、つまりね、好きな女にずっと綺麗でいて欲しかったら、男はお金をどんどん稼がなきゃねってことだよ!




