第315話 無自覚な君臨
「僕は、演劇スタイルがステラリアにとってはいいと思う」
「一応、理由を訊いてもいいかな?」
小鳥遊ユウに促されて、自分なりに考えをまとめる。
「お祭りスタイルは爆発的に成功する可能性を秘めているけど、演出頼みだ。実力よりも、演出を考えることになる。それに対して演劇スタイルは個々の目標値が高くなるよね。もちろんみんな限界ギリギリまで努力してるんだと思うよ。でもより高いところを目指していたほうが、同じ努力の量でも結果が違うと僕は思う」
つまり、僕はステラリアに成長して欲しいのだ。
彼女たちはもっと上に行けると期待しているのだ。
だから爆発するより、階段を上っていってほしい。
「え? 別に限界ギリギリとかしてないわよ。そんなん続けてたら日々の余裕が無くなって、かえって効率悪いじゃない」
この、天才型があああああああ!
いや、でも橘メイがこうなのにステラリアでは圧倒的な実力を持つからこそ、僕は演劇スタイルを支持する。
何故なら他のメンバーには橘メイという目標がはっきりと見えるからだ。
目標ははっきり見えていたほうが、そこに至る道を見つけやすい。
届くかどうかは別にして、道に迷う可能性はぐっと低くなる。
だから、橘メイはムカつくけどよぉ!
僕は演劇スタイルを支持するッ!
「むしゃむしゃ」
ところで九重ユラさん。
君、僕の頭を食べてない?
「まあ、結局はそうなるんだね」
小鳥遊ユウが肩を竦める。
まあ、ステラリア正規メンバーだけと同じ結論に至ってしまったとも言う。
「まあ、元々それで準備してきたわけだし、一周年ライブも演劇スタイルということでいいかな?」
小鳥遊ユウが全員に確認を取って、とりあえずは了承が得られる。
「両方じゃダメなの?」
メルの素朴な疑問。
「全力でクオリティを上げながら、観客をノセる練習はボクらには難しいよ。演劇スタイルとお祭りスタイルは相性が悪いし」
「そうかなあ?」
メルも橘メイと一緒で天才型だからなあ。
なんかよく分かんないけど、自分にはできちゃうから、みんなもできるよね。
ってなところがある。
「私はお祭りで劇とかを見るけど、みんな一緒に盛り上がってたよ」
――!
ステラリアのメンバーはぽかんとしているけど、アーリアを知る僕には分かった。
おそらくメルの言う演劇とは僕らが知るそれとはまったく違うのだ。
お祭りで観衆を前に行われる、おそらくは目線が同じ高さで行われる劇は、如何に群衆を味方に引き入れられるかがとても重要になるんだと思う。
「観客を巻き込む、演劇スタイル……」
僕は呟く。
「いや、でもその負担増にボクらは耐えられないよ」
「そうなの? じゃ、私がやればいいのね」
橘メイ!
そう、彼女には余裕がある。
トップアイドルと同じレベルのパフォーマンスを、余裕を持って行うことができるのであれば――、
「じゃあ、メイちゃんに私のノウハウを叩き込めばいいんだね」
――そこにお祭りスタイルを加えることだって可能だ!
「げ、やっぱ止めようかな」
ちらりと覗く敵意。
この子、敵意発生の閾値が低すぎない?
「ねぇ、メイちゃんはどうして私のことが嫌いなの?」
敵意の発生に気付いたメルが率直に訊ねる。
これって独特の感触だから、ダンジョンである程度モンスターからの敵意を経験していないと分からないんだよな。
「嫌いってことはないわよ。ただ死ぬほど羨ましいだけで」
「羨ましい?」
「だってそうじゃない。アンタはなんでも持ってる。私には敵わないけど、ほとんど同じくらい可愛い顔。メイク次第で私にはできない顔も出せる。ダンスどんだけできるんだよ。なんでなんでもできるんだよ。おかしいよ。歌もうめーし。私をコピってただけで、本当は私より上手いだろ。キイイイイ、思い出したら腹立って来た。私より上手いヤツが私に合わせて下手に歌ってんじゃねーよ! できるんならやれよ! なんでわざわざ負けようとした!」
グイグイと上がっていく敵意と橘メイのテンション。
だけど僕は橘メイの言葉に引き込まれていた。
これは信念のある敵意だ。
圧倒的な才能を持ちながら、地に塗れ、それでも気高く立とうとしている。
これが、――アイドル!
そして橘メイは絶叫した。
「お前は私より全部上だ。私が勝ってるのは顔の作りくらいで、他は全部負けてる。これが羨ましくならないわけがないだろ! なんでお前には男がいて私にはいないんだあああああああ!」
最後のなに!?




