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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第291話 光が波打つ

 ビルから外に出たところで、咲良社長はカバンから取り出したインカムを耳に掛けた。


「花伝戻りました。まずは会場内について現状、井上さん。お願いします。どうぞ」


『井上です。会場内、電気戻ってません。明かりはドアから入ってくる分と、客のスマホだけですが、客はお嬢ちゃんらが上手いことそれっぽくしてくれてます。どうぞ』


 聞き耳スキルって便利だなー。

 僕らは階段を駆け下りる。


「花伝です。外は電気大丈夫よ。そこだけみたい」


 僕は咲良社長の肩をちょんちょん叩く。


「すみません。ブレーカーです。分電盤を確認してください」


 なんせ分電盤の位置をメルに教えたの僕だしね。


 地下に入ると脱出口やらなにやら、全部確認してしまうのは斥候あるあるだと思う。


 幸いブレーカーには全部メモ書きがしてあったので、会場内部のものをすべて落とすようにメルにお願いした。


 はい。僕が犯人です。


「分電盤を確認して! まだ触らないでよ。全員、装置類、全部一旦電源スイッチ切る! 5,4,3,2,1,ゼロ、まだ電源スイッチ切れてなかったら報告! どうぞ!」


 返事は返ってこない。


「花伝です。誰か手の空いてる人、応答して分電盤に行く。どうぞ」


『行けます。どうぞ』


「花伝です。今返答した子はすぐに向かって。到着したらブレーカー確認して応答。どうぞ」


 僕らはエスカレーターを駆け下りてベルトパーテーションを潜り、地下3階の今日は開放されていない客席に飛び込んだ。


 そして目を奪われた。


 光の波の中で、乙女たちが歌っている。


 それはライト機能を点けたスマホだ。

 観客たちが手にしたスマホのライトをオンにして、ペンライトの代わりに振っている。


 ステージの上にもいくつものスマホが、ライトを付けた状態で転がっている。

 多分、スタッフの私物だろう。


 それでギリギリ、どうにか光量は足りている。

 いや、この場合は足りていないくらいなのが、ちょうどいい。

 成立している。演出として。


『分電盤着きました! ブレーカー下がってます。上げますか? どうぞ』


「花伝です。まだよ。待って。そこで待機。どうぞ」


 折しも曲はプレイヤーズソング。

 祈りの歌だ。


 ステージの中央で祈りを捧げられているのはメル。


 ひとりだけ衣装が違うことが、彼女がステラリアとは格が違うのだと、そう示しているかのようだ。

 ステラリアのメンバーが、まるでメルを称えるように、崇めるように、アカペラで、生声で、歌が会場を満たしている。


 そして何故だろう。

 聞き耳スキルを使っていないはずなのに、メルの歌だけが別に聞こえてくる。


「もうちょっと。あと30秒くらいよ」


 曲が終わりに差し掛かる。


 ロングトーン。


 長い長い唱和が、ひとり、またひとりと途切れていって、メルと橘メイの二人の声だけが残る。


 これは、肺活量勝負みたいになってるのか?


 だけど橘メイに敵意ヘイトは感じない。


 距離があるからかもしれないけど。


 そして橘メイが脱落する。


 メルの声だけが残る。

 伸びる。伸びる。伸びる。


 だけど苦しそうではなくて、まるでボリュームをゆっくりと下げていくみたいにメルは歌い終えた。


「今よ。全員、電源復旧したら即スイッチオン!」


 光が爆ぜた。

 一斉に点灯した照明の光によって、バンッという幻聴が頭に響いた。

 会場内は一気に光に包まれる。


 それはまるで乙女たちの祈りに光が応えたかのようだった。


 外から見ていてもそう思ったのだ。

 客席に居た観客たちは、一体何を感じただろう。


 ちょっと分かる気がする。

 理解を超えた感情は神秘への信仰に変わるのだ。


 歓声すら起きない。

 ただ観客は立ち尽くしている。


 咲良社長が大きく手を鳴らした。


 ぱちぱち――、と。


 観客が呼応する。


 ぱちぱちぱちぱち――。


 やがてそれは盛大な拍手の渦に変わった。


 誰もが目の前で起きた奇跡に胸を打たれていた。

 とてつもない演出を見たと思った。

 今夜、伝説に立ち会ったのだと感じた。


 できた。書き換えた!

 白河ユイの起こしたことは、もう映像にしか残っていない。

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