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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第257話 誰そ彼は君

 そのまま僕らは自由の女神像を通り抜けて沈んで行く太陽を追いかけるように進む。

 お台場海浜公園から潮風公園に入って、夕日の塔へ。


 時間帯もあって、この辺りは人が多い。

 そりゃ夕日の時間帯に夕日の塔には来ちゃうよな。


 分かる。

 僕もそうだし。


 こうして人は集まり、混雑し、渋滞し、列ができるんだなあ。

 まあ、ここは広場になっているので、列とかはできてないけど。


「ここで夕日が沈むのを見ようか」


 ここからならレインボーブリッジのライトアップも見えるし、電車で帰るにしても駅が割と近い。

 途中のショッピングモールで晩ご飯にしたっていい。


 ホテルで東京の夜景を見ながらディナー?


 予約してないから無理です。(マジレス)


「大阪も都会だったけど、東京はまた違った感じだね」


 日が沈んでいくのを並んで眺めているとメルがそんなことを口にした。


「はは、大阪もほんの一部しか見てないからね。でも、やっぱり町の持つ雰囲気の違いはあるかもね」


「世界って広いね。すごいね」


「そうだね」


 かつてマゼラン艦隊は海を渡り、世界は回ってこられるのだと証明した。

 これには3年の月日が必要だった。


 飛行機のある今ではやろうと思えば2日で世界を一周して帰ってこられる。


 人類は宇宙に通信衛星を飛ばし、海底にケーブルを敷いた。

 地球の裏側とでも、遅延こそあれど会話ができるようになった。


 インターネット、そして光ケーブルの普及によってその遅延すら感じなくなった。


 光は1秒あれば地球を7周半できる。


 世界は狭くなった。


「広いな。一生かけても全部見るのは無理だろうね」


 だけど人がその目で見ることのできる範囲は何も変わっちゃいない。

 画像や映像が出回り、行くことが難しい秘境の光景だって手軽に見ることができるだろう。

 だけどそこに足を運んで、実際にこの目でそれを見るとなると話は別だ。


「じゃあ一生ずっと楽しめるね!」


 僕はびっくりして隣にあるメルの横顔を見た。

 夕日はもう色づいて、メルの髪の毛と同じ色になった。


 僕は一生かけても全ての光景を見ることはできないな、と考えた。

 メルは一生ずっと新しい光景を探せる、と考えた。


「本当だね。本当に、そうだ」


 君と見たい場所がいっぱいある。

 あれも、これも、それも。

 この世界で、あっちの世界で、まだ見ぬ光景は数えても数え切れない。


 全部を見たいという気持ちはある。

 だけどリストを全部埋めようとしなくていいんだ。

 リストに拘らなくてもいいし、同じところをもう一度見に行ったっていい。


 僕は自分の感情に意識を向ける。


 メルの隣で今、東京の夕日を見ている。

 空が君の髪色に染まるのを見ている。


 この気持ちをひとつずつ集めていこう。


 目の前にあるものをひとつひとつ拾っていくんだ。


 落ちているものすべてを拾い集めようとしなくていい。


 時折立ち止まり、メルと手のひらを見せ合って、ね、こんなに集まったね。って言い合えたらそれでいい。


 その数を、ひとつひとつの思い出を大事にしよう。


 そして夕日は完全に沈んだ。

 町がライトアップされる前の一瞬の隙間、薄暗がりの中、僕たちはお互いを確かめるように手を握り合った。


 冷たくなってきた潮風を浴びるこの潮風公園で、メルの手は残り火にかざしたみたいにちょっとだけ暖かい。

 それは消えゆく太陽の残した温もりだ。

 君の体温だ。


 黄昏は君だ。

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