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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第256話 自由の女神像って結局誰?

 海水に浸かってベタベタになってしまった足をマリンハウスで洗い流し、貸しタオルを使って拭った。

 僕が使ったタオルをメルに使わせるのはアレだし、メルの使ったタオルを僕が使うのもアレじゃない?

 だから2枚借りました。


 空を見上げると良い感じに日が傾いてきている。

 その色は茜が差してきて、メルの髪の色に近付いて来た。


 気温も少し落ち着いたか、日差しが柔らかくなったか、過ごしやすさを感じ始める。


「歩こっか」


「うん」


 僕らはお台場海浜公園をゆっくりと西に向かって散歩する。


 自由の女神像が見えてきて、メルはビックリだ。


「なにあれ!?」


「ああ、自由の女神だよ」


 僕は何気なく言ったけど、メルは目を丸くした。


「自由の、女神?」


 ああ、そうか、アーリアのほうの世界には神という概念が無い。

 昔から運営が作り、動かしてきた世界だという認識があるからだ。


「女性の英傑みたいなものだと思えばいいと思うよ」


「そっか! この人は何をした人なの?」


 そう来るよねー。


「えっと、説明すると長いんだけど、大丈夫?」


「一応聞いてみる」


「よし、まず最初に言っておくと実在の人物としてのモデルはいない」


「いないんだ」


 メルはまたびっくり。

 でも芸術品ってそういうこと案外あるよ。


 僕は美そのものに挑むのが美術のひとつの真理だと思ってるから、同じ思想で作られた作品だとモデルがいないのは当然だという思いがある。

 女性という造形の中にある普遍的な美を追究したら、実在女性をモデルにはできないよね。

 もししてたら、それはその芸術家がその女性を盲目的に愛しちゃってる場合くらいだろう。


「昔々、フランスという国で市民革命が起きたんだ。王様をやっつけて、政治を市民の手に取り戻せーってね」


「ええっ!? そんなことして大丈夫? その後誰が国を動かすの?」


 メルは本気で心配している。


 アーリアは王国、……僕はまだなんて名前の国かも知らないんだけど、その王国の西方にある都市で、エインフィル伯爵が治めていることから分かるとおり封建制だ。

 メルは貴族が民衆を治めるのが当然の価値観で生まれて、育ってきているから、民衆が政治を、って意味が分からないんだろう。


「その話はとても長くなるから、今は置いておこうね。フランスという国は王様が統治する国だったけど、これよりも前に革命が起きて1度市民が統治する国になって、でも結局、ひとりの英雄に皆が政治をお任せして帝国になった。んで、帝国の後にまた王様が復帰して、その王様のやっぱり倒せーってなったのが七月革命。ここまではいい?」


「そんなことある? 国がめちゃくちゃにならない?」


「あるんだよなあ。あと結構めちゃくちゃになってる気がする。その後また帝国になったりもするんだけど、一旦この七月革命で止まるよ」


「うわぁ」


 メルがうわぁって顔でうわぁって言ってる。


「この七月革命をテーマに書かれた絵がある。ウジェーヌ・ドラクロワという画家が描いたフランスの国旗を掲げた女性が革命を先導する絵だ。この女性は実在の人物をモデルにしたわけではないと思うけど、フランスにおいてマリアンヌと呼ばれるフランス人女性のステレオタイプのひとつになったと言える。フランス人女性は自由のために立ち上がれる、という希望の力なんだ」


 受験勉強が覿面に効いてるなあ。

 以前の僕だったら全然分からなかったよ。


「うーん、面白いね。なんで女性だったんだろう?」


「国を母として、その豊かさの象徴として肉体的な女性を描いたという説があるみたいだよ」


「国がお母さんかあ。よく分からないなあ」


 まあ、フランスだしジャンヌダルクの影響もあるんじゃないかな?

 フランスは女性が国を守るために立ち上がる、みたいな文化になってるんだと思う。

 これを言うとジャンヌダルクの説明が始まるから言わないでおこう。


「とりあえずこの『民衆を導く自由の女神』という絵はフランスを象徴する絵のひとつなんだ」


「女神、っていうのが国を象徴してるみたいな意味なのかな?」


「そこは説明しきれないけど、一旦そういうことにしておいて」


「うーん、分かった」


 メルはまだ納得しきれていないみたいだけど、凄く狭い範囲で考えて見ると、これは前時代的だと言われるだろうけど、男性が帰る家の象徴として女性の存在があって、それを国にまで拡大解釈したのだと思う。

 民衆を導く自由の女神の話自体が前時代なので許してね。


「そしてそこから無数の派生が生まれていくよ。お金に刻まれたり、切手に印刷されたり、この絵の女性がモデルとは限らないんだけど、その時代時代に合わせて、美しいとされる女性をモデルに自由の女神が作られていったんだ。ここにある像は、昔アメリカという国の独立を祝ってフランスが贈った自由の女神像のレプリカ」


「ええと、独立おめでとうってフランスという国がアメリカに贈った自由の女神っていう像があるんだね。そのレプリカがなんでここにあるの?」


「日本が、今年はフランスとの交友について記念の年にしようってなった時があって、その時の事業の一環として自由の女神像のレプリカを作ったんだ」


「え? でも自由の女神像ってアメリカにあるんだよね?」


「そうだね。でもフランス人女性の象徴だからね」


 メルは少し考えて、それから言った。


「はえー。じゃあフランスって国はアメリカに独立のお祝いと言って、自分の国の革命先導者シンボルを贈ったんだ」


 やだ、なに、その考え、怖い。

 フランスはアメリカ狙ってたってこと?


 僕はイギリスへの当てつけだと思ってます。


 やだなあ、この第三国使って煽り合ってるの。(僕の感想です)


「まあ、少なくともここにあるのは日本側から作らせてってフランスにお願いして作らせてもらったものだと思うよ。著作権はもう切れてると思うけど、国家事業で勝手に作ったら流石に怒られるだろうし」


「なるほど。そのフランスって国にしてみれば嬉しいよね。自分の国の象徴を、日本が自分で作りたい、飾りたいって言ってきたわけだし」


「そうだろうね。実は日本とフランスは昔から文化的なやりとりがあったんだよ」


 パリ万博で日本が現地に与えた衝撃は大きかった。

 いわゆる西洋芸術とはまったく系譜の異なる日本の芸術は、その表現技法やアプローチが西洋芸術とはまったく異なっていたからだ。

 今でも漫画が愛されてたり、日本とフランスはなんというか文化交流が盛んだよね。


「フランスかあ。どんな国なんだろうなあ」


「いつかこっちの世界も回ってみよう。その時はメルが通訳をしてくれると助かる」


「あはは、任せておいて。どの国でも、方言でも大丈夫だよ」


 異世界言語理解さん強い。

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