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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第7章 メルを配信者にしよう

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第250話 そして僕らは判断を下す

 母さんは僕と同じ小市民なので、奈良ホテルの雰囲気に圧倒されて、らしくもなく縮こまっていた。

 そこのレストランで食事を、しかも相手の奢りで、というのだから当然だ。


 もちろん母さんは僕らの分も含め、食事代を払うと主張したのだけど、価格を知って凍りついてしまい、咲良社長の『経費で落ちますから』という甘言に負けた。


 やっぱり経費は強い。(確信)


 母さんが縮こまっているのは服装のせいもあるだろう。


 咲良社長は振袖、メルは振袖袴、僕も羽織袴だ。

 母さんのビジネススーツ姿はこのお店にドレスコードがあるかどうかはともかく、雰囲気を壊すというほどではないけれど、今のこの4人組で座っていると明確に浮いている。


「急なお話で申し訳ありません。わざわざお越しいただいてありがとうございます。私、東京の芸能事務所ブリギットで代表を務めさせていただいております。花伝咲良と申します。本日はよろしくお願いいたします」


「そんなとんでもない。うちの子たちのために東京から来て下さって、こんないい……、カズヤあんた今度は何をしたの?」


 母さんのこの僕に対する信用の無さよ。

 いや、まあ、疑われるだけの実績はあるけど。


「初めまして、柊夏子と申します。こっちの和也の母です。それで今日はどういったお話なのでしょうか?」


「端的に申し上げますと、オリヴィアさんのスカウトです。私どもにプロデュースさせていただけないかと。残念ながらそちらは断わられてしまいましたが。でもせっかく用意したので資料だけでも見ていただきましょうか」


 そう言って咲良社長は鞄から冊子を取り出して、僕らに配った。


「当社のディスクロージャー資料です。当社について概要をご確認いただけるものになっています」


 僕はそのフルカラーの資料をめくってみる。

 設立は2年前だから、咲良社長が会社を立ち上げたのは本当に最近だということになる。

 本店住所だとか、資本金とか、色々書いてある。

 うん。いろいろかいてある。


「負債がとても少ないですね」


 母さんが言う。

 ええ、これええと、ひゃく、千万単位なんですけど?


「無借金経営だといざというときに金融機関に頼れないので仕方なく借りているだけですね」


「リスクヘッジとしての借り入れだと」


「そうなります」


「内部留保がかなりあるようですが」


「どうしても現金が飛び交う世界ですので、余剰資金が必要なんです。そこを借り入れで回すと、ちょっとした躓きで経営が怪しくなりますから、余裕を持たせてあります」


「社員数の割りには収支の額が大きいですね」


「そこも業界的なものですね。正社員という扱いの者は少ないんです。取引相手も複数の事務所を相手に仕事をしていることがほとんどで。当社の場合、正社員というと企画、マネジメント、経理総務くらいですね。他は全部外部委託です」


「ああ、すみません。つい癖で。御社が健全な経営をしていることは分かりました。和也が断わったのにこれをお出しになったということは続きがあるんですよね?」


「そうですね。とりえあず冊子の続きで業務内容のところを見ていただけたら、当社がどのような活動をしているのか、なんとなく分かっていただけると思います」


「アイドル、インフルエンサー、ライブ、CD販売、なるほど、一般人の思う芸能事務所とあまり違いはなさそうですね」


「そうですね。業界モノの作品などで紹介されることも多くなりましたので、芸能界の裏側、とは言っても皆様がご存じの通りかもしれません」


「あまり良くない話が聞こえてくることも少なくありませんが」


「仰る通りで、芸能界には古くて悪い習慣が多く残っています。ですが当社ではそういった慣習には一切手を出しておりません。芸能の神に誓って、それはお約束できます。当社では契約書面にも明記しています。未成年者を預かるわけですから、そこは絶対に守られるべきラインですし、また守ってもいただきます。もしそのような事実が確認された場合は契約解除、損害賠償の対象となります。お互いに」


「つまり――」


 母さんが何かを言いかけたところで前菜が運ばれてくる。


「まずは食事を楽しみましょう。本題はその後で」


 食事はいわゆるフルコースで提供された。

 つまり一品ずつ出てくる仕組みだ。


 僕とメルはテーブルマナーが分からなかったので、咲良社長に教えてもらいながら食事を進める。


 なんで母さんはさらっとできてるんですかね?

 あと分かるなら母さんが教えてくれても良くない?


 メルが出てくる度に、ちょっと物足りなさそうな顔をしては、口に入れて満面の笑みを浮かべて、次の料理が出てくるのだと分かるとウキウキしながら待っているのが本当に可愛い。

 持って帰りたい。

 まあ、一緒に帰るんだけど。


「セリフ無しで食レポができそうですね」


 咲良社長がそう言ってから、おっと、と口元を手で隠した。

 思わず本音が漏れたという感じだ。


 わかる。

 その気持ちは痛いほど分かる。


 メルは本当に美味しそうに、幸せそうに食べるから、その姿だけでこっちまで食欲が湧いてくるのだ。


 流石にデザートが出てきて終わりだと分かったメルが、惜しそうにちょっとずつムースを食べて、無くなったことを残念そうにしていたら、もう一品デザートが出てきて、僕までびっくりする。サービスとかじゃないよね?

 そう思ってお品書きを確認したら予定通りの構成らしい。


 デザートが2品出てくるの? そういうの普通なの?


 とにかく流石のメルもこれにはご満悦だったようで、小さなケーキをちまちまと味わって、ふわぁと満足げな笑みを浮かべた。


 奈良ホテル、完璧やんけ。

 奈良ホテル、すごい。


 食後に飲み物が提供されて、僕らは本題に入った。


「先にカズヤさんとお話しさせていただきまして、オリヴィアさんとは業務委託契約ではなく、お互いに協力を約束する合意書で済ませようと思っています。まず最低でも1ヶ月間は無償でオリヴィアさんをお借りする代わりに、当社はその持てるノウハウを注ぎ込んでオリヴィアさんのチャンネルを収益化します」


 そこで咲良社長は一息吐いたが、こちらに続きを預けることはしなかった。


「それを基本骨子に合意書を更新していきます。オリヴィアさんの事情から、金銭は発生する契約は避けます。いずれ必要になった場合は、カズヤさんのお母様、あるいはお父様と業務委託契約を結び、そこからオリヴィアさんを派遣してもらう形にすることで、当社の法的な義務を回避します」


「つまりオリヴィアちゃんは御社が契約した委託先が派遣してきた娘で、その身元の確認義務は委託先にある、ということですね」


「そういうことです」


 咲良社長は頷いた。


 こちらに責任を押しつけているようにも聞こえるが、逆に言えばそこを追求はしないという意味でもある。


「私はこのようなことに詳しくないので、主人に頼むことになります。ですので今すぐご返答はできかねます」


「はい。業務委託に関してはまだ先の話です。ゆっくり考えてもらって構いません。いいえ、じっくりちゃんと相談して検討してください。リスクを負うのはお母様やお父様です」


 母さんはその言葉をじっくりと噛みしめた。

 そして何故かふっと笑った。

 なんだかちょっと寂しそうに見えたのは気のせいだろうか?


「カズヤ、あんたが、ううん、2人で選んだのね。これが必要だと思ったのね?」


「そうだよ。オリヴィアのやりたいことと、例のあの話に対して僕らができること。無理のない範囲でできることを考えたらこうなった。僕らで決めたことだ。僕らがやりたいことなんだ」


 母さんはじっと僕の顔を見つめた。

 強い意思を込めたその瞳を僕は目を逸らすことなく見つめる。


「本当にアンタは変わったわね。ちょっと前までおもらししてたのが嘘みたい」


「いくらなんでも戻りすぎだよ!」


 漏らした記憶なんてないぞ。

 何歳の時の話だよ。


 メルもなんか興味ありげにしない!

 なんでそんなに僕のおもらしに興味津々なの!?


 母さんはそんな僕とメルを交互に見て頷いた。


「花伝さん、カズヤは私の子ですが、オリヴィアちゃんも同じように大切に思っています。どうかこの2人に力を貸してやってください。よろしくお願いいたします」


 母さんが頭を下げる。


「お母様、頭を上げてください。私とカズヤくんは対等に、契約書は無いですが、対等な契約を交わしたものだと思っています。何度でも言います。私たちは対等です。私も2人に力を借ります。私は2人に力を貸します。そしてなによりも大人の責任として2人を守ります。必ず、必ずです」


 咲良社長は真剣な顔で、まるで聖女が神に祈りを捧げるような神聖ささえ漂わせてその言葉を口にした。


 そう、これが星の守護者。

 花伝咲良と僕らとの出会いだ。

これにて第7章が終了。


次回からは楽しい楽しいとぉっても楽しいアイドルグループ攻略RTA編が始まるぞ!

あ、これネタバレだったか?

まあいいか。

10分後にちょっと一旦キャラ紹介を挟んで、そのまた10分後から第8章が始まります。


1人落ちるまでは10分更新で突っ走るんで、よろしくな!


面白かったよ!続きが気になる!という方はブックマークと、☆のクリックを是非よろしくお願いいたします。

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