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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第7章 メルを配信者にしよう

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第235話 僕らが確認しないといけないこと

 翌日、僕がアーリアにキャラクターデータコンバートすると、メルが約束通り待っていた。

 失ったと思った日常が戻ってきたのだ。


 って言っても丸1日のことだったけれど。


 ただ僕の喪失感はそれほどまでに大きく、そして得たものはそれ以上に大きい。


「僕らにはちゃんと確認しておかないといけないことがある」


「そうだね」


 メルはベッドに寝転びながら手にしてた漫画の単行本を置いて、ちゃんと座り直すと頷く。


「メルを地球で有名人にして世界に呼びかける計画を続けるかどうか」


「あ、そっち?」


 メルは意表を突かれたように目を大きくした。


 え? 今なんか変なこと言った?


「そっちって、違う方はどっち?」


 僕が訊くと、メルはぶんぶんと首を振った。

 ぺちぺちとポニーテールが僕に当たる。

 案外痛いんだけど、レベルのせい?


「なんでもないよ。続けて」


「じゃあ仕切り直すよ。……正直に言うと僕が掲げた世界を救うというのはメルに立ち上がってもらうための方便だった。嘘じゃないけど、僕がどうしてもやりたいことじゃない。優先順位は低いんだ」


「そうなの? 世界が危ないんじゃないの?」


「危ないとは思う。運営が何をしてくるか全然分からない。けれど世界が消滅、みたいなことはまず起きないと思う。運営がかつて僕のほうの世界を大学から買い取ったとして、少なくない資金と時間をかけたはずで、そんな舞台をいきなり壊すようなことはしないはずなんだ」


 メルは少し考えたようだったが、すぐに諦めた。


「うーん、よく分からないけど、あまり心配はしなくてもいいってこと?」


 まあ、アーリアには大学とか無いし、テレビゲームも無いしね。

 この世界が運営によって生まれたことは知ってても、どういう目的かまでは知らないみたいだし。


「それは分からないんだけど、なんにも分からないから、皆に備えさせて何も起きないということもありうるんだよね」


「そうなんだ。こっちだと告知は定期的に絶対あるって認識だなあ」


「あっちだとまだ1度も無いからね。このまま無いということもありうるかなって」


 その確率は低いと思うけど、時期については本当にまったく分からない。

 明日告知があるかもしれないし、10年後、100年後ということもありうる。


 運営の時間感覚が僕らと同じという保証も無いし、なんなら地球には目もくれず別の知性体がいるところで、すでに大々的に告知とイベントをしている可能性だってある。


 告知への準備に僕らの人生のリソースを割きすぎるべきではないと思う。

 あくまで僕らは僕らの人生を生きるべきで、その余暇の時間を使って対策をすればいいはずだ。

 それ以上の責任など僕らにあろうはずがない。


「分かった。つまりひーくんが私を有名にする動機はもう無いってことだけ分かっていればいいよね?」


「それでいいよ」


「でも私の動機は消えてない」


「一応、メルも分かっているとは思うけれど、ご両親があっちの世界で生きている可能性はとても低いよ」


 メルが僕との関係を切ろうとしたことからも分かる通り、メルにとってこの計画は絶対的なものではないはずだ。

 つまり彼女は絶対に両親があっちの世界にいるとは思っていない。


「でもゼロじゃないよね。私はやりたい。成果が出なくてもいい。やるだけやってみたいんだ」


「もう一度言うよ。可能性は低くて、道のりは困難だし、運の要素も大きい。例えばメルが世界的な有名人になって、ご両親があっちの世界にいても、その姿を目にしない可能性だってある」


 僕が否定を重ねるとメルは口元を隠して笑った。


「ひーくんが私のしたいことをそんな風に言うの初めてかも」


「僕の知っていることは可能な限りメルに伝える。僕はメルの背中を押すんじゃなくて、隣に立って周囲を照らすよ」


「片手はちゃんと空けておいてね」


「――?」


 僕が首を傾げるとメルはそっと僕の手に触れた。


「いつでも手を繋げるように」


 ああ、そうか、隣に立つってそういうことなんだ。

 僕はずっとメルの背中しか見ていなかった。

 後ろから追いかけているつもりでいた。


 過去の僕がしなきゃいけなかったのは目の前の背中を押すことじゃなかった。

 僕自身が隣に立てるように、メルに追いつけるよう努力することだったんだ。

ひーくん、そっちじゃないほうを確認していれば……。

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