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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第7章 メルを配信者にしよう

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第230話 僕はようやく君を見つける 13

 ニーナちゃんは治療院での仕事をもう辞めているのだけど、暇がある度に顔を出してその回復魔法を報酬も無しに惜しみなく使っているんだそうだ。

 そう聞いていたので彼女と初めて会った治療院に行ってみたところ、無事に会うことができた。


 一方的な施しは決して良いとは言い切れないと僕は思っているのだけど、ニーナちゃんの場合はこれまでお世話になった分、という側面があるのでなんとも言えない。

 実際、彼女ほどの年齢でも働くのが当然のアーリアとは言え、1人で8人家族を支えているというのは珍しい。

 治療院はそれなりの報酬を彼女に支払っていたはずで、年齢を思えばそれは適正な額を上回っていたことは想像に難くない。


 ニーナちゃんの家庭の事情について僕は詳しく聞いていない。

 メルがヒアリングを済ませており、稼ぎがあれば問題ないとのことで、僕はそこから踏み込むことはしていなかった。


「カズヤさんの印象ですか?」


 治療院の空いている診療室を借りてニーナちゃんにまずは僕について聞いてみた。


 ニーナちゃんは首をぐいぐいと捻る。

 彼女の考えるときの癖で、あちこちへと視線を向けるのに合わせて首が動くのだ。

 ニーナちゃんはしばらくそうしていたかと思うと、ピッと手を真っ直ぐに上げた。


「裏のリーダーです。こう、メルさんを表に立ててる印象です!」


 なんだろう。

 ニーナちゃんにそのつもりはないんだろうけど、言葉の印象が凄く悪い!

 メルを裏から操る悪の黒幕みたいになってない?


「ニーナちゃんが言いたいのはつまり僕が後ろからパーティを支えているとかそういう意味だよね? 資金面でというか」


「はい! パーティの目的こそメルさんのものでしたけど、実際的にパーティを動かしていたのはカズヤさんですよね。メルさんも大事なことは絶対にカズヤさんに確認を取っていましたし、私はカズヤさんのパーティだと思っています。あ、でもこれってカズヤさんの印象とはちょっと違いますよね。えっと……、カズヤさんは、なんというかお兄ちゃんがいたらこんな感じだったのかな、って思ってます。私、一番お姉さんなので! 頼れるお兄さんができてとっても嬉しいです!」


 あー、ニーナちゃんの前ではつい兄っぽく振る舞っていたところはあるかも知れない。

 なにせ水琴が出生してからずっとお兄ちゃんなので、どうしたってお兄ちゃんらしい振る舞いをしてしまう部分はある。

 そう、学校でどんなにヘコまされていようと、妹の前では強がるのがお兄ちゃんってものなのだ。


 なんか前衛2人組とか、ロージアさんには人間の本質的な深い話をされてしまって、僕もつい難しく考えていた。けれどニーナちゃんくらい単純でもいいのかもしれない。

 いやニーナちゃんは僕よりずっと年下なのだけど。


「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。僕には妹がいるから、ニーナちゃんにも同じような感じで接していたのかも知れないね」


「そうなんですか? カズヤさんの妹さんにも会ってみたいです! あ、でもカズヤさんの故郷は遠くなんでしたよね」


「最近、近くに来たから会える機会も作れるよ。今度、妹にも話しておくね」


「わあ! ありがとうございます!」


 うーん、ほっこりするなあ。

 水琴もこれくらい素直だといいのに。

 いや、素直だからあの罵倒なのかもしれないけれど。


「それとね、これも皆に聞いて回ってるんだけど、ニーナちゃんから見たメルの印象も聞いておきたいんだ」


「メルさんの?」


「うん。ニーナちゃんのところにも来たんだよね? その、メルとちょっと喧嘩しちゃったからさ。仲直りの手がかりが欲しくて」


「そうだったんですね! メルさんは……、なんだか妹みたいだなって、年上なのに変ですか?」


 おおっと、新パターン。

 これまでの3人はどちらかというとメルを年齢より大人だと評価していたように思う。

 だけどニーナちゃんは妹みたいに思っているという。


 この違いはなんなのだろうか?


「ちなみにどういうところが妹っぽいって思うの?」


「ええと、メルさんは周りをよく見てるんですよね。そこらへんはカズヤさんも一緒だと思うんですけど、カズヤさんは誰かのフォローに回ることが多いじゃないですか」


「フォローされることも同じくらい多いとは思うけど、うん。そうしようとはしてる」


「メルさんも行動の結果は同じなんですけど、そこまでが違うというか。うまく言葉にできないんですけど、誰かを助けようとして動いてるんじゃなくて、……ごめんなさい。言葉が見つからないです」


 ニーナちゃんの年頃だとよくあることだろう。

 伝えたいことはあるのに、それに適切な言葉が見つからないということは。


「メルも皆のフォローをするために動いてるよね。それは僕にも分かる。ニーナちゃんが言いたいのは多分動機の部分だよね。なぜそうするのか、という気持ちの動きというか」


「はい! 流石です!」


「メルは、そりゃ僕とは違うけど、兄っぽさと、妹っぽさで分かれちゃうのはなんでだろう?」


 でも実際分かるんだよな。

 僕らが年上だからかも知れないけど、メルは確かに妹っぽい。

 年上組はメルのことを強がっている妹みたいに思ってるところはあると思う。


 でもそれを年下のニーナちゃんまで感じているというのは意外だ。


「どうしてでしょうね? メルさんは、誰かを助けに入るときも周りをよく見てるんですけど、そこかなあ?」


 あー、確かに僕は誰かのフォローに入る際、周りが見えなくなってしまうところはある。

 これはむしろ欠点で兄っぽさなのかと言われるとよく分かんないけど、メルは切羽詰まった状況下でも周りをよく見てるということは……。


「もしかしてメルは誰かに頼ろうとしているのか?」


 これまで聞いてきたメルが大人っぽく振る舞っているという話とは矛盾するけど、大人の目を気にしているということは、見られていることが大前提だ。

 それに両親を喪ったとはいえ、幼い頃から聖女ギルドで育てられたメルの傍には常に複数の大人がいただろうし、そういう人たちを無意識に頼りにしてしまうというところはあると思う。


 これはロージアさんが言っていた、人は複雑なもの、というところに繋がるのかな?

 メルには大人っぽく振る舞う部分と、庇護されようとする部分が同時に存在している、というような。

 人格として矛盾しているような気はするけれど、それを言えば僕だって行動や心情が常に同じ基準だとは言えない。

 人は矛盾するものだ。


「頼る、のとはちょっと違うような。ただ、なんというか、いつもどんな時も周りを気にされているんですよね」


「ひょっとして正解を探しているのかな?」


「正解、ですか?」


「うん。周りの人にどう望まれているか。つまり失望されていないか、他人の目が気になっているのかもしれない」


「そうなんですか……、メルさんにそんな一面が」


「そうだと決まったわけではないけどね」


 なんというか僕自身そういう性質があるから分かるのだけど、自分の行いが場に適しているか過剰に気になるという人がいる。

 うまくやれる人はそれこそ人間関係の潤滑油のようにうまく立ち回れるし、うまくやれない人はずっと周りの目を気にして挙動不審になったりする。


 もしかしてメルはこのうまくやれる側なんじゃないかと思ったのだ。

 あまりにもうまく周りに適応してしまうから、尖ったところのない平らな人間のように見えてしまうのかも。


 いや、もちろん決めつけられるものではないし、あくまでそういう一面があるかもしれないという程度のことだ。


 ただそうだとするならメルは僕が彼女に望んだ女神のような存在に無意識のうちになろうとしていたのかもしれない。

 僕自身の思い込みと、メルのそういう性質によって、勘違いはより強固になった。

 そういう可能性があるということだ。


 そしてそれはこれから僕がメルと接するに当たって気をつけなければならないということでもある。


「ありがとう。ニーナちゃん。すごく参考になった。それで今日はまだメルとは会ってないんだよね?」


「はい。家のほうに行かれたのかもしれません。私も毎日ここに来ているわけではないので」


「そっか、じゃあどうしようかな」


 待っていればそのうちメルはニーナちゃんを訪ねてくると思う。

 だけど僕がいることに気付いたら逃げちゃうかも知れない。

 かと言って隠れてるのもなんだか良くない気がする。


「お手紙を書くのはどうですか?」


「手紙?」


「はい。メルさんが私のところに来るというのなら、渡せますよね」


「そうだね。紙と書くものを貸してもらえる?」


「はい! よろこんで!」

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