第226話 僕はようやく君を見つける 9
僕はギルドを後にすると、その足でロージアさんの勤める店に向かった。
冒険者として大金を稼いでいるロージアさんだけど、冒険者を続けられなくなったときのために職場との繋がりを残しておきたいと、ダンジョンに行かない日は普通に針子として仕事をしている。
まあ、彼女の場合、元々冒険者になりたかったというよりは、水魔法のスキルが転がり込んできたから、せっかくだし、という記念冒険者みたいなものなので、冒険者家業に本腰を入れるつもりはないのかもしれない。
そういう意味ではうちのパーティに入ってもらってちょうど良かったのかも知れない。
普通の冒険者は毎日のようにダンジョンに行って魔石を稼ぐから、元の職があったとしても辞めて冒険者になるのが普通だからだ。
多分ロージアさんも元々はそうするつもりだったんだけど、僕の都合で7日に1回ということになったから、職場に残ったんだと思う。
大金を稼いでいるロージアさんに思うところのある人もいるだろうけど、今のロージアさん、レベル40だからな。
直接何かされる心配はいらない。
むしろその場合は相手の心配をしなければならないだろう。
水魔法は手加減を間違えると、相手があっさり死んでしまうからだ。
直接触れて相手の抵抗を上回れば体内水分操れるのは強すぎると思います。
そんなわけでとても清楚な人なのだけれども、ある意味一番怖い人だ。
表に面した店舗で店員に声をかけてロージアさんを呼び出してもらう。
あらあらまあまあ、という感じで現れたロージアさんを連れ出して、なんかお洒落な感じのするカフェのような店へ。
ロージアさんは着ている服は上等ではないんだけど、質素な感じがしないというか、この人、常に花でも背景に描かれてるんか、という雰囲気なので全然カフェの雰囲気に負けてない。というか勝ってる説あるな。
席についたロージアさんは何がおかしかったのかクスクスと笑う。
「どうしました?」
「いえ、おかしくって。きっと店員さんも変な目で見ているわね」
「どういうことですか?」
「だってお二人とも選ぶお店が一緒なんですもの。それとも私がこんな感じだと思われてるのかしら。だとしたら嬉しいわね。素敵なお店ですものね」
「メル……?」
僕は思わずその名を口にしてしまうけど、ロージアさんはニコニコと笑顔を振りまいて何も答えてはくれない。
「ロージアさん、メルから、パーティが解散するかもという話は聞きましたか?」
「ええ、カズヤさんと喧嘩をして町の外に置き去りにしてきたと聞きました。カズヤさんからご説明していただけますか? お2人の話をそれぞれできるだけ平等に聞きたいので」
お、大人の対応だ。
双方の意見を別々に、先入観を排除して聞くことができれば、真実に近付ける。
ただ人間関係のいざこざってどうしてもそれぞれの主観が強く入るから、事実を見つけ出すのは困難だ。
でもロージアさんはそれをしようとしてくれている。
なんか僕の印象なんだけど、ロージアさんはメルの意見をそのまま聞くと思ってました。ごめんなさい。
「端的に言うと意見の相違です。僕とメルではどうしても折り合えないことがあって、そしてそれは解消できないと言う結論でした。その場では」
「その場では、と注釈を置かれたということは、今は違うということですか?」
「それを確認したいと思って皆さんに話を聞いて回っています」
「それはとても良いことですね。カズヤさんの聞きたいこととはなんでしょうか?」
「それは、えーと」
シャノンさんとエリスさんに聞くのは全然気兼ね無かったけど、だって、あの2人、どうせ言葉がキツいって分かってたし。
でもロージアさんには別の緊張感があるな。
ロージアさんがなにか強く否定的なことを言っていた記憶は無い。
だからこそ彼女が否定的なことを言ったとき、僕はそれをとても重く受け止めてしまうかも。
「僕は僕という人間に自信がありません。期待していません。評価というものから避けてきました。どうせ最低だ、と。だけどそれが結果的にメルを傷つけてしまったのかも知れない。だとすれば僕はもう逃げてはいられません。でも自分の価値を自分で測るのは難しいです。特に僕みたいな性格では。だから皆さんから僕について聞きたいんです。お為ごかしではなく、本当の僕への評価を……」
「……」
ロージアさんは飲料や菓子には手を付けずに、しばらく黙った。
言葉を選んでいるのだろう。
「正直、驚きました。カズヤさんは自分で見える明確な基準を持っているはずなのに、気付いていらっしゃらなかったことに」
「明確な基準?」
僕が聞き返すと、ロージアさんはにっこりと笑った。
「お金です」




