第222話 僕はようやく君を見つける 5
シャノンさんとエリスさんは僕のことを賭けの対象として楽しんでいたわけだけど、そのこと自体に嫌悪を感じるようなことはなかった。
メルは僕とケンカをしたみたいな言い方をしたんだとは思う。
僕に告白されて振ったことを言いふらしたりはしない子だ。
というか、してたらこの2人が死ぬほどからかってくるだろう。
僕が二度とアーリアに戻ってこないようなケンカをした。
しかも町の外に置いてきた。
そう説明を受けてもなお、この2人は僕が戻ってくると確信していた。
そのタイミングを賭けにするのはどうかと思うけど、2人とも僕が早期に戻ってくると確信していて、掛け金はおそろしく小さくなった。
2人は僕のことを信じていたのだ。
だったら怒れないよ。もう。
あるいは2人の態度を深読みするのであれば、僕のことを心配していたのかも知れない。
僕がさっさとアーリアに帰ってくるように願掛けをしていた、と考えることもできるかも。いや、薄い線だけど。
「分かりました。賭けのことは不問にします」
周囲のあちこちで金のやりとりが行われていることは努めて無視した。
あんたたちも賭けてたんだね。
僕はバーカウンターで果実水を注文して受け取ってから、シャノンさんのエリスさんのテーブルの座席に着く。
「お二人に聞きたいことがあります」
「ここでの支払いは?」
「僕が持ちます。2人の分だけですよ」
周りに聞こえるように大きく言う。
逆に言えば、ここにいてもいいよ、ってことだ。
じゃなかったら、支払いをする代わりに人払いをしただろう。
「メルのことも聞きたいですが、その前に僕の話です」
「「へぇ?」」
2人は意外そうな顔をする。
それぞれにジョッキを呷って中身を空にしてから、テーブルに肘を突いてこちらにずいっと顔を寄せた。
「カズヤお前自分のことに興味があったのか」
「さっきまでありませんでしたよ」
「だろうな」
この2人にも僕が僕自身を無価値だと思っていたことを見透かされていた、ということなんだろう。
そんなに分かりやすいかな?
ちょっと話しただけのニャロさんにも見透かされたのだから、きっと分かりやすいんだろう。
「僕は自信がありません。自分が価値のある人間だと思えないんです」
「うんうん」
訳知り顔で頷くシャノンさんの頭をエリスさんが叩いた。
「続けて」
「なので僕はメルと対等だと思っていませんでした。彼女には価値があって、僕には無い。そう思っていたからです。でもそうではないと言ってくれた人がいました。僕も僕自身に価値があると思いたい。なので僕を知る人から、僕について聞こうかと」
「つまりあたしらにカズヤの査定をしろってこと?」
さらっと査定って言葉が出てくるところを見るに、質屋なんかも常連だったんだろうなあ。と、いらない想像をしてしまう。
「おおよそはそんな感じです。僕の良いところ、悪いところ、僕自身が気付いていないことを教えて欲しいんです」
「あたしらの印象でいいんだよな?」
「はい」
2人は考える前に、とジョッキを持ち上げてそれが空であることを思い出して、カウンターで中身を注いでもらってきた。
そしてそれをぐいっと飲んで身を乗り出した。
「良い話と悪い話がある」
「その言い方、こっちにもあるんですね。悪い方からお願いします」
「そうだなあ、まず性格が根暗で、いつも周りからの視線を気にしてビクビクしてる。臆病だし、実際弱い。金は唸るほどあるはずなのに、あたしらには実務に対してちょっと足したくらいの報酬しかない。これだけ親しくなったはずなのに、自分のことを何も話さない秘密主義者だ」
「それで良い方は?」
「お前は周囲の目ばかりを気にしている臆病者で、弱い」
「良い方の話なんですよね?」
悪い話として聞いたときは覚悟があったけど、今はちょっと心が折れそう。
「そうだ。周囲の目線に敏感だということは周囲に注意を向けているということだし、臆病者というのは慎重ってことだ。どちらも斥候として必要な能力だぜ」
「弱い、というのは擁護の余地がなさそうに思えますけど」
「お前の場合、弱さは強さなんだよな」
「どういうことですか?」
「弱いから強くなろうと努力するヤツがよくいるけどな、強くなるにも才能がいる。無理なヤツは無理だ。カズヤ、お前もそっち側だ」
まあ、自覚はあったけど、実力のある人から言われるとやっぱりショックだ。
どんなに頑張っても報われない。
そんなことはざらだ。
物語なんかで最初は弱かった主人公が、以前から努力している秀才たちをぶち抜いて強くなっていくのは、才能があるからだ。
もちろん努力も描かれるけれど、努力だけで強くなれないなんて、考えてみたら当たり前のことだ。
主人公のライバルたちも同じか、それ以上に努力しているに違いないのだ。
僕が強くなる間に、才能を持つ努力家たちはそれ以上に強くなっていく。
それが現実だ。
「だからお前は考え方を変えたろ。自分が弱いのはもう仕方がないから、別のやり方で目的を果たそうと考えた。人を雇ったり、道具を買ったり、周りに気を遣ったり、多分あたしが気付いていないことも色々してるんじゃないか? 強くなることが最終的な目標なら努力するしかないけどな。お前の目標は違うんだろ。弱いから色々考えて、工夫して、準備をする。それがお前の一番良いところだとあたしは思うぜ」
「何よりカズヤのやり方は全員の戦力の底上げなんだよな。お前は戦闘で目立つようなことは無いけど、アタシやこいつ、メルが心置きなく前に出て戦えるのはお前の事前準備や周辺警戒があるからだし、ニーナやロージアが後ろで支援に集中できるのも、メルが駆けつけられるようにお前が位置取りを指示してるところがあるだろ。そこで自分が守るんだ、ってなってないところもアタシ的には高評価だな。自分の戦闘力が客観的に評価できてる。町で会うと危なっかしいなって思うけど、ダンジョンだと安心感があんだよな。お前は」
「だけど失敗もよくしますよ」
「失敗なんて治せる怪我の範囲じゃ大したことないんだ。何より、お前は失敗したときに、『次からは気をつけます』って言わないだろ」
「そうでしたっけ? 気をつけたほうがいいと思うんで、今後直したいんですけど」
「違う違う。勘違いするな。失敗したら次からは気をつけるなんて、宣言するまでもなく、人間はそういう風にできてるんだ。失敗は忘れられないから、次の失敗は回避しやすい。こんなのは誰にだってできる、というか、当たり前のことなんだ。だけどお前はちょっと違うんだよな」
「違う、とは?」
「商人、いや、職人のほうが近いか。ああいう連中に多いんだよな。失敗が起きる要素そのものを発生させないように、手順や、道具そのものを変えてしまう、というような感じだ。なんて言うんだったか、とにかくそうすることで自分だけではなく、周りも同じ失敗が発生しないように前提そのものを変えてしまうんだ。最近の話だとサンドワームを見逃したお前は、魔導具を買ってきて地中のサンドワームも見つけられるようにした。これは『気をつける』のとはまったく違う話だろ。気をつけなくとも、そもそも見逃すことが起きないようにした」
「それって結構重要でな。気をつける、ということはそれに注意を払い続けるってことだ。その分、他のことへの集中が甘くなる。特にダンジョンのような環境ではただでさえ神経を使うから、可能な限り力を抜いて、でも安全な状況を作れるにこしたことはない。凍土での寒さへの対策なんかも、普通は暖衣の魔術を使うんだろうが、お前の持ってきた下に着る防寒着のおかげで使わなくて済んだしな」
あんとき使ってなかったんかい!




