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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第7章 メルを配信者にしよう

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第213話 知りたくなかったことも知ろう

 その後、僕らは推しの概念をメルに伝えるのに四苦八苦したけども、結局は画家の話に舞い戻った。


 好きな画家に、その画家が好きな絵を描いてもらうためにお金を出すような、つまり自分の希望を押しつけない支援者の気持ちだという話になったけど、本当にこれで合ってるのかな?


 少なくとも僕のメルへの気持ちから恋愛感情を差し引けば、そんな感じで間違いないけれど。


 まあ、同じ言葉でもその認識の仕方は人によるから、これは今のこの推しの概念に限らず抱くべき疑念なんだろうなあ。


『大体分かりました。それではオリヴィアさん、一度退席していただけるかしら。かずやくんと話がしたいので』


 30分ほど雑談をした後、ニャロさんがそう言ってメルとの面談を打ち切った。


「ニャロさん、ありがとうございました。それじゃひーくん、お願いね」


 メルはそう言って、ずっと画面外にいた水琴と一緒に部屋に向かう。


「どう、でしたか?」


 メルが座っていた席に着席した僕はニャロさんに面接の是非を聞く。

 しかしニャロさんは椅子の背もたれにもたれかかって、天井を仰いだ。


『あーー』


 謎の奇声を上げるニャロさん。

 そして両手を上げて、顔を覆った。


『てぇてぇ』


 謎の呟き。

 僕は声をかけていいのか分からずに、謎の所作を見ていることしかできない。


『てぇてぇー』


 もう一回言った!


『ヘテロもいいというか、わたし元々そっちの畑だったわー』


 もう完全に僕は置いてきぼりで、見えない天井に向かってニャロさんはつぶやき続けている。怖い。


 ヘテロってなに?

 ギリシャの神様かなにか?


『あ゛ーーー』


 長い長いダミ声の後で、ニャロさんはようやく顔から手をどけて、元の姿勢に戻ってきた。


『……ちょっと昔語りしていい?』


「それ長くなりそうですか?」


『三日三晩続くわ』


「それで協力をお約束いただけるのであれば……」


 嫌だけどやるしかないよなあ。


 僕が覚悟を決めてそう言うと、ニャロさんはへにゃっと相好を崩した。


『はぁー、てぇてぇ』


「そのてぇてぇってなんですか?」


 流石にそろそろ聞いておかないと会話に齟齬が生まれそう。


『ごめん、その言葉が聞きたかったって言いたかったの』


「どんな言い間違えなんですか……」


 なんかこの人に協力頼んだの間違ってたんじゃないかって思えてくるからやめて。


『でもまあ、事情は分かったわ。オリヴィアちゃんはご両親を探すために有名になりたいってことよね。警察とかが無力ってことはMID?』


 ダンジョン内行方不明(MID)って久々に聞いた気がする。

 まあ、僕がそうだったんだけど。


『だとして君はオリヴィアちゃんの現実逃避にどこまで付き合うつもりなの?』


 ニャロさんは鋭い口調で問うてくる。

 日本でMIDが認定され、死亡扱いになるのに半年。

 メルのケースでは10年が経過している。

 日本的感覚で言えば、メルの両親は絶望的を通り越している。


 だから僕は答える。


「どこまでも」


 僕の答えを聞いてニャロさんは数秒黙り込んだ。


『なるほど、支援者ね。言い得て妙だわ。君は彼女が地獄に向かいたいって言っても手伝うんでしょうね』


「彼女のご両親を探しに行くとして、その表現は不適当です。訂正してください」


『分かった。君は天国へだって彼女の手を引いていくんでしょう。まるで天使のように。悪魔のような心をそのガワで隠して』


「協力いただけないのであればそれでもいいです」


 喧嘩を売られているなら、相手にしないのが一番だ。

 父さんの紹介だけど、だからと言って納得できないことに負けたくない。


『ごめん。私情が入ったわ。これはビジネスの話だったかしら?』


 僕は言葉に詰まる。

 ビジネスの話にしてはいけない。

 ほんの少しとは言え、商人として仕事をしているから分かる。


 ビジネスは双方にバランスの取れた金銭的利益があって成り立つ。


 だけど僕がニャロさんに対価として提示したのは体験だ。

 これは金銭に換えられない価値があるが、つまり金銭には換えられない。


 ニャロさんを顧客として考えるのならばそれでもいいけれど、ビジネスパートナーとしては成り立たない。

 ビジネスの場に手札を置いてはいけない。


 場、そのものを変えなくてはいけない。

 選んだのは僕自身だ。


「認めます。僕は彼女に好意を持っています。人間的な、ではなく、個人的な、そう、私情です。その上で僕はその私情を殺します。僕が思うより良い未来ではなく、彼女が選んで進む先へ、背中を押します。手を引きます。隣を歩きます。僕はそう決めています」


 ニャロさんは眉の間を指先で叩いた。


『……それはね、少年、責任放棄だ。彼女の隣を歩きたいなら、行く先を彼女に委ねないで一緒に決めなさい。言葉を交わしなさい。相手を知ろうとする努力をするんだ。そして同じくらい自分を伝える努力をするんだ。君は賢者の贈り物という物語を知っているかい?』


「クリスマスの童話でしたっけ?」


 確か夫婦がお互いにプレゼントをするけど、なんだっけ、髪飾りを買ったのに髪を売ってしまっていたみたいな感じだっけ。

 贈った物は無意味になってしまったけれど、気持ちは届いた、みたいな。


『私はあの物語が嫌いだ。自己犠牲の正当化だよ。相手のために自分の何かを犠牲にするなら、事前に相談するべきだった。何故なら自分が相手を思いやっているように、相手も自分を思いやっていると知っているのが伴侶というものなのだから』


「はんりょ?」


『連れ合い、結婚相手、人生を共に歩む人という意味だ。パートナーを日本語に翻訳するとそんな感じかもしれない。あー、高校生だとそういうの意識しないから知らないか。付き合ってる相手を伴侶とか言う高校生いたらぶっ飛ばす』


 自分から言いだしておいて暴力は怖い。


「僕と彼女はそういうのではないですよ。僕たちはお互いに支援者なんです。サポーターですよ」


『いや、まあ、うーん。とりあえずそれについては話し合ってね。いや、本当に』


 眉の間をトントンと叩きながらニャロさんはそう言うと背筋を正した。


『本当にだ。それが条件だ。君たちで話し合って、それでもこの道を行くと決めたなら、私は自分の決めた範囲で力を貸すよ。その代わり、時々君たちと話がしたい。2人揃っての時もあるだろうし、どちらかとだけ、ということもある。タイミングも長さもまちまちで、君たちは都合が悪ければ断わってもいいけど、それなりに埋め合わせをする努力をして欲しい』


「その力を貸していただける範囲を具体的にお聞きしたいです」


『まず余暇の時間が許す範囲で動画、画像の編集を請け負うし、技術も知識も教える。コネは総動員とは行かないが、そうだな、とりあえず提示できるところで芸能事務所に協力を取り付ける。大手ではないけどね』


 想像以上の手札を開示されて僕は絶句する。


「……あなたは何者なんですか」


『インターネットの亡霊だよ。地道に長いことやっていたら、こうなった。ブルーオーシャンを泳ぎ切ったものの特典さ』

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