第211話 ニャロさんと話そう
謎の評価点が0点になった僕が時計を確認すると、ニャロさんの最後のメッセージから30分が過ぎようとしている。
僕は慌ててパソコンの画面を確認したが、まだニャロさんのアカウントは離席マークが付いたままだ。
まあ、こちらだけでも準備しておくか、と、僕が座っていたところにメルを座らせて、マウスを操作する。
いや、これ近くていい匂いがするし、なんなら体温も感じるような気がする。
僕は煩悩退散と念じながら、パソコンのインカメラの角度を調整した。
パソコンのカメラって絶妙に可愛く映らないよな。
高さが悪いんだろうか。
画質が悪いんだろうか。
僕には判断ができないが、両方を解決する手段はある。
外付けカメラだ。
こっちの電子系のものをまとめてある引き出しに入っていた気がする。
僕がリビングの引き出しを勝手に開けると、記憶の通りにノートパソコンのモニター上部にクリップで留める方式のUSB接続WEBカメラがあった。
僕は早速、メルの前にあるパソコンにUSBを差し込む。
ドライバのインストールらしき反応が無かったので、このPCでも過去に使われたことがあるようだ。
映像入力デバイスを変更して、と。
新しくPCに入ってきた映像は画質も上がり、設置位置が高くなったことにより、画角も変わった。
完璧、とは言えないけれど、先ほどまでよりは断然マシだ。
細かい調整が終わったところでニャロさんからメッセージが届く。
『ごめん、遅くなったね。準備できたよ』
『こちらはいつでも大丈夫です』
『じゃあこっちから繋ぐね』
……一拍あってから着信音が流れる。
僕がマウスを操作して、通話に応答した。
画面にぱっと現れたのはパリッとしたスーツ姿の若い女性だ。
若いと言っても、父さんと比べてしまっただけで、僕らよりは全然上。
30歳前後だろうか?
逆に年齢聞きにくいところあるな。
万が一向こうから話題を振ってきたら20台前半ですか? って言おう。
ぱっと目に付くのは癖の無い長い黒髪だろう。
前髪はおでこでぱつんと切りそろえられているけれど、顔の輪郭は髪で覆われている。
失礼ながら、もうちょっと横に広く前髪を切ったほうがいいんじゃないかな?
だが強い視線を感じてそれを提言することはできない。
切れ長の瞳は意思の強さを感じさせる。
目元のメイクがそれを強調させていて、威圧感を与えるのが目的のメイクなのかも知れない。
最後のほうは僕が主導権を奪った形になってしまったので、それをメイクで取り返しに来たのかも。
実際、なんか圧が凄い。
通話は繋がったのに、なんで無言なんですか?
「ねえ、ひーくん、これもうお話しできるの?」
「そう、もう声も届いているし、この画面が相手にも見えているよ」
「わっ、そうなんだ。こんにちは。ニャロさん。はじめまして! オリヴィアです。よろしくお願いします」
メルが持ち前の初対面特攻距離感ゼロ攻撃を仕掛ける。
『ニャロです。本日はどうぞよろしく』
ビシッと空気の張り詰める音が聞こえるような返事だった。
場の雰囲気を奪い返されたと分かる。
メルの出していた、友だち作ろうって空気から、はっきりとビジネスの場に変わった。
『映像は拝見しました。オリヴィアさん、大変素晴らしいダンスでした。血の滲むような努力だったと思います。ですが、あの動画を公開することは、ひとりのプロとして奨めることができません。クオリティが足りないのです』
「そうですよね。練習では何回か通しで踊ってみただけで、クオリティが高いとはとても言えないと思います。動画にしてもらったときも一回しか踊ってませんし」
『は?』
ニャロさん、なんでこっちを睨むんです。
僕、嘘は言ってないです。




