第207話 家具を発注しよう
無事アーリアに戻ってきた僕たちはローレンスさんの契約している不動産屋で契約の手続きを済ませ、ジェレミーさんの勤める工房に家具一式を発注した。
家具は制作してもらうがオーダーメイドではない。
アーリアには規格品という概念が無いし、在庫もあまり置かないし、カタログがあるわけでもない。
基本的に職人にお任せだ。あるいは自分で作る。
形やデザインを好みのものにするというのは、どの工房を選ぶか、ということだ。
ジェレミーさんの工房がどんなものを作っているかは見せてもらった。
あんまり装飾は入れずにシンプルだけど、頑丈で長持ちするものを作っているようだった。
なんか、こう、実用的って感じ。
水琴はあんまりだったみたいだけど、僕は好きだ。
見せてもらったのはまだ完成していない製作途中のものだったけれども、木材の角部分が丁寧に削られていて、こういう些細なところにちゃんと手をかけているところがいい。
職人を現地に派遣して製作する都合上、今抱えている仕事もあり、すぐに取りかかれるわけではないそうだけど、金貨を積んだお陰である程度、優先順位を上げてもらえるようだ。
別に他の仕事の納期を遅らせるわけではなくて、僕が出したお金で人を臨時で雇って作業を早く進めるらしい。
まあ、アーリアだと日雇いの仕事も多いから普通のことだ。
僕がやってた薪割りの仕事もそうだったし。
それでも完了まで1ヶ月はかかるとのことだ。
まあ、庭が使えないわけではないので僕たちの用途としてはしばらく足りる。
不動産屋のお婆さんにも契約したことを伝えて、僕たちは現代日本に帰ってきた。
途端にスマホが震えてLINEの通知が表示される。
知らない名前だ。
あ、ひょっとして、と思ってロック解除すると友だち登録されていない誰かからメッセージが届いている。
名前はニャロ。
本当に覚えが無いので、父さんの知り合いだろう。
「メルと水琴は自由にしてて、僕はちょっと忙しくなりそう」
「うん」
「りょ」
2人が水琴の部屋に向かったのを確認して、僕はスマホに目を落とす。
『はじめまして』
『餡かけうどん、っても分からないか』
『君のお父さんから、アドバイスをしてやってくれとお願いされてね』
『まずは一食分話を聞くから、DiscordのID教えてもらってもいい?』
タイムスタンプは今日の昼過ぎくらいだ。
アーリアにいると当然電波が届かないので、未読放置の状態だった。
既読もついたことだし、慌てて返信を打つ。
『はじめまして。ありがとうございます。Discordいまからダウンロードするので、もうちょっとお待ちください』
送信、と。
プレイストアからDiscordをダウンロードしてインストール。
アカウント作成して、って、これは僕のアカウントってことでいいのかな?
僕のスマホだし、そのほうが便利か。
でもユーザー名、どうしよう。
まあ、ひとまず本名でいいか。
kazuyaっと。
などとネットリテラシーのかけらもないことをする。
スマホでアカウントを作成して、ユーザー名をLINEで送ると、一呼吸おいてDiscordにニャロさんからフレンド申請が来たので承認した。
『この時間動けるってことは学生?』
さっそくメッセージが飛んでくる。
『はい、高校生です』
『若いね-。若さを分けてもらお。ずるるるるr』
『大学生くらいになってしまいましたね。ニャロさんはいまお時間大丈夫なんですか?』
『ちょうど休憩してたからへーきへーき。ところでその名前、本名?』
『はい。discord自体いま入れたので、とりあえず仮で』
『じゃあネットでの活動名もまだ決まってない感じ?』
『いえ、それは決まっています。メインで出てくるのは女の子なのでオリヴィアという仮名を使います』
『そうじゃなくて君の名前。黒子に徹するとしても、交渉役として裏で活動はするんでしょ。その名義が必要じゃない?』
『そうですね。考えておきます』
『いま考えようよ』
『お時間大丈夫なんですか?』
『睡眠時間を犠牲にすれば!』
『考えておきますので、それは今度にしましょう』
『あいあい、で、動画投稿について教えて欲しいんだっけ?』
『全般的に学びたいとは思っていますが、さしあたって今は撮影した動画があるので、そのサムネを作りたいんです』
『絵コンテもって聞いたけど?』
『今回は既存のダンス動画からダンスをしてみただけの動画なので、変にMVっぽく作るのは逆にどうかなと思っています。最初の動画ですし』
『ふむふむ。一旦、その動画を見せてもらうことってできる?』
『分かりました。ファイルを送りますね』
僕はとりあえずニャロさんに編集済みのダンス動画を送った。




