第204話 物件を内見しよう 2
そのお家は僕の住んでる日本の家と比べても決して大きいとは言えないし、とても古いと分かるけれど、何故か居心地が良かった。
「なんかお婆ちゃんの家って感じ」
水琴が言うけど、我が家のお婆ちゃんはどっちももっと現代日本風の家に住んでるからな。
でもまあ、言いたいことは分かる。
壁や柱の補修の跡、逆に残された傷。
長い時間、丁寧に思い出を積み重ねて大事にされてきたのだと分かる。
外壁は煉瓦、内装は木造、調理場はあるが、お風呂は無い。
アーリアには公衆浴場の文化があったけど、農村にはさすがに無いんじゃないかな。
広いとは言えないリビングに、部屋が2つと、物置が1つ。
家具が無いからがらんとしていて、余裕があるように思えるけど、これ多分家具が入ったら手狭に感じるんじゃないだろうか。
まあ、なんにせよ実際にここに住むわけではないから、ダンスの撮影という観点で見ると、家具を入れなければリビングで撮影ができそうだ。
だけど映像として考えると、家具の入った部屋のカットとか入れたい気がする。
まあ、それは本来寝室であろう部屋でやってもいいのか。
家具についてはとりあえず保留だな。
「いいお家だね」
「そうだね」
メルも好意的だ。
続いて僕らは庭に出る。
外から見て分かっていたけど、見事に手入れされた立派な庭だ。
外側から見ると華やかだったのに、内側から見ると落ち着く色合いに思える。
植えてある花々の色合いが計算されているんだと思う。
狙ってやってるんだとすれば、すごい色彩感覚だ。
ちゃんと間を歩けるように間隔も空けてある。
「素敵なお庭……」
メルが放心したかのように呟く。
別に僕に語りかけてきたわけではないだろう。
思わず言葉が口を突いて出てきたのだ。
良い物件だ。
僕らにとっては特に。
ここに住むのだとすれば、他所のお婆ちゃんが勝手に入ってきて庭を弄るというのはストレスになりそうだけど、僕らがこの家に求めるのは動画の背景としてだ。
あと状況によっては余暇を過ごす、あるいは避難場所として使うかもしれない。
なんにせよ留守にしている時間が長いだろう。
そんな中で出入りして庭を手入れしてくれる人がいるというのは単純にありがたい。
もし手元にカメラがあればメルを撮りまくっているだろう。
この色合いの庭であれば、背景ボケで撮っても弱くない。
逆に被写体であるメルが背景に……、負けるわけはないな(謎の自信)
僕らはそれぞれに謎の確信を得て、お隣に戻った。
「どうだった?」
心配そうに聞いてくるローレンスさん。
自分の生家だと言っていたから、思い入れがあるのだろう。
自分の人生の一部だ。
悪く言われないか心配になるのちょっと分かる。
「とても良いお家ですね。大事に住んでいらっしゃったんだと分かります。僕らは定住が目的ではないので、お母様に庭を手入れしてもらえるのはむしろありがたいです。その、先は分からないのですが、とりあえず1年のお約束で借りたいと思っています。聞いていらっしゃるかもしれませんが、その分の家賃は先払いしますので」
「あら、嬉しい。更新のタイミングはどうする?」
「ああ、確かに」
1年後にもし僕らが契約を更新しないとなったら、ローレンスさんはまた借り手を探さなければならない。
借り手がいなければその分の賃料収入を得られないわけで、機会損失というやつだ。
「では先んじて2年分をお支払いします。1年毎に更新するかどうかお伝えさせてください」
「それは悪いわ」
「お庭を管理していただく料金だと思っていただければいいかな、と。あ、ええとそれだと月々管理料をお支払いしなきゃいけませんね」
「それは貰いすぎになるわ~。他にも細々とした条件があるから不動産屋さんで確認して契約してくれると嬉しいわ。基本的に現状渡し、原状回復になるのかしらね」
「僕らは冒険者なので突然来なくなる場合もあると思います。それ込みでの先払いなのですが、その場合の家具の処分期限なんかはどうしましょう?」
「そうならないのが一番だけど、更新がされなかった場合の期間末が妥当じゃないかしら?」
「そうですね」
「あの、お庭に来てくださるというお母様にもお会いしたいです。その、お母様にとっては私たちが借りても自分の家だと思うので」
メルが言う。
確かにその人が頻繁に庭に出入りするなら僕らとの相性も確かめなければならないだろう。
こういうの真っ当な人付き合いをしてこなかった僕はすぐ気付けないんだよな。
助かる。




