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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第7章 メルを配信者にしよう

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第203話 物件を内見しよう

「うう、お尻が痛いよう」


 水琴が泣き言を言う。


 翌日のことである。

 僕たちは3人で不動産屋のお婆さんに紹介してもらった家を内見するためにアーリア市外の農村へと馬車で向かっている。


 初めて乗る馬車に水琴が興奮していたのは最初の30分くらいで、その後はガタゴト揺れる馬車の座席にお尻を叩かれ続けて参ってしまったようだ。


 僕も馬車に乗るのは初めてだけど、レベルのおかげかお尻が痛くなることはない。


 アーリアから南へと向かうと小麦畑が広がっている。

 収穫時期を間近に迎えた黄金色の小麦が、夏の爽やかな風に合わせて揺れる。


 まるで風が見えるようだ。


「アーリアの周辺で小麦の育成に向いているのはこっちのほうだけなんだ」


 メルはそう説明してくれた。


 西部にはアーリアのダンジョンがあり、東部には森がある。

 北部は川の水がアーリアの排水で汚れていて、そっちで育てられた作物はあまり好まれないとか。


 アーリアは工業排水とかがあるわけではないんだけど、いわゆる下水道にあたるものがなくて、汚物の類いは町の至るところにある水路に流してしまう。

 川は見た目で汚染されていると分かるほど汚いわけではないけれど、汚物を流した下流というイメージがどうしても受け入れられないらしい。


 なお、ほとんどの人は湧き水の魔術が使えるので、北部に住んでいる人でも飲み水に困ることはない。


「そろそろ言われた村に着くぞ」


 御者台からそう声をかけてきたのはジェレミーさん。

 ちなみにメルが前に働いていた酒場の常連さんで、大工である。御者ではない。


 不動産屋のお婆ちゃんは僕らを歩いていかせるつもりだったのだけど、行って内見して帰ってくると夕方になると聞いて、急遽人を探した結果だ。

 馬車は乗合馬車の予備を札束じゃなかった、金貨で殴って借りました。


 アーリアの周辺には小さな農村がたくさんあって、それらがアーリア市民の食卓を支えている。

 向かっている農村もアーリアから一番近いということもなくて、いくつかの村を通り過ぎた。


 どの農村でもそうだったが、村には元気な子どもがたくさんいて、見知らぬ馬車が通るとものすごい勢いで寄ってきて危ない。

 だけど同時に思うのは、こんなに子どもたちが元気でたくさんいる。

 しかも遊んでいるということは生活に余裕があるということだ。


 アーリアも一部危険な地域はあるけれど、夜道を歩いたりしなければ基本的に安全だし、エインフィル伯の統治はとてもうまく行っているのだろう。

 鏡の購入資金のために相当財産を吐き出していたけど、その補填に重税を課すようなことはしなかったようで一安心である。

 まあ、今は鏡を他の貴族に売った代金が入ってきて、濡れ手に粟みたいな状態らしい。


 やがて前方に小さな集落が見えてきた。

 これまで見てきた他の農村と取り立てて違いはない。

 10軒から20軒ほどの建物が集まっていて、簡単な柵で囲われている。

 魔物対策としては心許ないが、アーリア周辺はあんまり強い魔物がいないから大丈夫なのだろう。


 村に到着するとまず子どもたちがわっと集まってくるのは他の村と変わらない。

 街道沿いでもない農村では来客自体がとても珍しいのだ。

 矢継ぎ早に質問してくる子どもたちを、メルはパンパンと手を打って黙らせる。


「誰かローレンスさんのお家に案内してくれる子はいるかな?」


 はいはいはいと手が挙がる。

 なんならもう先導するつもりなのか進み始めた子までいるくらいだ。


「すみませんが、待っていてもらえますか、ジェレミーさん」


「構わないさ。あのメルちゃんが家をなあ……」


 思い出語りが始まりそうだったのでさっさと馬車から離れて、僕たちは子どもたちを追いかける。

 小さな村なのでローレンスさんのお家にはすぐに到着した。

 農村では一般的な平屋の一軒家だ。

 庭があり、というか、どこからが敷地で、どこからそうでないのかよく分からない。

 だけど木や花が植えてあって、とても見栄えのいいお家だ。


「ごめんくださーい。お家の借り手を探していると、不動産屋さんの紹介で来ました!」


 メルが元気よく挨拶すると、思っていたより若い、とは言っても僕の母さんよりは年上の女性が中から出てきた。


「ようこそ、遠くからわざわざ足を運んでくださってありがとうね。借り手を探しているお家はすぐ隣なの」


 女性の視線を追うと、すぐ隣というにはちょっと距離のある場所に同じような家が建っている。

 庭の感じも似たようなものだ。


「あっちは私の生家でね。両親が住んでいたのだけど、父が亡くなって、母にはこちらの家に引っ越してきてもらったのよ。ただどうしてもあの家から離れられないみたいで、調子の良い日はずっと庭いじりをしているの。母が勝手に庭いじりをするのを許してくださる方にだけお貸ししようと思っているのだけど、中々ねえ」


 今朝、不動産屋さんのお婆さんから聞いた話の通りだ。


「お家の中と庭を拝見しても?」


「もちろんどうぞ。家具なんかはご近所さんに配っちゃったのでもぬけの殻だけど」


「そうなんですね」


「……」


「……えっと、カギは?」


「開いてるわよ~」


 田舎特有の防犯意識!

 まあもぬけの殻とのことなので、盗むものがなにもないのかもしれないけれどね。

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