第197話 オムライスを作ろう
さてお昼時をやや過ぎてはいるけれど、3人分の食事を作るとなると結構面倒だ。
自分が食べる分とか、水琴に食わせる分は別にいいんだけど、メルに食べてもらうとなると雑な男飯でいいのか分からない。
なお水琴は料理が絶望的だし、メルも料理の経験は無いそうだ。
いや、僕だって目玉焼きや、チャーハンが限度だよ。
それにしたって味付けに自信は無いし。
かと言ってカップ麺は避けたい。
というかメルに食べさせたくない。
だって栄養的に、成分的に……。
「あれ作ってよ。ぐるぐるのオムライス」
「気軽に言うよなあ」
割ったらふわとろに広がるオムライスって言われるよりは難易度低いけどさあ。
炊飯器を開けると3人分のご飯はある。
冷蔵庫チェック。
鶏肉、ある。
食料品棚チェック。
タマネギ、ある。
ピーマン、ある。
グリンピースの缶詰、ある。
あ゛ー。やってやる。
僕は材料を取り出して並べる。
水琴がそれを見て、そっとピーマンを冷蔵庫に戻した。
まあ、緑成分はグリンピースがあるからいいか。
なんかメルも頷いてるし、似た野菜があっちにもあって、それも苦いのかも。
まな板と包丁を用意して、タマネギの上下をカット。皮を剥いて、中身を半分にカットして、親指の爪ほどの大きさにカットしていく。
フライパンをIHの上に置いてスイッチオン。
オリーブオイルを少量垂らして、熱されるのを待ち、まな板からタマネギをフライパンに投入。
混ぜるためのゴムベラを調理器具をまとめて入れた容器から引き抜く。
「水琴、手伝えよ。混ぜるくらいはできるだろ」
「あ、だったら私がやるね」
メルが僕の手からゴムベラを受け取ってタマネギをぐるぐると回し始める。
手つきは覚束なくて、正直、上手とは言えないけど、なにかしたいという気持ちが嬉しかった。
僕は鶏むね肉をまな板に出す。
もも肉のほうが美味しいんだろうけど、冷蔵庫になかったからしゃーない。
皮を引っ張りながら包丁を入れていき、皮を取り除く。
捨てるのは勿体ないので、別にして、鶏むね肉を小さなブロック状に切り分けていく。
僕も手際がいいとは言えないし、形も不揃いだけど、生肉ってぐにょぐにょしてて切りにくいんだよなあ!
メルが混ぜているタマネギは火が通ったとは言えないけど、シャキシャキ感が残っていてもいいと思って、鶏むね肉を投入。
フライパン担当をメルと交代。
鶏肉は確かしっかり火を通さなければいけないはずだ。
メルにまな板と包丁を洗ってもらってる間に、水琴にグリンピースの缶詰をザルに開けさせる。
缶詰は熱を加えられているはずだから、加えるのは最後でいい。
あんまり早くフライパンに入れると混ぜる際に潰れてしまうかも知れない。
感覚的には味と言うより見た目で入れてるからな。グリンピース。
鶏むね肉にしっかり熱が通ったら、水琴にバターとケチャップを用意させてバターからフライパンに入れる。
量は目分量。
ちょっと多いくらいでいい。
バターがしっかり具材に絡んだら、続いてケチャップ。
……ちょっと多すぎたか?
まあ、ケチャップは野菜だからゼロカロリーだ。(そんなことはありません)
ケチャップ煮のような状態にしてから、炊飯器からしゃもじでご飯をドーン。保温が長くなってて、ちょっと乾いているけど、それもまあ良し!
ケチャップ煮を吸い上げさせるようにしながら、ご飯に具材を絡めていく。
ほどよく絡んだところで、お待ちかねのグリンピースを投入し、味付けの時間だ。
塩胡椒。一つまみの砂糖。そして味の素だ。
はー? 化学調味料? うま味調理料だぞ。知見はアップデートしたまえよ。
菜箸で一つまみ手のひらに置いて味見をする。
ちょっと薄味だが、このあと卵とケチャップが追加されるからこんなもんでいいか。
平たい皿を水琴に用意させて、茶碗にチキンライスを入れて皿に置く。
3つ用意して、余りはボウルに入れると、フライパンをキッチンペーパーで拭く。
オリーブオイルをちょっと多めに入れて、フライパンを熱している間に、別のボウルに卵を2個割り入れる。
卵を空気が混ざらないように切るように溶いて、十分に熱されたフライパンへ。
フライパン全体に溶き卵が広がるようにして、気泡を潰していく。
ちょっと固まったところで左右から菜箸で挟むように中央へ。
そしてフライパンを回す。
卵を寄せたところに、まだ固まっていない溶き卵が流れるようにしながら、何周かぐるぐる回して、まだ上のほうが半熟のうちに菜箸で刺したまま、チキンライスの上に移動させる。
これで渦を巻いたオムライスの完成だ。
何気にチキンライスを薄い卵で巻くより簡単だと思う。
よく卵が破れて見た目が悪くなるからなあ。
「じゃあ水琴から食えよ」
メルは食べ方が分からないかもしれないからな。
そう思いながらフライパンを拭いて、次の卵を用意する。
「やったー」
皿を持ってダイニングに行く水琴。
メルはちょっと首を傾げている。
「半熟だけど大丈夫なの?」
「ああ、日本の卵は衛生管理がしっかりしてるから、えっと、つまり生で食べてもお腹を壊すことはないよ。日本の卵だけだからね」
「ん、分かった。挑戦してみるね」
まだちょっと不安げだったが、メルは拳を握りしめて頷いた。




