第2話 僕らにはステータスがわかる
メルシアさんは両手を空に向けて伸ばすと、うーんと伸びをした。
胸の辺りが強調されそうだったので僕は慌てて目を背けた。
目に入るのは一面に広がる草原の緑と、空の青。
こんなに何も無い風景を僕は見たことがない。
改めて僕は思う。
ここは、どこだ?
不安にきゅっと胸を締め付けられる僕にメルシアさんが声をかける。
「私はそろそろアーリアに帰るけど、ひーくんはどうするの?」
「えっと、あの、メルシアさん」
「堅苦しいなあ。メルって呼んで。みんなそうしてるから」
「あ、はい」
返事はしたものの、女の子を名前で呼び捨てにしたことなんてない。
「メル、さんは――」
「メル」
ちょっと圧のある言い方でメルシアさんは言う。
でも君は僕を『くん』付けで呼んでるよね。
なんて文句が言えるはずもなく、僕はからからに乾いた唇を舐めることもできない。
「メル」
「うん。なに?」
ずるいなあ。
女の子ってずるい。
「ちょっとだけ待ってほしいんだ」
「うん、ちょっとだけね」
「ありがとう」
まず僕が考えるべきは此処が何処かということではない。
僕は自分の能力値を思い浮かべる。
ステータスは具体的な数値だけど、それがどこかに表示されたりするわけではない。
自分の身長や、体重、足のサイズを思い浮かべることができるように、当たり前にそうだと知っている情報だ。
世界がゲーム化したときから、人は自分の値をいつでも思い浮かべることができるようになった。
レベル 2
体力 11/98
魔力 60/65
筋力 14(15)
耐久 8(10)
知力 18(23)
抵抗 7(8)
器用 13(14)
敏捷 8(11)
技能 キャラクターデータコンバート 異界言語理解
称号 異界到達
いまも思い浮かべることができる。
ということは、ここがどこであるにせよ、ゲームの中であるということだ。
ほんの少しだけ期待した『ゲームの外側の世界』に飛び出したわけではなかった。
僕はいまもゲームの中にいる。
非情な現実というものは、時に人の精神を落ち着ける。
人は期待に興奮し、現実を見て冷静に戻るものだから。
「キャラクターデータコンバート? それに異界言語理解? 称号まで」
いずれも僕が持っていなかったものだ。
それがいまは使い方までわかる。
「メル、ちょっと試したいことがあるんだ。もし僕が消えてすぐに戻ってこなければ、僕のことは忘れて自分の予定に戻って欲しい。でももし良ければ少しの間待っててくれないかな?」
「消えて、ってどういうこと?」
「僕にもどうなるか分からない。でも試してみたいんだ」
「わかった。いいよ。次の鐘が鳴るまでは待ってみるね」
これでキャラクターデータコンバートが能動的に使えなかったらお笑いだ。
僕は心の中にあるキャラクターデータコンバートのスイッチを押す。
初めてだけど、これで間違いないという確信がある。
・キャラクターをコンバートするサーバーを選択してください。
>拡張サーバー 新たなる地平
選択肢はひとつだった。
文言から察するに、少なくともこことは違うどこかへと僕というキャラクターのデータをコンバートできるらしい。
「やってみる」
「うん」
僕は頭の中で“新たなる地平”を選択した。




