第2話 この世界はクソゲーになった
僕は最底辺の高校生で、いじめられっ子だ。
この世界はよくわからない超越存在が創った宇宙環境シミュレーターで、十年前にゲーム会社がそれを買い取ってゲーム化したらしい。
それに伴い僕らにはレベルという概念が与えられ、自分のステータスが感じ取れるようになった。
僕のステータスを具体的に書き出すとこんな感じ。
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レベル 2
体力 86/98
魔力 53/65
筋力 11(15)
耐久 8(10)
知力 22(23)
抵抗 3(8)
器用 7(14)
敏捷 4(11)
技能 なし
称号 なし
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なんだかややこしい表記でしょ?
括弧の中は最大値で、体調などが万全なら実測値もここに近付くよという値だ。
左側が現在の実測値だから、例えば僕は万全な状態なら筋力15相当の力を出せるけど、今は11相当しか出ない。
どうしてかって?
学校のトイレで虐められ、手も足も震えてるからだね。
とは言っても、それを差し引いても僕のステータスは低い。
文科省の調査による高校二年生の平均ステータスが下記の通りだ。
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体力 最大値153
魔力 最大値97
筋力 33
耐久 25
知力 45
抵抗 24
器用 31
敏捷 28
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比べてもらえばびっくりするくらい僕のステータスが低いのが分かると思う。
小学生かよ!
というか、小学生にも負けかねない。
「だからなんで財布持ってきてねぇんだよ!」
僕を虐めている首謀者である、檜山がトイレの個室の壁を蹴った。
ガンッと強い音がして、僕は恐怖に身をすくめた。
世界のゲーム化によってステータスが可視化され、人間の能力格差はハッキリとわかるようになった。
他人のステータスは見えないとは言え、僕を虐めている檜山は決してステータスが高い方ではないはずだ。仲間の二人にしてもそうだ。
学力も、運動も、それほどの成績を残している連中じゃない。
ただ僕がこいつらにも劣るいうだけだ。
「ごめん。財布持ってきてなくて……」
「おまえんとこは弁当じゃねーだろ。昼飯代は!?」
「それも今日は忘れてきて……」
嘘ではなかった。
ステータスの抵抗の値は精神的な耐久力のことだ。
今の僕では彼らの脅しに嘘をつくようなことはできない。
万全の状態でも多分無理だけど。
「あーあ、トモダチ料も払えないのかよ」
「じゃあ今日はヨワラギくん、トモダチじゃねーな」
弱い柊を略してヨワラギ。
そんな呼び方をする相手は初めから友だちじゃないよね。
「トモダチじゃねー柊クンはなんなんだっけ?」
屈辱的だけど、自分でも認めている。
何度も反復させられた蔑称。
つまり僕は……、
「く、クソザコ……ナメクジ、です……」
「声が小せぇ!」
「クソザコナメクジですっ!」
「声がでけぇ!」
檜山の拳が僕の頬を打ち抜いた。
まともに衝撃を受けた僕は、トイレの床に倒れる。
痛みと恐怖で涙があふれてくる。
そんな僕に檜山たちは足を振り下ろす。
僕は亀のように体を丸めて耐えることしかできない。
とてつもなく長く感じた数分間が過ぎる。
檜山たちは僕の反応に飽きたのか、足を振り下ろすのを止めた。
「チッ、明日は忘れんじゃねーぞ。今日の分も上乗せだからな」
相田が回復魔法を使って、僕の体に残る傷を消した。
それから三人は振り返りもせずにトイレを出て行った。
回復魔法はもちろん優しさではなく、証拠隠滅だ。
あんなに殴られ、蹴られたのに僕の体には痣ひとつ残っていない。
跡に残る痛みもないが、暴力を受けている最中に感じた痛みを忘れられるわけではない。
一番キツいのが殴られて、回復されて、また殴られることの繰り返しだ。
長く続くともう殺してくれとすら思う。
それを考えると今日は安く済んだほうだ。
まだ二時間目が終わったところだけどね。
この現実はゲームで、
そして分類するならクソゲーだ。




