第196話 音源どうしよう
翌日、リビングで起きた僕はテーブルで開きっぱなしになっていたノートパソコンをスリープから立ち上げた。
昨晩用意したメル、というかオリヴィア名義のアカウントでログインする。
僕も起きたところだから仲間だな。
などと謎の仲間意識を抱きつつ、AviUtlを起動してスマホを見ながら操作を始める。
えっとまずは動画データをスマホからパソコンに移動させなきゃいけないわけだけど、GoogleDriveを使うにはアカウントが違うから駄目で、ギガファイル便かな。
僕はスマホでギガファイル便を検索して開き、動画ファイルをパスワードをかけてアップロードした。URLをコピーしてオリヴィアアカウントのGmailに送る。
それをPCで受け取ってURLからファイルにアクセスしてダウンロード。
ダウンロードした動画ファイルをAviUtlで読み込む。
読み込める動画の種類は限られているようだったが、父さんがきちんとプラグインを入れてくれていて問題ない。
ふむふむ。
スマホで見ているサイトに書かれている通り、動画ファイルというのは、動画のファイルと音のファイルに分かれているようだ。
今回録画されているデータの音声データは水琴がスマホから鳴らした音源だから質が悪い。
えっと、こういうとき、音源ファイルはどうしたらいいんだろう?
調べていくと、とてつもなく面倒だということが分かってきた。
考えて見たら当然なのだけど、日本の楽曲の著作権はJASRACが管理している場合がほとんどだ。
そして音源に関してはレコード会社が権利を保有しているらしい。
つまりYoutubeに公式が楽曲をアップロードしていたとしても、それを再利用して動画を公開すると音源の権利に引っかかる。
これを回避するためには音源の自作が必要になってくるが、そんなスキルは僕には無いし、スキルのある知り合いもいない。
なお音源自作の場合でも楽曲の権利には触れるから注意が必要だ。
僕は腕を組んでしばらく考える。
首を捻って唸っていると、僕の部屋からメルが出てきて首を傾げた。
「ひーくん、どうしたの?」
「音楽がね、使えないんだ」
「どういうこと?」
「どう説明すればいいのかな。新しい曲を作るのって大変だけど、音楽家が聞いたら何度でも再現できちゃうでしょ。だから曲の権利を守る法律があるんだ。ざっくり言うと曲を作った人の許可が無いと、その曲を使うことはできない」
「じゃあ許可を貰っちゃえばいいんじゃないの?」
「それが個人だと簡単に許可してもらえないみたいでね。大きなお金が動くなら話は別みたいだけど、あっちならともかくこっちでそんな資金は無いしね」
「勝手に使っちゃうとどうなるの?」
「最悪は損害賠償もありうるんだろうけど、現実には動画の公開停止かな」
「むむむ……」
メルも腕を組んで唸り始める。
「実際には何百何千とある動画から、僕らの動画が目を付けられてなにかされる恐れってほとんどないんだろうけど、大きなバズを狙う以上、目を付けられる前提でないといけないと思う」
「じゃあ私たちが見たダンス動画はどうなってるの?」
「あれは許可得てないだろうなあ」
有象無象の著作権無視動画が出回っているのが実情だ。
だからといって僕らが同じことをしていいことにはならないけど……。
「許可を下さいって連絡だけしておくのはどうなの?」
「動画の説明欄にもそのことを書いておくのがギリギリのラインかな。アウト寄りのアウトだと思うけれど。アカウントの個人情報が父さんのものだから、父さんの意見も聞かないといけないな」
僕は早速家族のLINEグループに著作権についてを共有する。
返事を待つ間に作業を進めておくか、と公式チャンネルの動画をダウンロードして音源をぶっこ抜いて、メルのダンスに合成する。
これが案外難しくて、タイミングをきっちり合わせるのは僕には無理だった。
AviUtl上で動画を再生しては、メルにズレてると指摘され続けること、何十回にも及び、ようやく合格点をもらう。
0.01秒のズレとか僕にはわかんないよ。
あとは動画ファイルとして出力したら、一応動画としては完成なのかな?
書き出しボタンを押して僕らは一息吐く。
「ひぇ~、お腹減ったぁ」
水琴、いつの間に混ざってたんだ?
法に触れる内容が出てきますが、その行為を認めたり、奨めたりするものではありません。