第194話 チャンネル名を決めよう
僕らが食事を終えて、リビングで水琴とメルとブレインストーミングを行っていると父さんが帰ってきた。
母さんは洗い物をしている。
「ただいま。遅くなった。はい。これ。俺は着替えてくる」
父さんはそう言って僕らが紙を広げたリビングテーブルに紙袋を置いて自分の部屋へと引っ込んでいく。
水琴が伸ばそうとした手をがしりと掴み、僕はメルに目線を向ける。
「父さんからメルへの贈り物だ。メルが開けて」
「う、うん」
メルは紙袋から箱を取り出す。
「やっぱり最新型ぁ」
水琴の呻くような声がするが無視。
これは撮影機材でもある。
中途半端な性能では困るのだ。
メルはやや困惑しながらもシールを破り、箱を開けていく。
中から現れたのはピンク色の可愛らしいiPhoneの本体だ。
勝手の分からないメルに電源を入れてもらって、テーブルに置いてもらう。
林檎マークが画面に現れて、初期設定画面に遷移する。
メルに慣れてもらうために、横から手は出さず、やり方だけを伝えて操作してもらう。
なんとか初期設定を終えたところで、普段着に着替えた父さんがリビングに現れた。
「早速やってるね。YouTubeとかで使うアカウント名は決めた?」
「はい。オリヴィアにしようと思います」
「いい名前だ。日本人にもわりと馴染みがあるんじゃないかな」
「え? そうなの?」
僕が思わず訊ねると、父さんは苦笑した。
「父さん世代だとカヴァーでだけどね、昔の名曲にオリビアを聞きながらっていうのがあるんだ。そうか、最近の子は知らないのか」
なにかちょっとショックを受けてる風な父さんだけど、僕が曲を知らなさすぎるのもあると思う。
「気を取り直して、まずはメインとなるGmailのアカウントを作ろうか。もちろんオリヴィアの名前で」
「はいはい、その前にお父さんは晩ご飯食べてね」
母さんが温めなおした夕食を父さんの前に並べていく。
その間にメルに教えながらGoogleアカウントの取得をする。もちろんOlivierで取れるはずもないから、なにかを足さなければならない。
「OlivierChallengeはどうかな?」
メルが案を出す。
「オリヴィアの挑戦?」
「そう。オリヴィアはSNSという媒体を使って色んなことに挑戦していくって感じ」
「えっと、一応、使える文字列ではあるけど、日本人的にはちょっと長いかも」
「ん~、でもいいんじゃない?」
水琴が言う。
「私でも読めないことはないし、意味も分かるもん」
「そうか。とりあえず押さえておくか」
ということでメールアドレスを取得。
その後は食事を終えた父さんの手助けをもらいながら、各種SNSのアカウントを取得していく。
「じゃあYoutubeのチャンネル名はオリヴィアの挑戦で問題ない?」
ひとまずこの場にいる全員はそれでいいようだ。
「一応あの2人にも報告しておくか」
「あの2人?」
父さんが不思議そうに聞いてくる。
「お兄ちゃんのクラスの人。相談に乗ってもらってるの」
「ああ、今日会っていたという」
父さんと水琴が話してる間にさっさとLINEを送る。
名前はオリヴィア、チャンネル名はオリヴィアの挑戦にしようと思うけど、どうかな、と。
すぐに既読がついて、なんか肯定的な感じのするスタンプが返ってきた。
「問題ないみたいだね。じゃあ、これでいこう」