第190話 SNSの闇を知ろう
耳がキーンってなる。
レベル差があっても大きな音でこうなるというのは新たな発見だ。
攻略ギルドなんかは知ってるんだろうけど、ネットで見たことはない。
音響手榴弾って言うんだっけ?
光と音がするやつ。
買っておいてもいいかも。
などと思ってるうちに耳鳴りが収まってくる。
回復は早い気がするな。レベルのお陰かな?
「まー、マジで言ってるんだとして、止めとけ。柊もメルも使うな」
マジトーンなので、僕の心も落ち着いてきた。
言われてみたら、こんなん自己紹介だよね。
完全に舞い上がっていたみたいだ。
「分かった。忠告してくれてありがとう。アカウント名については再考ということで。決まったらまた連絡するから、ダメだったら教えて欲しい」
「り」
了解ってことかな? それってSNSとかでの返信に使うもので声に出すものじゃなくない?
「まー、このダンスにあたしらが混じったらダサくなるだけだし、別の動画かな」
「というか、うちらなんも取り柄無くない?」
「それー」
2人はお互いを指差して笑う。
「町で外人に声かける企画? やるなら、そこで声かけてきたファンはどっかな? このダンス上がったら拡散すっからさー」
「それは助かるかな」
バズるにしてもなんらかの着火は必要だ。
それを僕がやるわけにもいかないし、僕自身にそれほどの影響力は無い。
「ちなみに拡散ってどうやるの?」
「共有ボタン押すだけ~。TikTok? YouTube?」
「両方やるつもり。多分視聴者層が別だし」
「だねー。手堅くXとかインスタでの共有かな」
ふむ。女子高生から火が付くのはわりとアリな気がする。
そういうところから大きな流行りになることは結構ある、かも?
僕自身があんまりネットの流行りに詳しくないから確信は無いけど、この2人が僕よりも詳しいのは確かだ。
「あ、ちょっと疑ってる味アリアリ? あたしのXのフォロワーは6000人越えてるよ。ちょっとは影響力あると思うな~」
「マジですか?」
思わず敬語になる。
僕のフォロワーは0人です。
本当にありがとうございました。
まあ、基本使ってないからね。
今村さんが差し出してきたスマホの画面にはフォロー133人 フォロワー6341人というとんでもないキルレシオが表示されていた。
いや、キルレシオじゃないな。
でも似たようなものか。
「なんでこんな、どうやって?」
「自撮り上げてて、ある程度の顔があれば女子高生ブランドでこんなもんよ」
「じゃあ、メルも同じことをしたら?」
「1万とか10万とか行くんじゃない? でもその場合はアカウントの管理は柊っちがやったほうがいいかもね」
「そうするつもりではあるけど、なんで?」
今村さんはスマホを持ち上げ、僕にしか見えないように角度をつけた。
そしてDM欄を見せてくる。
「ぐえ」
そこに並ぶ文字列と画像に僕は頭が痛くなる。
「早く消して、画面変えて」
今村さんのDM欄には数字を出して誘うようなものや、ちょっとお伝えしにくい男性の画像などがずらりと並んでいた。
とてもではないが、メルや水琴には見せられない。
「若い女性ってことを売りにしたらこんなもんなんだよねえ」
「男を代表していいなら謝りたいよ」
「ウケる~。なんで柊っちが謝るんよ? でもまあ、SNSでバズりを狙うならこういうのからちゃんと守ってあげてね」
「今村さんはなんで放置を? ブロックとかしたほうがいいんじゃないの?」
「こういうのを全部ブロックしたらフォロワー5000人割りそうなんだよね。5000人はひとつの箔だから維持したいし~」
「割合ィ」
「だからあたしが拡散するとしたら、こういう連中の一部が流れていくことになると思うから、嫌なら止めとくね」
「あー。でもバズると自然とそうなるってことだよね。越えなきゃいけない壁かあ」
こっちが勝手に世界を救おうとしているのだから、バズりに対する世間の反応に対して必要以上に批判的になってはいけないと思う。
だけどこれは批判が必要な範囲だ。
「こういうのはガン無視でいいって。離れるやつはどうしたって離れてくし、離れないやつはガン無視でも離れないから、応えようとするのがいっちゃんヤバい」
「なるほど」
ということは今村さんはパパ活的な誘い文句には一切乗っていないということなんだろうな。
「それにしても酷いな。私たちは買われたって言う女性に売ってるからだろって男性の声を見たことがあるけど、売ってもない女性に値札を押しつけてくるのか」
「でもまー、買われたって主張はあたしもおかしいと思うわ」
えー、そうなの?