第187話 クラスメイトにLINEを打とう
「ちょっと待って」
僕はスマホを操作してLINEのクラスグループを開いた。
以前は存在すら知らなかったのだが、吉田くんのグループから招待してもらったのだ。なお吉田くんたちグループのLINEグループには招待されてない。
そうクラスカーストのトップである吉田グループの女性陣はメルと僕に繋がりがあることを知っている。
これを放置したままメルが動画を上げ始め、それがバズるのはちょっと問題がある。
さて連絡を取るにしても誰を起点にするか悩む。
今村さん、永井さん、小野さん辺りの最初に見つけた人でいっか。
やりとりをスクロールして過去に戻っていくと、真っ先に見つけたのは今村さんのアカウントだ。
プロフ画像をタップして、今村さんのアカウントに移動し、メッセージ画面へと遷移する。
さてなんて送ろうか。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「いや、拡散しちゃったメルの画像、僕が映り込んでいるのあっただろ。あれで僕にアクションを取ってきた人もいるからさ」
「お兄ちゃんも人のこと言えないじゃん」
「僕のは不可抗力だ。自分で撮ったわけじゃないし」
「それでどうするの?」
「うーん、普通に口止めしとけば大丈夫だと思うんだよね。どっちかというといい人たちだと思うし」
僕とは相容れないけど。
「じゃあなんで悩んでんの?」
「いや、普段絡んでない人にいきなりメッセ送るのは緊張するだろ」
「そんなのさっさと用件言っちゃえばいいよ」
「じゃあ、ええと『お世話になっております。クラスメイトの柊です。突然の連絡で申し訳ありません。以前話に――』」
「ビジネスメールかよ!」
スマホに打ち込みながら文面を口に出した僕に水琴のツッコミが突き刺さる。
あ、ツッコミした水琴のほうが痛がってるな。攻撃判定になってレベル差で弾かれたか。
この辺はゲーム化による理不尽なところだ。
「クラスの陰キャがいきなり『夏休みどうしてる?』とか送ってきたら恐怖か、あるいはネタにされるだろ」
「さっきのも十分ネタにされる一品だよ! そうだなあ。その人はメルさんとお兄ちゃんが関係あることを知っているんだよね。それなら『メルと動画作ることにしたんだけど、僕がやってること秘密にしておいてくれない?』みたいな」
まあ、ディテールは変える必要があるけど、それでいっか。
「じゃあ、ええと『例の女の子と動画を作ることにしたんだけど、僕が関係してることは秘密にしておいて欲しいんだけどいい? 知ってる人には伝えておいてもらえると助かります』」
「なんで最後だけ敬語?」
「僕の心が保たなかった」
「レベル補正仕事しろぉ!」
ごもっとも。
でもこういうのって性格だと思うんだ。
「まあ、いいか。送ろ」
「謎の行動力だけ上がってるんだよねえ」
それも確かに。
以前の僕なら送信ボタンを押すのに小一時間は悩んだかもしれない。
そして押した後もずっと悩んでそう。
「ってか既読早ッ!」
「そんなもんじゃない?」
「既読ってまず通知画面開いて内容確認してからアプリを開くかどうか考えて付けるもんじゃないの?」
「そんなんだから友達できないんだよ」
言葉のナイフだよ、それは。
「アーリア行ってる間は電波届いてないからどっちにしても即レスは無理なんだよな。その前にLINEが来ることが無いけど」
「泣いちゃった。心の中で」
顔で笑って心で……も笑ってそう。
そんなことを思ってると手の中でスマホが震える。
「返信も早ッ!」
目線を落とした画面には
――条件付きでいいよ。
という文字が映し出されていた。
あ、これ既読付いちゃったやつだ。