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第185話 トロッコ問題をどう解決しよう

「うぇぇ、堅いぃ」


 水琴が泣き言を言いながらケバブもどきを頬張る。

 偶然ジュース屋が隣にあって良かった。

 でなければ水琴は頬張った物を飲み込むことも難しかっただろう。


「あずきバーより堅いぃ」


 流石にそれは失礼だろ。

 ……どっちに?


 とは言え、アーリアの黒パンは日持ちさせるために、水分をできる限り飛ばした焼き方だ。

 釘なら打てるかも知れない。


 と、しばらく水琴が悪戦苦闘していたので、そろそろ助け船を出してやるか。

 僕は別の店で買ってきた味の薄そうなスープを水琴に差し出す。


「浸して、ふやかして食べてみな」


「ええー、食べ物に対する冒涜じゃない?」


「それは多分日本人的なマナーで、こっちではそうじゃない」


 恐る恐る水琴はケバブもどきをスープに浸す。

 しばらくそうしてから、引き上げて恐る恐る一噛み。


「たう゛ぇられりゅう」


「飲み込んでから話せ、な」


 なお僕とメルはそのままバリバリ食べている。

 レベル41の顎力を舐めてはいけない。


 勝負するか、あずきバー。常温のバターみたいに切り裂いてやるよ。


「いやー、異世界舐めてたわ」


 ようやく飲み込んだらしい水琴が空いたほうの手で頭を掻きながら言う。


「もにゅもにゅで味もよく分かんなかった。美味しくはない!」


 流石の水琴もここは日本語で話している。

 店の真ん前で分かるように否定的なことは言えないよなあ。


「お兄ちゃん、残り食べたくない?」


「妹の食いかけを欲しがる兄はヤバいだろ。責任を持って全部食え。僕たちは食べ終わったぞ」


「ワニかよお」


「水琴にアーリアで現代日本人が生きるための金言を贈ろう。期待すんな」


 異世界ファンタジー世界に夢見てたら、大体裏切られるからな。


 例外は魔術くらいだろうか。

 地球側に伝えるか、今でも迷っている技術だ。


 あっちでも使えることは確認済みで、威力に変化も無い。

 で、メルの話だと魔術が使えるなら魔導具も使えるだろうとのこと。


 魔導具とは魔術の構成を物理的に構築して魔石を接続したり、人が直接魔力を流すことで魔術が発動する装置のことだ。

 ただし素材に高価なものを必要とするので、それほど普及はしていない。


 だけど地球の技術であれば代用品も見つかるかも知れないし、小型化も容易だろう。CPUとかメモリを作る技術があれば、複雑な構成でも大量生産できそうだ。


 問題はこれが兵器利用される可能性があることだ。

 今のところ地球で運営による危機は起きておらず、国際情勢は複雑だから、変に殺傷力のある技術を地球に流出させたくはない。

 だけど一方でイベントに対抗するための武力を普及させたくもある。


 運営がいつイベントの告知を行い、どれくらいの猶予があるのかまったく分からない。どころか、そもそもイベント自体が発生するかも分からない。


 この状況はいわゆるトロッコ問題に似ていると思う。


 能動的にある程度の犠牲者を許容するか、知らない振りをしてより多くなるかもしれない犠牲者を見殺しにするか。


 トロッコ問題との違いはどちらが犠牲者が少なくなるのか分からないというところだろう。

 犠牲者の数で決断できるのかと言えばそんなことはないんだけど。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんってば」


 ふと目の前をひらひらと上下に揺れる何かに気付く。

 それは僕の顔の前で振られた水琴の手だった。


「食べ終わったよ。なに考えてたの? 変なこと?」


「範囲が曖昧すぎる」


「まあまあ、ひーくんのお父さんとお母さんにも服買っていこうよ」


 アーリアの衣服は仕立ててもらわない限りそれほどサイズが厳密ではない。

 基本が古着だからだ。

 だからかもしれないけど、ある程度サイズの調整が利くように紐で縛る部分が多い。

 なので目算で父さんと母さんの服を買っていっても一応は着られるだろうという目算がある。


「服! 買ってくれるの!?」


「さっきも言ったけど、こっちのデザインに期待するなよ」


 それにしても僕は最近水琴を甘やかしすぎじゃない?

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