表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/482

第184話 市場に行こう

 さてアーリアでブランチと洒落込むにしても、店舗に入るか、屋台で済ませるかを選ばなくてはいけない。

 落ち着いて食事ができるのは店舗だ。

 ただこの時間は店舗での食事にはちょっと早くて、開いている店を探さないといけないだろう。


 アーリアの人たちは朝は軽く済ませる習慣なので、お店が開いてても入らないのだ。

 その代わりにか、お昼はがっつりと食べるので、店舗にも需要がある。

 ただお昼の時間がちょっと遅めで、太陽が中天を過ぎたくらいからなんだよね。


「まあ、屋台かな」


「そう言えば屋台があるね。お祭りがあるの?」


「いや、ここではいつでも屋台が出てるんだ。ただ昼過ぎから夕方には撤収しちゃうから、屋台を経験しときたいなら今かなって」


「おー、楽しみ」


 水琴は目をキラキラさせて周囲を見回した。


 大通りと言っても、どこでも屋台がぎっしり並んでいるわけではないが、逆に屋台が全く無い大通りというのも珍しい。

 この辺りはどちらかというと閑散としているので、近場で食べるならあんまり選択肢は無いだろう。


「この辺で適当に済ませるか、市場の辺りまで行って選ぶかなんだけど」


「市場に行きたい!」


 まあ、そうなるよな。

 水琴のこっち用の服も買いたいし、ちょうどいいか。

 わざわざ仕立ててもらうほどのことでもないし、市場の古着でいいだろう。


 一応、僕らの服は現時点でも注目を集めているが、僕がいるからまたあいつか、みたいな扱いだと思う。

 むしろメルのほうが見られてない?


 それでも僕らが絡まれないのは、僕らがそこそこ有名人な冒険者だからだ。

 レベルは知られてないが、30層でドラゴンを狩っていることは知られている。

 ごろつきの類いは絡む相手の強さに敏感なので、僕はともかくメルが一緒にいれば絡んでくることはまずありえない。

 そこは酒に酔った素人さんのほうが怖い。


 市場に近づくと、市場内での場所取りに破れた露天商が、通りに店を開いている。

 人通りも多いし、市場の周りの道で商売すればいいじゃないかと思うが、大抵の市場利用者は市場内を回った後は、自分のやってきた道で帰るだけなので、実際の客数は目に見える人を半分にして考えなくてはいけない。

 狙い目は市場に向かっていく人だ。

 そういう人はまだ市場の中を見ていないから財布にも余裕があるからだ。


 なので如何にもお上りさんで、珍妙な服を着ている少女、水琴は呼び込みのターゲットにされまくった。

 ただアーリア人と比べて幼く見える典型的日本人の水琴は、なんというか完全に子どもとして見られているようだ。

 つまり露天商は水琴に声はかけるが、すぐに財布を握っているであろう僕やメルに視線を寄越してくるのである。


 アーリアに来た当初は弱腰だった僕も、アーリアで過ごすうちに、この手の客引きはばっさりやったほうが早く、お互いのためにもいいと学んだ。


「間に合ってるんで」「結構です」「いりません」


 僕とメルで露天商をばっさばっさと切り捨てながら、市場の中に入る。

 不思議なもので市場の中に入ってしまうと客引き行為はとたんに収まる。

 規制されているのかもしれないし、必要がないのかもしれない。


 アーリアの市場での場所取りは朝の日の出を知らせる鐘の音とともに抽選が行われる。

 日の出前にやってきた商人に番号の書いた木札を渡し、日の出とともに人気のある場所から結果発表が行われるのだ。


 そのせいで飲食の出店が一カ所に固まっている、ということはない。どこにどんな店があるかは完全にその日の抽選次第だ。

 このランダム性が市場に繰り返し客足を運ばせる仕組みになっている。


 一方で市場では、あの商人に用がある、みたいなことは難しい。

 市場での抽選に参加せず、街角の決まった場所に店を出すという露天商もいるので、そういう人をひいきにするしかない。


 でもまあ、どうせひいきにするなら店舗を構えている店だ。

 露天商はいついなくなるか分からないからね。


「美味しそうな匂いしてる~」


 水琴が肉の焼ける匂いに引きつけられていく。

 鉄の棒に焼きながら肉を巻いて巨大な塊肉風にしたものを、こそげ落とすようにして、その他の具材とともにパンに挟んで提供する店だ。

 サンドイッチと言ってもいいし、ケバブと言ってもいい。

 どっちとも違うけど。


 想像してみて欲しい。

 ケバブの具材(味付けほぼ無し)を、堅い黒パンに挟んで食べるものが果たして美味いか?

 香辛料が貴重な世界だ。

 味付けはほぼ塩である。


 肉の焼ける匂いについつられちゃうけど、手間がかかるせいかお値段もちょっと高いんだよなあ。

 今は気にならないけれど、最初の頃は匂いに抗えずに痛い思いをしたものだ。


 よし、僕も初心に返るとするか。


「すみません、3つください」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ