第183話 一軒家を借りる相談をしよう
その後、アーリアの外門で水琴の入市許可証を取り、人頭税を払ってアーリア市民として認めてもらった。
必要は無くなったけど、今後使うかもしれないし、不動産屋のお婆ちゃんのところに行って短期で借りられる一軒家が無いか聞いてみる。
「賃貸で短期はちょっとね」
言葉を濁される。
まあ大家も短期で不動産を埋めたくはないだろう。
僕が出て行った後にまた入居者を探さなければならない。
不動産屋としてはその度に手数料で儲けられるわけだけど、このお婆ちゃんは利益優先でやってない感じがする。
手間賃はしっかりちゃんと請求してくるけど、アコギに儲けようという貪欲さは無い。
そもそも月家賃の手数料銅貨5枚が安すぎるんだよね。
屋台で1食分だよ。
丁稚にあげる小遣いで消える。
文字通り飯の種じゃないのは確かだ。
お婆ちゃんの目的が大家さんの利益であると言うのなら。
「1年契約でどうですか? 家賃は1年分を先払いします」
「それならまあ、どういう家が好みだい?」
「綺麗な広い庭のあるところが希望です。可能であれば現状で手入れされているものをお借りしたいですね。花がいっぱいあるとなおいいです」
「市内だとその条件は厳しいね」
アーリアで市内とは、つまり外壁の内側を指す言葉だ。
お婆ちゃんの言い方からすると……。
「市外ならあるってことですか?」
「まあ、仲介でね。だからもう借り手が付いてるかも知れないし、現状も聞いた話でしかないよ。ただ大家にとって思い入れのある家らしくてね。まだ借り手がついてないとしても、家や庭の手入れはしっかりとしてあると思うよ」
家賃を聞いたら思っていたのより安い。
場所もメルに確認するとアーリアの市外とは言え、1日で往復できるくらいだ。
アーリアでは顔をある程度知られてしまっている僕らだけど、市外ではそうでもないだろう。
そういう意味でもこの家を押さえておくのはいい選択肢だと思えた。
「内見に行くには時間がちょっと遅いですかね?」
「担当してる店から大家に連絡しなきゃいけないから、明後日以降の早い時間、この店に来てくれたら、内見に行けるならそのまま行けるようにしておくよ」
「助かります」
メールも電話も無い世界だ。
連絡には人が行く必要がある。
配達人という仕事もあるのだけど、まあ人が運ぶことには違いは無い。
なのでこういう場合、アーリアでは結構時間がかかるのだ。
中1日でいいというのは、かなり急いでくれているんだと思う。
「じゃあ今日はもう帰りな。こっちは準備があるからね」
「はーい!」
メルが元気良く返事する。
僕らはぞろぞろと不動産屋を後にした。
「流石にそろそろ何かお腹に入れたいな」
僕らの誰もが朝食をまだ食べていない。
時間帯的にはブランチということになるだろうか。
「はいはい! こっちのものが食べたい!」
水琴の気持ちは分かるけど、正直こっちの料理はなあ。
あとアーリアは水がアレだから、お腹を下すかも知れない。
「あんまり大きな声では言えないけど、こっちの料理って日本というか、現代とは違ってそんなに美味しくないぞ」
「お兄ちゃん、違うの。こういうのは情報を食べてるの」
「???」
僕は意味が分からなくて首を傾げる。
「私は美味しいものを食べたいんじゃないわけ。異世界のものを食べた、という情報を摂取したいの」
「現代人……」
そう呟いてからハッとする。
「お前、こっちのことをあっちで話したりするなよ」
「分かってるって。前に失敗したこと忘れてないよ」
まあ、怖い思いしてるしな。流石に身に染みてるか。
「分かった分かった。腹壊しても知らんからな」
「もち!」
もち?