第179話 準備をしよう
という計画について家族にLINEで共有する。
父さん母さんは仕事なのですぐに返信は来ないだろう。水琴は多分まだ寝てる。
「とりあえず僕の確認も含めて、リビングで話そうか」
僕は自分の着替えを確保して、メルに着てもらう用の服を引っ張り出すと、それを渡して部屋を出る。
リビングで着替えて、寝間着を洗面所のカゴに放り込んだ当りでメルがリビングにやってきた。
「前の画像はインスタで拡散したわけだけど、今回は動画だからTikTokやYouTubeを利用しようと思う」
僕はあんまり詳しくないけど、TikTokが若者、YouTubeはもうちょい上の年代からという印象がある。
今回のターゲットは全世代なので両方活用するべきだ。
「ただどちらも18歳以上のアカウントでないと機能に制限があるっぽいんだよね」
「ひーくんってまだ18歳じゃないよね」
「そうだね。だからそこは父さんにアカウントを作ってもらおうと思う」
年齢詐称した場合、バレたときに動画が全削除とかされかねない。
こちらの目的は動画の拡散なのだから、そういうリスクは取るべきではない。
合間に用語の解説を踏まえながら、話を進めていく。
「撮影はとりあえずスマホでやるしかないかな。ビデオカメラもあったと思うんだけど、どこだろう?」
僕や水琴の成長記録を撮影するためにビデオカメラがあったはずだ。
だけどスマホの撮影機能って物凄く進化しているから、ちょっと前のビデオカメラと比べると、スマホのほうが優秀かもしれない。
「台本は作ったほうがいいかな。どうかな」
台本を読んでしまうと棒読み感が出るだろう。
メルの快活とした魅力が失われてしまうかもしれない。
「まあ、そこはやりながら考えよう。カメラマンと編集は僕がやるしかないか」
僕は部屋のマガジンラックに突っ込まれているノートパソコンをダイニングテーブルに置いて電源を繋いだ。
家族共用パソコンなのでパスワードとかはかかっていない。
授業でやったのでパソコンの使い方くらいは分かる。あんまり使わないけど。
ただ流石に動画編集は経験が無い。
このパソコンで性能が足りるのかも分からない。
父さんはガジェットオタクなところあるから、もしかしたらこのパソコンも高性能なのかもしれないけど。
電源を入れてみたものの、僕が下手に動画編集ソフトを探すより父さんに頼んだほうが良さそうだ。
ちゃんとしたものは有料だろうし、変にフリーソフトをダウンロードしてウイルス感染するよりはマシだ。
僕はやることをスマホにメモしつつ、話を進める。
「メインコンテンツはダンジョン攻略お助け情報……なんだけど、それじゃ視聴者が付かないと思うんだよね。だから同時に他のこともしてバズりを狙ってチャンネル登録者を稼ごうと思う」
「何をするの?」
「定番はダンスとか歌とか、メルだと言語系も面白いかも知れない。誰かの協力を得られたらファッション系、メイク系、素材を活かさないのはもったいないもんね。メルの武器はその容姿、スキルによる多言語、運動ができるからダンスもすぐに習得できそうだし、歌も上手い。歌ってみたを他言語でやるとかも面白そう」
「いっぱいあるね」
「でもまあ、基本はバズりを追いかけていく形になると思う」
「――?」
メルがきょとんとした顔をしたので僕は補足する。
「つまりは世間で流行っているものを取り入れるんだ。あるダンスが爆発的に流行ったなら、すぐにそれを真似して同じものを踊って投稿する。こういうのはスピード命だから、ある程度数を打つつもりでやるしかないかな」
「そういうのっていいの?」
著作権とかそういう知識はないはずだから、メルは純粋に倫理観からそう疑問に思ったんだろう。
「褒められた行為でないかもしれないけど、多分大丈夫だと思う」
みんなやってるし。
とは思ったが、みんながやってるからと言って、やっていいとは限らないかあ。
「でもまあ、1発目の動画は基本に忠実で行こう」
「基本?」
「なんにせよ、まずは自己紹介しなきゃね」