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第173話 ドラゴンを食べよう 1

 ダンジョン攻略はサバイバル生活、ではない。


 ダンジョンの1つの階層は何日も彷徨うほどの広さがあったとしても、ポータル間は最短距離を進めば最大でも1日もあれば辿り着けると分かっている。1日進んで進むべきポータルが見つからないのであれば、道を間違えているから戻れば良い。


 故にダンジョンに持ち込む食料は最大で2日分だ。


 魔物は倒すと魔石を残して消滅するため、食料の現地調達が難しい。だから運営がその辺を上手いこと調整しているのだろう。


 だからダンジョン内で魔物を倒して、その肉を食らうということは基本的に発生しない。死体の残る魔物とはダンジョン外に進出して受肉した、生きる存在だ。アーリアの属する世界では、すでに受肉した魔物が生態系に組み込まれていて、魔物の肉というのは狩人が狩ってきて供されるものであるらしい。

 その辺は野生生物と変わらない区分であるようだ。


 一方でこちらの世界では魔物による人への被害というものが少なからず存在する。

 そんな場合に弔いの一種として、被害をもたらした魔物を狩って食らうというものがある。と、嬉々としてドラゴンの肉を切り出すシャノンさんとエリスさんにドン引きしていたら、ロージアさんが教えてくれた。なんでこんなことも知らないですか?って顔をしてたけど。


 切り出された両手で抱えるほどのドラゴンの肉ブロック――部位名は分からない――には外皮が付いたままだった。なんでかな?って思ってると、どすんと外皮を下にして火の近くに置かれる。

 どうせ地面に置いた部分は食べられないのだから、最初から食べられない場所を含めて切り出してきたわけだ。

 こういうところだけは妙に頭の回る2人である。


 それから2人は焚き火で刃を熱してから肉の一番外側を切り始めた。

 消毒かな? そういう概念あるんだ。というか、生活の知恵みたいな感じで常識なのかもしれない。洗浄の魔術でもいいと思うんだけど、この2人は身体強化以外の魔術はからきしだから、仕方がないのかもしれない。


 2人はその後、トリミングした肉ブロックから一口サイズに肉を切り分ける。大剣なのに器用なものだ。それから消毒済みのクロスボウのボルトに突き刺していく。全体的に手際がいいところを見ると、ダンジョンの外でこういうことをした経験が何度もあるのだろう。貧乏だったらしいから、狩人の真似事みたいなことをしていたのかもしれない。


 1本のボルトに4つほどの肉を突き刺すと、火のそばに突き立てていく。


 焚き火の管理は意外な感じがするがニーナちゃんが担当していた。前衛2人組が集めてきた木の枝とかは生乾きのものも多く、多少煙は出ているが、火が付かないほどではない。

 ニーナちゃんは手慣れた感じで焚き火の薪を動かして火の強さを調整したり、適時新しい木の枝を投入していく。


 アーリアでは料理でも、冬場に暖を取るためにも薪を使うので、火の扱いはお手の物なんだろう。僕はできないなあ。そもそも家のコンロがIHである。それすら僕は滅多に使わないのに。


 そうこうしているうちに肉の焼ける良い匂いがし始めた。ロージアさんがボルトの根元付近を持って、肉をくるりと回していく。焼きの面を変えているのだ。偏見だけど、ロージアさんは料理が得意そう。


 その間も前衛2人組は肉を切り続けている。

 いや、ちょっと多いな。ちょっとじゃないな。

 そもそも切り出してきた肉が尋常じゃない大きさだったもん。


 作業は黙々と行われた。

 これは日々の食事ではなく、弔いだからなのかもしれない。


 やがてロージアさんが十分に焼けたドラゴン肉串を1本持ってきた。それをメルの手に持たせたが、メルは自分で串を持つ気力も無いようだ。

 ロージアさんがメルの手を包み込むように保持して、肉をメルの口元へと運ぶ。


 肉が口元に押し当てられると、メルはわずかに口を開いた。その口内に肉が運ばれると、メルはゆっくりとだったが、確かに口を動かした。

 もぐ……もぐ……と咀嚼する。


 その目に涙が溢れ、ボロボロと零れ落ちた。

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