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第167話 20層のドラゴンに挑もう 1

「20層ですか? 突然ですね。構いませんけれど」


 翌朝、門の近くに集合した僕らは今日、目標としていた20層のドラゴンに挑むことを皆に伝える。とは言ってもエリスさんもシャノンさんも昨晩聞いているので、知らないのはニーナちゃんとロージアさんだけだ。


「私はあんまりお役に立てそうにないけど、大丈夫かしら?」


「そんなことはないですよ。ロージアさんの水魔法にはすごく助けられてます」


 魔法使いというにはちょっと射程が近距離ではあるけれど、ドラゴンのサイズを相手にでも、ロージアさんの水魔法は妨害として非常に有効だ。直接溺れさせることができるだけでなく、一度でも水球を顔にまとまり付かせたら、その敵はその後もずっと浮遊する水球に注意を払わなければならなくなる。

 ロージアさんがヘイトを稼いでしまい危険になるが、そこはウチの前衛2枚という構成が生きてくる。この2人はお互いにヘイトをなすりつけるのがとても上手なのだ。

 いや、ヘイトは自分で抱えてよ。


 ニーナちゃんのお役立ち具合は特にフォローの必要もない。回復、支援に関してなら彼女はもうエキスパートだ。

 とは言ってもこの前自分が食らったみたいに、回復魔法ってのは傷は癒やせても脳しんとうのような状態異常――これも状態異常に含めて良いのかは分からないけど――には、あまり効果がない。

 解毒魔法や、解呪魔法はあるのだが、脳しんとうはそれらの対象ではなかったようだ。もしかしたら脳しんとうに効果のある魔法もあるのかもしれないけれど。


「なので申し訳ないですけど、装備だけ取ってきてもらいたいです。20層は凍土のエリアなので、防寒具が必要です」


「あー、忘れてたわ」


 エリスさんとシャノンさんがそろって頭を掻く。いや、昨晩聞いてたでしょ。

 当然、僕とメルは用意してきてあったので、2人でしばらく他のメンバーが帰ってくるのを待っていた。


「いよいよだね」


 僕が言うと、メルはぎゅっと拳を胸の前で握りしめた。


「そうだね。やっとだよ」


 メルはドラゴン退治を両親の仇討ちではないと言っていた。だけどそこには間違いなく因果関係がある。もしメルが本当に両親の仇を討つためにドラゴンに挑むのではないにしても、その死がメルとそのドラゴンを結びつけている。


 メルはその因果に縛られて幼い頃から今まで生きてきた。


 願わくば、彼女がそこから解き放たれて自由になれますように。


 と僕は祈る。

 運営にではなく、純粋に願いとして。


 思えばメルが日本であんなにはしゃぐのは、アーリアという土地から離れ、因果から心身ともに離れることができる時間であったからかもしれない。


「まあ、さっさと終わらせて夏休みの内にプールには行っておきたいかな」


 重苦しい空気にならないよう僕が軽口を叩くと、メルは口元を緩めて笑った。


「そうだね。せっかくの水着をひーくんにまだ見せてないもんね」


「それから家族のパワーレベリングもしてもらわないと。そうなると僕が皆に依頼料払わないとなあ」


「あはは、エリスさんとシャノンさんは身内価格で応じてはくれないよね」


「それはちゃんとしたレートで全員に払うよ。払った金額は相応の成果で返してもらうけどね」


「おー、ひーくん、商人っぽい」


「一応この町では商人としてのほうが知名度高いんだけど、僕は」


 メルと顔を見合わせて笑い合う。


「これが終わったらメルはなにかやりたいこととかあるの?」


「アーリアの外の世界を見てみたいと前は思ってたんだけどね」


 そう言えばそんなことを聞いた覚えがある。

 僕はメルの言葉の続きを待った。


「どこに行っても日本ほどのカルチャーショックは受けなさそう」


「それはそうかも」


 もちろんこの世界にも様々な景色があるだろう。ただ流石に世界が違うほどの落差はないだろう、という話だ。


「でも、やるべきことが終わったら探してみようか。日本以上にカルチャーショックを受けるような景色を。こっちでも、あっちでも」


「そうだね」


 そう言ってメルは笑った。

 願わくば、その時、その隣に僕がいられますように。

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