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第160話 贈り物をしよう 4

「さて、プレイヤーについて何が知りたい?」


 レザスさんが足を組んで言った。

 いま返した金銭分の情報はくれるだろうが、この世界の情報は高そうだ。慎重に質問をしなければ途中でも打ち切られるかもしれない。


 プレイヤー。

 この世界の人々とは違い、現代日本の知識がある僕には、その言葉の意味するところはなんとなく分かる。少なくとも今の現代日本を含む世界を管理してる運営は、ゲーム会社であろうと言われている。

 そうであるならば、プレイヤーとはゲームを遊技する存在ということになるだろう。問題は、彼らが遊技するのはどんなゲームなのか、ということだ。


「プレイヤーたちがこの世界で何をするのかを教えてください」


「さっきも言ったが、まあおおよそは冒険者のような活動だ。一方で彼らは社会的無償奉仕のような活動も行う」


「社会的無償奉仕?」


「つまりだな、人々の困りごとを報酬無しで解決しようとする場合がある」


「なるほど……」


 クエスト、ってことかな?

 世界のゲーム化で廃れたテレビゲームだけど、父さんの影響でゲームをプレイしている僕は、ある程度ゲームのお約束が分かる。ゲームキャラクターは行く先々で困った人に助けを求められ、直接的な報酬の有無はあるものの、解決することでなんらかの利益を得られるものだ。


 まあ、僕らにレベルがあり、モンスターがいる世界ということで、大体は想像していたけど、この世界はRPGだと考えるのが自然だろう。


「ただ実際にどういう行いをするかはそのプレイヤー次第だ。名声を得て英雄と呼ばれるようになった者もいるし、逆に犯罪者として取り締まられる者もいる」


 となると、一本道ストーリーではなく、オープンワールド系の自由度の高いタイプか。そして複数人が同時に同じ世界にプレイヤーとして降り立つということは、僕の知見からすると、いわゆるMMORPGが近いのだろう。


「プレイヤーというのはどれくらいいるものなんですか? 例えばこの町にも何人もいるんでしょうか?」


「俺の知る限り、今はこの町にはいないな。ただ突然現れる可能性はある。彼らは突然消えて、突然現れるというからな」


 ログアウトとログインだろうか。あるいは僕のキャラクターデータコンバートと同じスキルで、ロビーサーバみたいなところと行き来しているのかも知れない。

 そして人数は意外と少ないようだ。それとも単にアーリアが過疎な町なのかもしれない。ここの迷宮はあまり深くないそうだし、プレイヤーからすると旨みが少ないのかもしれない。


「プレイヤーというのは見れば分かるものなんですか? つまり外見に特徴があるとか」


「いや、俺や君と特に違いは無いな。見た目は普通の人間だ。だから今もこの町に俺の知らないプレイヤーがいるということもあるだろう」


「なるほど」


 それだと僕がプレイヤーかもしれないと疑われたのも納得だ。キャラクターデータコンバートで地球に戻っているのは、プレイヤーが消える現象と同一だと思われたのだろう。


「この町の人々はプレイヤーという存在に対して、どのような態度でいるのでしょうか?」


「普通の人間相手と何も変わらない。彼らは死んでも生き返るという特性を持っているが、それ以外は我々と何も変わらないからだ」


 まあゲームとしてログインしているであろうプレイヤーには実際の死の危険はないだろう。おそらくアバターのような肉体を運営が用意しているのだろうし。とはいえ、実際にどのように復活が行われるのかはちょっと興味があった。


「その死んでも生き返るというのは具体的にどのように行われるんでしょうか? つまり死体が生き返るというような形なのか、あるいは、そうですね、死体は消え失せ、また同じプレイヤーがいつの間にか現れるというような」


「前者の場合もあれば、後者の場合もある。プレイヤーには蘇生魔法を使える者が少なくない。遺体がその場にあれば蘇生魔法で生き返るし、それができない場合は遺体は消え、どこからか蘇った当人が現れる」


「その蘇生魔法というのは僕たちのようなプレイヤー以外にも効果がありますか?」


「プレイヤーの使う蘇生魔法はプレイヤーにしか効かない」


 レザスさんは断言する。


「プレイヤーの蘇生魔法が効果を発揮するのはプレイヤーだけだ。逆に聖女の使う蘇生魔法はプレイヤーにも、それ以外にも効果がある。ただ聖女の使う蘇生魔法は失敗も多いし、制約も多い」


「それじゃあ基本的にプレイヤーが現れたところで、大きな影響はないんでしょうか?」


「いや、そうとも限らない。運営が告知を行うような大きな危機が迫るような状況になると、どこかからプレイヤーが集まってきて、それを解決するというようなことは過去に何度も記録されている」


「なるほど」


 基本的にRPGって世界を救うシナリオだもんね。悪のロールプレイをするにしても、メインストーリーを進行させると結局世界を救っていたりする。つまりその大きな危機とやらは運営によって起こされたイベントという可能性もある。

 そしてふと気づく。


「運営から告知があるんですか?」


「必ずあるわけでは無い。危機の内容について詳細が知らされることもあれば、単にプレイヤーと協力して立ち向かってください、で終わる場合もある」


 僕はしばし考え込んだ。

 地球では今のところ運営によるそのようなアナウンスがあったという話は聞かない。それはつまり今のところ地球のあるサーバでは運営主体のイベントが発生していないということになるのだろう。


 いや、これはプレイヤーの存在と同じくらい重要な情報じゃないか?

 運営がプレイヤー向けのイベントとして世界の危機を企図する場合があるってことだ。今の地球では運営は世界をゲーム化はさせたが、その後一切の介入をしていないため、今後もそうだろうという漠然とした思い込みがある。

 世界が一変したことを経験しているのに、今日と同じ明日がやってくると人々は信じているのだ。


「すみません。プレイヤーから話が逸れますが、運営についてです。全世界における告知の頻度は分かりますか?」


 僕がそう訊ねると、レザスさんは訝しげに目を細めた。


「1年に4回から8回くらいだな」


「そんなにですか?」


 アーリアと地球の二重生活を始めて一年近くなるが、僕はアーリアで運営からのアナウンスを聞いたことは無い。僕がメルのほうを見ると、彼女はこくりと頷いた。


「遠く離れた地のことでも運営は全世界に告知を行うからな」


 レザスさんが補足する。

 ということはたまたま僕が地球に帰っている時期にアナウンスがあったということか。最初の長期滞在の時は本当に偶然、告知の無い期間だったのだろう。一年に多くて8回ということなら、それくらいの空白期間はあり得る。


 そしてつまりそれはやはり地球ではまだイベントが発生していないということだ。


 だがそれはいつまでだろうか。地球の属する世界をゲーム化し、キャラクターデータコンバートという移動手段も用意されている。プレイヤーが地球にやってくる準備は整っている。あるいはすでに地球にいるかもしれない。


「過去に告知があった危機について、どんなものがあったかを教えていただけますか?」


「そうだな。内容まで告知されるもので、魔物の大発生。気候変化。その他にもいろいろあるが、繰り返し発生するのはこの辺りか」


「それらはプレイヤーの助力が無ければ切り抜けられない規模でしたか?」


「そうだな。伝聞で聞く限り、そういうことになるだろう。プレイヤーが参加していても、必ず状況を乗り越えられるわけでもない」


「なんてこった」


 僕は両手で顔を覆った。

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