第159話 贈り物をしよう 3
「プレイヤーではないと言うことだね?」
レザスさんが念を押すように言った。
その瞳は真剣に僕を射貫いている。もしも視線に物理的なエネルギーがあったら、僕は死んでいるかもしれない。
「レザスさんの言うプレイヤーがどういう意味か分かりませんが、たぶん違います」
「では問題は回帰する。プレイヤーでないなら、君は何者なんだ?」
これまで敢えて見過ごされてきたのだろう。だが僕が去ることを伝えてしまった今、レザスさんたちは、僕を失うリスクに踏み込める。どうせもうすぐいなくなるのだから。
「……この世界のようにプレイヤーたちが訪れる世界は他にもある、ということです。そんな世界のプレイヤーではない存在、それが僕です」
少し迷ったが正直に情報を開示した。本当のことを知られるリスクより、プレイヤーについて教えてもらいたかったからだ。
「ですが、僕の住む世界ではまだプレイヤーの存在は公表されていません。あるいはまだ誰もやってきていないのかもしれませんが……。なぜ僕がプレイヤーではないという確信を持っていたのですか?」
レザスさんの話しぶりからはそう思えた。
最初からプレイヤーではないのは分かっていたが、一応そうだったら困るので聞いておこうか、くらいの感じだ。
「プレイヤーは魔物を退治し、物を作って商売もするが、この世界の理知から外れた品を流通させたりはしない、というかできないようだ。プレイヤーたちは極めて特殊な能力を持った人々だが、一方で多くの制約が課されている。君はそれに引っかかっていないように思えた」
「その最たる物がこの鏡。これは僕がプレイヤーではないと言う証拠になり、それがこれまで僕を守っていたプレイヤーかもしれないという疑惑が晴れてしまうということですか?」
「その認識で大体は正しい。だが我々がプレイヤーを特別扱いすることはない。町中で犯罪を犯せば取っ捕まえるし、そういう場合に彼らは抵抗ができない。そういう制限がかかっているようだ。ただ彼らは死刑になっても、魔物に殺されても、死なない。いずれ復活する。場合によってはすぐに。そして彼らはこの世界の生来の住人を相手に殺人並びに傷害を犯すことはできないが、正当防衛、決闘の場合は別で、死刑の執行時にも適用される」
「つまり長い懲役、あるいは禁固がプレイヤーに対する基本的な刑罰となるのですか?」
「基本なら罰金だな。重い刑罰というのであればそうだ。だがその場から唐突に消えて、また戻ってくる相手の懲役期間をどう計算するかについては議論の分かれるところだ。その場にいるときだけ時間は経過すると考えるべきか、あるいはその場にいなくとも時計の針を進めるべきか。まあ君がプレイヤーではない以上、余談だな」
「プレイヤーではない僕はどうなりますか?」
「エインフィル伯や、国王陛下の判断次第だろう。ただその鏡を献上すれば、彼らは間違いなく君がプレイヤーではないと推測し、仕入れ元をなんとしても知ろうとするだろうな。戦争も辞さないだろう。それくらいの価値があるんだ」
「じゃあ献上はやめておきます」
「それが賢明だ」
「ところでプレイヤーについてお聞きしてもいいですか?」
「俺の時間は高いぞ?」
「この鏡では足りませんか?」
「貰っても使いようがない。従って俺にとっては価値がない。駄目だ」
「メルはプレイヤーについて何か知ってる?」
「噂話くらいなら?」
メルの話はあまり信憑性は無いようだ。ここはレザスさんが相手をしてくれている間に可能な限り情報を引き出したい。
「では今日のお代は結構です。というのはどうでしょう?」
俺は手元に置いてあった金貨の詰まった袋をレザスさんの方に押した。
大金は大金だが、今はもうアーリアのダンジョンでの稼ぎでも足りている。異世界商売を続けているのは、単に需要があるからという理由に過ぎなかった。
「うーん、ならそれに見合うだけの情報を渡さないと商売人の名折れだな」
さっさと金貨袋を確保してレザスさんは顎を撫でた。