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第146話 嘘を吐こう

 問題はただ一点。

 僕が売却する魔石はどこで手に入れたものか。


 実際にはアーリアのダンジョンで手に入れたものだが、それを伝えたくない。

 もしもスキルのことを知られると、これまで通りに自由にできるとは思えない。少なくとも協力(・・)を求められるだろう。そうなれば断わるのは難しい。協力はすぐに強制になるに違いない。


 異世界というのはそれほどに魅力的だ。

 しかも地球よりずっと以前からゲームとして運営されてきた世界だ。

 その世界が持つノウハウは喉から手が出るほどに欲しいだろう。


 日本という国家、あるいは地球という世界には必要な情報かもしれない。そういう意味では僕は大罪人だ。自分の都合を優先しようというのだから。

 だけどメルの仇討ちが終わるまでは待っていて欲しい。

 それまでは他のことなど考えられない。


 つまりこの場はなんとか言い逃れするしかない。


 魔石を誰かから受け取ったことにはできない。ダンジョン管理局、というより、税務署が放っておかないからだ。架空の誰かを挙げたところですぐにバレる。いや、それでもいいのか? 僕は知らなかったことにすればいい。

 知らない人から魔石の換金だけ依頼された。


 いや、先ほど誰にも監視されていないことにしてしまった。

 10万円未満の価値しかない魔石の量だが、依頼者が見張っていないなんて不自然だ。だからこそ監視されていないか聞いてきたわけだし。


 となると偶発的な入手。

 ダンジョンの外でモンスターと出会って倒して魔石を手に入れたとか。


 ああ、ダメだ。ダンジョンの外に出たモンスターは魔石と引き換えに受肉する。外のモンスターを倒しても魔石は手に入らない。


 未発見のダンジョンで稼いでました。というのも、それが実在しない以上使えない。


 その辺に落ちてましたとか……。

 いや、拾得物は警察に届けるのが筋か。


 誰かが手に入れたものを自分が売っているという流れは変えられない。だが代わりに換金など論外だし、贈与だと贈与税について調査される。


 じゃあ購入ならいいのかな?

 僕は個人間取引で魔石を買った。それを売っている。

 相手には売却益を申告する義務があるが、個人間取引なら相手のことを知らなくとも成立しうる。存在しない人物に押しつけることが可能だ。


 この間、大体1秒くらいだろうか。

 ステータスの上昇による思考速度はもはやチートだと言っていいかも知れない。


「えっと、ですね。贈与ではなく、購入なんですけど、この場合どうなりますか?」


「ユウカリですか?」


 フリマアプリの名前を出されるが、それだと取引の記録を提出しなければならないだろう。


「いえ、対面で、週末探索者っぽくて、そこそこ強そうな人だと、魔石持て余してる人も多いんで……」


「なるほど。法の穴を突いたやり方ですね。褒められたものではありませんが」


「そうなんですか?」


「売った側は明確に脱税が目的だと思いますが、申告しなかった場合にようやく脱税だとなるので、それまで判断ができません。柊さんについては古物商許可が必要な案件に思えるんですが、魔石は今のところ古物商法の対象外なんですよ」


「つまり魔石を売買だけすることを禁じる法は今のところないということですね」


「私は司法の専門家ではありませんので、断じることはできませんが、通報の必要はない案件だと思います」


「良かったぁ」


 なんとか言い逃れに成功したようだ。


「ですが、脱税の幇助を見なされてもおかしくないことですから、今後は自重していただけたらと思います」


「分かりました。今後はこういうことはしないようにします」


 幸いアーリア側に蓄えはたっぷりとある。

 日本円もある程度貯めてあるから、しばらく仕入れに困ることはないだろう。


 それらが尽きる前にアーリアで手に入り、日本でこそっと売れる商材を見つけなければならない。いや、もうすぐアーリアは去るのだから、そこはあんまり気にしなくていいのかな。


 僕は魔石を売った現金を手に入れて、橿原ダンジョンを出た。

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