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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第6章 第20層のドラゴンを倒そう

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第141話 感想を語ろう

 スタッフロールが終わって、劇場内が明るくなってもまだメルは放心状態だった。これでも落ち着いた方だ。スタッフロールが始まった時はまだ嗚咽してたし。


 とは言え、観客がみんな退出して、スタッフの人が掃除のために入ってきたので、そろそろ席は立たなければならない。僕はパーカーのフードをメルの頭に被せた。メルは抵抗すること無く、僕に手を引かれて劇場を後にする。


 さてどうしようか。

 メルを落ち着かせたいところだけど、あいにくとこの施設に喫茶店のようなちょっと座って飲み物を、というお店は無い。ああ、いや、まあ、メルを連れて行っても仕方ないから選択肢からは消えていたけど、カラオケルームのある遊技場が隣の建物にある。そこでいいか。


 僕はメルの手を引いて、隣の建物の2階に入っている遊戯施設に向かった。ボーリングとか、卓球とか、カラオケとか、色んな遊戯が1カ所にまとめられている。


「カラオケを二人、フリータイムで」


 そんなに長居はしないかも知れないけど、時間に追われるよりはゆっくりできたほうがいい。フリードリンク用のグラスや伝票をカゴで受け取って、指定された部屋に向かう。


 部屋でメルを椅子に座らせたら僕はグラスを手にドリンクバーに向かう。メルには水分が必要だろう。それくらい泣いてたし。などと余計な気を回した結果、スポーツドリンクと紅茶を入れていく。スポドリが駄目なら、紅茶を飲んでもらえばいいしね。


 僕は部屋に戻るとメルにグラスを差し出した。メルは喉を鳴らしてスポドリを飲む。大丈夫そうなので、紅茶は僕がいただこう。


「落ち着いた?」


 メルがグラスをテーブルに置くのを確認してから僕は切り出す。


「うん。……ううん。死んじゃったんだよね……」


 ぽろぽろとメルの瞳から涙がこぼれる。


「お話だから、ね。そういうお話なの。漫画と一緒」


 そう言えばメルはまだ実写で描かれる虚構の物語には触れていない。映画中の女優の死を本当の死だと思っている可能性に僕は今更ながらに思い至ったのだ。


「じゃあ、あの人は本当に死んだわけじゃないの?」


「そうだよ。あれはお芝居なんだ」


「じゃあ、なんであんな悲しいお話にするのぉ」


 メルは僕の肩をぽかぽか叩きながら抗議する。


「そうだね。お別れは悲しいって分かるから、かな。だから僕らは今を大事に生きなきゃいけない。そういうことを伝えたいのかも」


「そんなのはもう知ってるよぉ」


「そうだね。ごめんね。見るお話を間違えたね」


 メルは両親と死別している。この映画はまるで自分のことのように悲しかったはずだ。僕は意識していなかったとは言え、メルの傷を抉るようなことをしてしまったのだ。


「ひーくんはいなくならないよね?」


 メルが縋るように問うた。僕は咄嗟に答えられない。それはまさしくここのところ僕を思い悩ませている問題だったからだ。僕とメルは道を違えるかも知れないという可能性。僕にとってメルがいなくなるということは、メルから見れば僕がいなくなるということで。


「そうならないように全力を尽くすよ」


 弱い僕は嘘を貫き通すことができない。きっと心が強ければ、いなくならないよ、とはっきりと口に出せるのだろう。将来、メルを傷つけるかも知れない。嫌われるかも知れない。と知りながら、いま一時の安心をメルに与えられるのだろう。

 だけど僕は誠実さではなく、ただ僕の弱さによって嘘で全てを覆い隠すことができなかった。


 なにがステータスだ。


 レベル40になった僕のステータスは一般的な日本人を遙かに上回る。ステータスの抵抗の値は、精神的抵抗力(及び魔法抵抗力)だと言われているが、それは心の強さとは異なるらしい。


 いや、それとも、僕がそう選択しただけなのか?


 確かに以前の僕なら誤魔化すようなこともできず、ただただ狼狽えていただけだったかも知れない。しどろもどろになって、メルから追求され、この場で全てを吐き出していたかも知れない。


 そしてもしかしたらその方が良かったのかも知れない。


「約束ね」


「約束するよ。僕はメルと一緒にいられるようにずっと努力する。し続けるよ」


 誓いの言葉を口にするには、雰囲気があまりにもない場所だったけれど、僕らは真剣だった。

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