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第134話 不審者と対峙しよう

 夜の間に水琴のスマホにメールがあったらしい。内容は警察を呼んだことへの批難と、脅しと取れるものだった。次に警察を呼んだら分かってるんだろうな、というような、そんな感じだ。分かりやすい脅迫の証拠をどうもありがとう、という感じですらある。


 水琴と一緒に自転車を走らせて中学校の前で別れ、僕は高校へ。


 僕の高校生活は以前とそれほど変わりないぼっち生活だ。一応檜山たちから威嚇のような目線を向けられることは無くなった。むしろ努めて僕の存在を無視しようとしている感じだ。喧嘩の敗北を無かったことにしたいのかも知れない。


 予習をしているため授業の内容は再確認という感じだった。あとテストに向けて先生なりの解釈をノートに書き留めておく。


 高校2年生の3学期ともなれば受験に向けてクラスの雰囲気も変わってくる。以前の僕は大学に入ることができればどこでも、という感じだったが、今はもっとランクを上げたいと考えている。


 とは言ってもやりたいことが特にあるわけでもない。遠方の大学に受かって一人暮らしになれば色々とやりやすくはなるな、と思うくらいだ。


 その頃にはレベル40になっている予定だから、探索者として学費や生活費を稼ぐのは余裕のはずである。今後、アーリアの深層で稼いだ魔石を売るためにも、日本のダンジョンでの実績を積んでおきたいという事情もある。


 もちろん専業探索者という道を考えないわけではないが、それを決めるにしても大学で学んでからでもいいはずだ。やりたいこと、やりたい仕事が見つからなければ、その時に専業探索者になればいい。


 授業を終えて僕は真っ直ぐに水琴の通う中学校に向かった。学校の前で水琴にラインを送る。すぐに既読が付いて、今から出ると返信があった。


 さてストーカー野郎は近くにいるのだろうか? 周囲を見回すがそれっぽい人影は無い。少し離れたところで水琴が出てくるのを待っているということなんだろう。それともまだ来ていないだけかもしれない。普段の水琴であれば部活があって帰るのはもっと遅い時間だからだ。


 水琴が自転車に乗って中学校から出てくる。僕らは一緒に家に向かって走り始めた。途中、赤信号で止まったときに水琴が後ろを振り返る。


「いる……」


 怯えた声。僕も振り返った。キャップを被った若い男性が自転車に乗って、信号から少し離れたところで止まっている。そんなところで自転車を止めることがもう不自然で僕は苦笑した。


「ちょっと話してくる。水琴はこのまま家に帰れ」


「え、でも」


「いいから言う通りにしろって」


「うん」


 折良く信号が青に変わり、水琴は自転車のペダルを踏んだ。僕はその場に残って男の方をじっと見る。日中と言うこともあってキャップをしていてもなんとなく人相が分かった。やはり若い男性だ。高校生か、大学生か。この時間に私服でこの場に現れるのだから大学生か。


 男は僕に見られていることで進むことを一瞬だけ躊躇したようだったが、水琴を見失わないためか自転車を前に進めた。僕はその前に手をかざして制止する。男は僕の手を避けて先に進もうとしたので、僕も男に併走するように自転車のペダルを蹴った。


「お兄さん、うちの妹になんの用事ですか?」


 併走しながら声をかける。


「いきなりなんだよ。俺はただあっちのほうに用事があるだけなんだけど」


「そうは言いますけど、昨日も一昨日もうちの妹を追いかけて、家の前まで押しかけていたじゃないですか。写真もありますよ。見ます?」


 すると男は言いつくろうことを止めて声を荒げた。


「るっせーな! 用事ならメールで伝えてるだろうが。返事をしないあっちが悪いだろ!」


「返事が無いなら拒否の意味だと普通は思いませんか?」


「あいつの友だちの連絡先を聞きたいだけだ。それのなにが悪い」


「知り合いでも無い人にそんなこと聞かれても怖いだけでしょ」


「俺はあの子に会って話がしたいだけなんだよ! なんで隠す必要がある!」


「手順ってもんがあるでしょ。どうせ水琴の友だちのお兄さんかなにかなんでしょ。その子を通じて水琴に紹介を頼むとか、普通はそうするんですよ」


「うるせぇ、お前もあの子を隠すのか!?」


「少なくとも不審者を近づけたくはないと思っていますね」


「お前こそあの子のなんなんだよ!」


 そう言われて言葉に詰まる。僕はメルのなんなのだろう。僕はメルのことを好きだが、告白したり、それを受け入れられたわけではない。少なくとも友だちではあるだろう。だけどただの友だちというには僕らの関係は深い。


「パートナー、ですかね」


 正直に答える必要は無かったかも知れない。彼氏だと言っておけば話が早かったんだろう。だけどメルとの関係性について嘘を吐くことは考えられなかった。


「恋人はいないって聞いたぞ」


「ええ、恋人ではありませんね。でもそれと同じか、それ以上に僕は彼女のことを大切に想っています。あなたのように女の子を追いかけ回して怖がらせるような男性を紹介したいとは思いませんね」


「じゃあどうしろって言うんだよ!」


「大人しく諦めてください。これ以上、妹に接触したり、家の周りをうろつくようなら、また警察を呼びますよ」


「ちょっと女を紹介して欲しいだけで大げさな!」


「どうぞ警察にも同じことを言ってください」


「……クソが、覚えてろよ!」


「そちらこそ忠告を忘れないでくださいね」


 キッと睨み付けると、男は自転車を反転させて何処かへと走り去っていった。ほっと息を吐く。荒事になっても負ける気はしなかったが、それはそれで面倒だ。ひとまず穏便に済んだことに安堵した。

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[一言] いやメール来た時点で通報でしょう
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