表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/482

第129話 セットの仕方を教えて貰おう

 全体的にハサミを入れ終わったところで眉もカットしてもらいシャンプーすることになる。理髪店とは違って専用の座席に移動するようだ。前屈みになるのではなく、リクライニングチェアーみたいなので仰向けにシャンプーされることになる。


 シャンプーは担当が変わった。若い女性でさっきの席と同じようにマントみたいなのを着せられて、タオルを首に巻かれ、その上から何かを巻かれる。


「お首、苦しくないですか?」


「あ、大丈夫です」


 また、あ、って言っちゃったよ。これだけで、もうこいつ陰キャだなとか思われてそうで辛い。被害妄想なんだろうけど、陰キャって被害妄想でできているところあるからね。


「それじゃ席を倒していきますね。楽にしててください」


 座席は電動でリクライニングするようだ。倒れきったところで顔に薄い紙のようなシートを乗せられる。濡れた指先で額のところをちょんちょんと突かれる。紙を濡らして固定したようだ。男だとあんまり気にならないけど、女性だと化粧が濡れたりしたら困るからだろう。


 暖かいお湯で髪を濡らしていく。


「お湯加減いかがですか?」


「大丈夫です」


「それじゃあシャンプーをつけていきますね」


 なんで他人に髪の毛を洗って貰うのってこんな気持ちいいんだろうな。不思議な安堵感がある。


 力加減大丈夫ですか? とか、かゆいところはありませんか? とか問われて、僕は大丈夫ですと返すだけのマシンと化した。


 シャンプーをお湯で流して顔のペーパーが取られ、タオルで髪を軽く拭かれた後でリクライニングが上がる。


「顔を拭くタオルは暖かいものと冷たいものとどちらがよろしいですか?」


「じゃあ暖かいので」


 シャワー音がしたのでお湯で温めて絞ったのだろうタオルが手渡される。顔を拭いて、タオルを渡す。マントみたいなのとかを剥ぎ取られて、元の席に案内された。またマントのようなのを着せられる。


「頭のマッサージをしていきますね」


「あ、はい」


 ぐりぐりと指先で頭をマッサージされる。痛いというほどではなく、気持ちが良い。こんなサービスもあるのか。お値段が高いだけのことはある。サービスだよな? 追加料金かかってるとか無いよね。


「それじゃあ髪の毛を乾かしていきますね」


「佐山さん、そこからは交代するわ」


 山口さんが戻ってきてシャンプーを担当してくれた佐山さんからドライヤーを受け取った。


「髪の毛をどちらに流すかご希望はありますか?」


「いえ、特には」


「分かりました。それでは乾かしていきますね」


 家のより強力なドライヤーで髪を乾かされて、それから最終確認とばかりに髪の長さを見ていって、ちょっとだけハサミを入れる。


「髪のセットをしていいですか?」


「えっと、あの、はい、お願いします。良かったらやり方も教えてください」


「はい。いいですよ。まずドライヤーを当てるときに頭頂部は髪の根元に当てるように髪を持ち上げてくださいね。側頭部は逆に抑えながら当ててください。これだけで髪にボリューム感が出てますよね」


「確かに」


「それからヘアワックスをこのくらい手に取ります」


 美容師さんは500円玉くらいの量を手の上に乗せる。


「手のひら全体に薄くのばして、指の間にもワックスが付くようにしてください。それからまず毛先にワックスを付けていきます。前髪は最後に整えるので今は後回しで」


 言いながら美容師さんは僕の髪の毛にワックスを付けていく。


「今度は後頭部に揉み込むようにワックスを付けてください。ふんわりボリュームが出るように握りながら毛先だけじゃ無くて、髪の内側にもワックスを付けていきます」


「後頭部にもボリュームを出すんですね」


「後ろがぺたんとしているとシルエットが悪いですから。続いて頭頂部ですね。指先で髪を持ち上げるようにしながらワックスを付けていきます。この段階ではとにかくボリュームを出すことを考えてください」


 それから美容師さんは側頭部に指を当てる。


「側頭部は抑え気味に、前髪は摘まむようにしながら形を整えてください。それから全体の形を整えていきます。整える時は押さえるのではなく、逆に浮かせるような感じで、空気を入れながら整えます。どうですか?」


 鏡の中には髪の毛をセットされた僕がいる。ストレートの髪をそのままにしていたのとは全然違う。髪の毛にボリュームがあって、そりゃ僕は僕に違いは無いのだけど、明らかに雰囲気が違う。眉の形を整えて貰ったのも大きいかも知れない。


「凄いですね。僕じゃないみたいです」


「セットは慣れですので、毎日やっていればすぐ上手になりますよ」


「だといいんですけど」


「眉もカットしただけだとすぐに生えてきてしまうのでお手入れは欠かせません。ヘアワックスは当店でも売ってますけど、眉カットの道具はドラッグストアなどで買って下さい」


「じゃあ今のと同じワックスをいただきます」


「ありがとうございます。それから次回のご予約をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「次回はどれくらいで来たらいいんですか?」


 理髪店では短くして2ヶ月3ヶ月して前髪が鬱陶しくなってきたら行くみたいなサイクルだった。だけどそれじゃダメなのはなんとなく分かる。


「男性ですと4週間に1度か、早い方だと3週間に1度という方もいらっしゃいますね」


「それじゃあとりあえず4週間で」


「分かりました。今日から4週間ですと、2月3日の木曜日ですね。お時間はどうしましょう?」


「えっと、学校から帰ってきてからなのでできるだけ遅い時間がいいんですけど」


「分かりました。確認しておきますね。今日はありがとうございました」


 マントのようなものを取られて、席をくるりと回される。


 どうやらこれで終わりのようだ。


 受付の方に戻って予約の確認と支払いを済ませる。次回の予約は2月3日の18時からとなった。これならまあ学校が終わってからでも間に合うだろう。


 お値段は眉カットとヘアワックスを買ったことで想定より高くなった。8,000円くらいだ。月に1回8,000円と考えると結構な出費だ。母さんが今後も出してくれるかだなあ。自分でも払えるのだけど、お金の出所を知られるわけにはいかないからな。


 それからいつもの仕入れをして僕は自宅へと帰ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ