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第107話 ヴィーシャさんについて話を聞こう

 僕らはベクルトさんの剣術道場にやってきた。今日も多くの門下生が武器を振るって訓練に励んでいる。だけどヴィーシャさんの姿は無い。そりゃそうか。彼女がどんな事情を抱えているにせよ、毎日剣術道場に来ているはずがない。多くても何日かに1度くらいのペースなんだろう。


「おう、お前ら、また来たのか」


「ベクルトさん、こんにちは! 今日はヴィーシャちゃんいないんですか?」


「ヴィーシャに用事か? あいつなら来てるほうが珍しいぞ。大変だよな。大商会の長女ってのは。俺ならさっさと家を飛び出すがね」


「大商会? ひょっとしてレザス商会ですか?」


「いんや、ヴィクトル商会だな」


「メル、知ってる?」


「確か鉱石類を扱う商会だよ。そっか、ヴィーシャちゃん、ヴィクトル商会のお嬢様なんだ……」


「彼女が冒険者にならないのもその辺に理由が?」


「あー、階級の高いお偉方の世界だとレベルの上がってる女は扱い難いって評判らしいからな。ヴィーシャの場合はエインフィル伯の3男との縁談もあるから、なおさらレベルは上げられん」


「その割りには強くなりすぎでは?」


「レベルは上げてねーから大丈夫なんだよ。そういうもんだ」


 なんとなく納得がいかないが、そういうものであるらしい。


「それにヴィーシャはエインフィル伯のところに嫁に行くわけじゃねえ。3男坊のほうが婿に来るんだ。ならそんなに気にすることでもねーからな」


「それにしてもヴィーシャさんはどうして訓練を?」


「ああ見えてヴィーシャは体が弱かったんだよ。それで鍛えようって話になって、たまたまウチになった。それだけさ」


「その結婚ってヴィーシャちゃんも納得してるんですか?」


「納得は、ん~、してねーだろうが、そんなもんだろ。結婚なんてよ。好きな相手と結婚できるのなんざ、しがらみの無いヤツ同士の場合だ。ヴィーシャには立場がある。ヴィクトル商会を維持する役割がな。まあ、俺は嫌なら逃げだしゃいいと思ってるが、ヴィクトルは逃がしちゃくんねーだろ。そんなに甘いヤツじゃねーよ」


「メル、ヴィーシャさんは無理だよ。諦めよう」


「うー、でもぉ」


 メルは納得できないようだ。だけどこいつは家庭の事情だ。深入りはできない。僕らはそこまでの関係性をヴィーシャさんと築けていない。もしも、ヴィーシャさんが助けを必要としていて、それを僕らに求めてくるのであれば応じてもいいかも知れない。だけど僕らから勝手に踏み入るのは違うはずだ。


「ベクルトさん、僕らは20層に住み着いたというドラゴンを倒すのを目標とした冒険者パーティを組む予定です。そのパーティメンバーを探しているんですけど、前衛を任せられる人2人くらいいませんか? レベルはパワーレベリングで上げられるところまで上げてしまう予定です」


「ああ、あの面倒くさいから誰も手を出してないヤツな」


「ご存じですか」


「まだちゃんと冒険者やってた頃だからな。ギルドが注意喚起情報を出したのを覚えてるよ。あんなのわざわざやらんでも、ドラゴン狩りたいなら30層にゃ普通に出てくるだろ。30層行けないヤツがドラゴン相手にしても死ぬだけだし、倒せるなら30層で倒せばいい。美味しい敵かっつーと、美味しくないけどな。魔石の大きさの割りにつえーから」


「それでも20層のドラゴンは倒さないといけないので」


「まあ、いいか。ウチの門下生でパーティメンバーを探しているっつーなら、今日来ている中だとシャノンとエリスあたりか」


「女性名な気がするんですが……」


「女だよ。男の前衛が余ってるとでも思ってんのか?」


「余ってないんですか?」


「前衛だと余らないんだよなあ」


 レベルの恩恵があるとは言え、元となる肉体の影響は大きいということだ。


「シャノンもエリスもお前らと比べたら実力は圧倒的だぞ。むしろ向こうが首肯するかどうかだな。呼んでみるか?」


「お願いします!」


 メルが先に返事をする。ベクルトさんは練習を続けている門下生のほうに声を掛ける。


「シャノン! エリス! 中断してこっちに来い! 冒険者パーティのお誘いだ」


 そうして2人の女性がこちらに向かって歩いてきた。

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