第五章 新たな旅立ちには危険がつきもの
1
遥か西の街『ゼレス』に向かうべく、三人は鉄道に乗り込んでいた。どこまでも続く直線の線路にくっきりと地平線が見えていた。辺り一面は砂漠のように緑の木々はなく、固く赤い岩がゴロゴロとある。三〇分も歩けばどこかの海にぶつかる『エルニア国』とは大きな違いであるのが、大陸という巨大な陸路である。
鉄道は大きな黒煙を出すSLのようなものであり、食堂車も連結されていた。三人は食堂車で優雅に食事を楽しんでいた。真っ白なクロステーブルにおしゃれな赤いバラが一輪テーブルに置かれていた。出てくる料理も一級品ばかりであるが、ややテーブルマナーにうるさいようなメニューである。千年前にはなかったのか、ナイフとフォークを使って必死に食べ物を口に運ぼうとするのはエイであった。
「ねぇ、この先のとがったものは何? これなら簡単に人間に致命傷を与えることが出来るけど」
内心何を物騒なことを言う娘なんだろう。まわりの目が白々しく見える中、エイは出てきたお肉の料理の前に悪戦苦闘している。リブとマスはなんて女の子と一緒に旅をしているのだろうと、改めて思い知らされた。確かにエイの戦闘能力ならナイフ一つで戦うことが可能であろう。千年前には毎日が戦闘であったに違いないが、食事は一体どうしていたのだろうか。マスが気になって聞いてみた。
「エイの時代にはどうやってご飯を食べていたの?」
「お箸を使っていたのよ」
まるでどこかの大和大国のようなものか。まぁ、その大和大国はこの次元には存在しない
シェインとの激闘の後では、本当にのどかな時間が訪れた。三人はどこまで行っても同じ景色をただ眺めていた。世界はこんなにも広いのかと思い知らされたリブとマス。大陸に渡ってからどれくらいの時が過ぎたのかをリブが整理した。
エルニア国から出発してシェインの戦いまで何と三日しか経っていないことに気が付くと、改めて驚きを現した。この鉄道での移動だけですでに四日目になっているのだ。この四日はこれまでの戦闘の日々から少しは解放されたため、気持ちに余裕が出ていた。リブとマスは、千年前の世界についてエイから色々聞いていた。
世界を巻き込んだ東西の戦争。この戦争はエイの出生前からすでに始まっており、何年続いたか誰にもわからないほど長い戦争であった。生まれながらに戦闘能力を身に付けたエイは、やがて炎術者としての能力を開花させていた。東軍の領主のユウトに魅入られ、やがては東軍の中枢を担うポストになっていった。正直戦いに関しては好戦的ではないエイであった。エルニア国でののんびりしていた日々を過ごしていたリブとマスがうらやましかった。明日も無事にいられるような心配なんかしなくてもいい日なんかなかった。
今日も夕陽が沈んでいく。辺りを紅色に染めて真っ赤な太陽がじわりとその存在を消していく。三人はこれまでの激闘が嘘のように沈む夕日をひたすら見ていた。このままの静粛がいつまでも続いてほしい。三人はそう思うばかりだった。エルニア国の村人が忽然と姿を消してから、村人を取り戻す旅はこの先どこまで続くのだろうか。マスは三流ライター張りにこの冒険記を書き留めていた。
「綺麗な夕陽ね、いつまでも見ていたいわ」
「いや、エイの方がよっぽどきれいだよ」
もちろんそんなことは言えるはずもなかった。ちなみにリブかマスのどちらの心境かはお任せする。
リブは一人、車両の一番後ろの席から、見渡す限りの地平線を眺めていた。物思いに更けているわけではないが、シェインの戦いで気がかりなことがあった。あの暗闇の中の男の声だ。一体あの声の主は誰だったのだろうか。少なくとも味方ではあるだろうが。 だが、あの声がなければ自分がエレクタクノロジーを発動させることも、シェインを倒すこともなかっただろう。それに、何であの声の主は知っていたのだろうか・・・
エイの名前を・・・
暗闇から抜け出す際に、かすかに聞こえた。それに、エイのことを気にかけていたようだ。エイの存在を知っている人など、この世界でいるわけがない。誰かが僕たちのことを監視している? 可能性があるのはリュウだが、あいつがエイのことなど気にかけるわけがない。エイの存在を知っていて、なおかつ僕たちの存在も知っているなんて・・・
それに何なんだ、エレクタクノロジーの力は。確かにエレクタクノロジーの力でシェインを倒すことはできたが、下手すればシェインを殺すところだった。それこそ、いずれ見方を巻き込んで殺してしまうことだって考えられる。あの闇の番人はこんな危険なものを押し付けようとしたのか。諸刃の剣じゃないか。もう、エイの悲しむ顔やマスの心配そうな顔を見たくはない。だけど、この力がなきゃシェインにやられてた。村人だって助けられなかったかもしれない。虎の威を借りる狐みたいだけど、こんな時に四の五の言っている場合じゃない。
「どうしたの?」
「わあぁぁああぁぁ!!! え、エイか。い、いつからそこにいたんだい?」
「な、なに? 本当にどうしたの?」
「い、いや何でもない。何でもないよ」
「ふぅ〜ん、なんかあっやしぃ」
女の勘は本当に鋭いものである。それは時代が変わっても同じものである。いや、戦国時代を生きてきた経験だったのだろうか。
地平線をひた走る鉄道は、この日も快調に走っていた。
「おはよーリブ、マス」
エイの軽快な挨拶が朝を告げている。どこまで行ってもゼレスには当分つきそうにない。シェインとの激闘から数日たって、少しの平和な時間を過ごしていた。この時までは・・・
三人が食堂車に入った時、金髪の青年が優雅にコーヒーを飲んでいるのを見つけた。金髪・・・間違いない。あれはリュウだ。三人に緊張が走った。なぜリュウがここにいるのだろうか。彼はいつも自分たちより先回りして現れる。
「おはよう諸君」
「おはようございまーす」
などと悠長な挨拶など出来はしない。
「な、なんでリュウがここにいるんだ?」
「ほんと、あなたはどうしていつも高みの見物を決めているのかしら」
「それはかっこつけだからさ」
リブ、エイ、マスがそれぞれ話しているが、もはや漫才にしか聞こえない。いや、悠長な挨拶よりもよほど余裕がある。
「それより、あなた、私たちがシェインと戦っていた時、あなたは崖の上から私たちを見ていたわね。あれはあなたがシェインを倒すことに自信がなかったからかしら」
「「なんだって?」」
リブとマスがややハモりを入れて同じ言葉を発した。どうやら二人はリュウがシェインとの戦いを見ていたことを知らなかったようだ。そこは、百戦錬磨のエイである。
「最初はな。だが、シェインがあの程度の実力だったとは俺も拍子抜けだ。誰だあそこまで強いと大ボラを吹聴したのは。噓八百にもほどがある」
「それがあなたが本当の実力を備えていたらね。まだ私たちはあなたの本当の実力を知らないのよ」
「なら、今この鉄道で戦うか?」
エイとリュウの攻防に緊張が走った。実力を知らないリュウのすごさはどれほどのものだろうか。百戦錬磨のエイならともかく、リブとマスはまた戦わなければいけないのかと身構えた。
2
『ドン!!!』
激しい轟音がした。いや、音だけでは無い。体に強烈な負荷がかかる。これは急ブレーキだ。いったい何が起きたのか? 鉄道は急ブレーキをかけてから数十メートル進んだところで止まった
「な、なんだ?」
「どうした?」
「これはなんなの?」
「一体どういうことだ」
この状況からすると、リュウですら予期していなかったようだ。いつも策略家の彼でもこの出来事は彼なりに動揺しているようだ。動揺しているのは彼だけではない。一緒にいた乗客も何が起こったかわからない。こんな荒野に動物や人などいるわけがない。日本の北海道のように鹿がぶつかったのだろうか。
それにしても、さっきの爆発みたいな音は何だったのだろうか。その疑問をよそに、二人組の男が車内に乗り込んできた。
「よぉ、この中でリブとリュウってのがいるはずだ、どこだ? 隠れてないで出て来いよ!」
男のうちの一人、背は高い方だがややがりがりである。さらに長髪ときた。顔は不細工である。
「まぁ、そう強行的な姿勢はとらさるな。ここにいることは目に見えているんだから」
もう一人の男は、ちょっと太っちょで身長が小さい短足である。髪は単発であるが、やや威厳がある。ようは中間管理職である。もちろん不細工である。この二人はぴったりのお笑いコンビである。
「どこで俺たちのことを知ったのかは分からないが、呼ばれたからには、行かないわけにはいかないよな、リブ」
「そうだね、リュウ、行こうか」
二人は意気揚々と前に出てきた。
「おや、お前らがリブとリュウか。思っていたより子供だな」
細い方の男が主にリブたちに話している。太っちょの男は後ろに構えて物事を観察している。
「で、お前らの目的は何だ? 鉄道を止める騒ぎを起こしてまで俺たちに何の用だ?」
「俺はあのお方の命でリブとリュウを捕えよとの命令に従うだけだ」
「ほう、俺とリブをか。どこからそんな自信が出てくるんだ?」
「たかだかシェインを倒すのに苦労しているお前らなど、さして怖くもなんともないな」
「俺たちの戦いを見ていたのか。だが見当違いだな。俺はシェインとは戦ってはいないし、リブの力の前ではシェインはなす術もなかったぞ」
リュウは見ず知らずの人物に対して、あえて『エレクタクノロジー』については口にしなかった。そのことをリブは感じ取っていた。確かにエレクタクノロジーの前ではシェインはなす術はなかった。だが、エレクタクノロジーの力がなければ、シェインには勝てなかったのが現状だ。リブはエレクタクノロジーの力には否定的であったが,シェインを倒した事実から、何も言えなかった。
「シェイン如きがお山の大将を張っている地点で、勘違いも甚だしいのだ。所詮は地方でしか偉そうにできない中年と同じだな」
鋭い。
「ということは、お前らはシェインと何ら関係はないのか?」
「あるわけないだろ、あんな小物に」
「待った」
リュウと謎の男とのやり取りの間にリブが割って入ってきた。
「シェインとは関係がない君たちが、なぜシェインの暴挙を止めなかったんだ? シェインは罪もない村人たちを迫害していたんだ。なぜ黙って見過ごしていたんだ?」
その想いに、マスとエイも同調した。洞穴での生活を余儀なくされた村人たちを見てきた三人にとって、見逃せない事態だ。
「決まっているだろう、そんな小粒の命なんか別にどうでもいいのさ」
三人の怒りに火が付いた。中でもまだ冷静なリブはリュウにつぶやいた。
「リュウ、本当は君と決着を付けなくちゃいけない。だけど、それは後回しだ。こいつらをどうにかしなきゃ、先には進めない。こんな人の命を何とも思っていない奴らに、自分は捉えられたくはない」
「お前とは中身は一致しないが、奴らをぶちのめすことには同意だ」
「初めて意見があった気がするよ」
六人は鉄道から降りて、何もない荒野で戦闘の準備をしていた。何やら気に食わない様子のリュウは、彼らの名前を聞いた。
「俺はガダル、後ろの中間管理職みたいなのがカナルだ」
やはり、誰もが中間管理職だと思えるようだ。
「ほう、素直に教えるとは、何か裏があるんじゃないか?」
「お前らがその名前を聞いただけで恐怖がよみがえるために教えたのだ。名前も知らなきゃ存在を後世に伝えることも出来ないからな」
「じゃあ、俺が間抜けな二人組だったと伝えてやるよ」
リュウはすぐに炎をガダルに向けて飛ばした。
「炎!! リュウは炎術者だったのか?」
リブが驚きの声を上げていた。しかも、自身が作り出す炎よりも大きいことにさらに驚いた。マスとエイも同様に驚いていた。
「こんな攻撃が俺に通用すると思っているのか?」
ガダルの手に突如こん棒のようなものが出てきた。まるで野球のように振りかぶってリュウの炎をかっ飛ばした。
「おや、想像していたよりもやるようだ。まぁ、あっさり終わるよりは楽しめそうだ。なら、これはどうだ!!」
リュウは散弾の炎の球を作り始めた。その数十数個といったところか。その球をガダルに向けて飛ばした。だが、またしてもガダルはひらりと炎をかわした。
「お前中々やるじゃないか。じゃあ、これなら!!」
「あのガダルとかいう奴、只者じゃないわ」
「え?」
エイの言葉にマスが驚いた。ぱっと見はうだつの上がらないサラリーマンのようだが、実力は相反するというのか。
「リュウの攻撃は決して弱いものではないわ。シェインでも、そう簡単にはよけることはできないわ。だけど、あのガダルは柳のように簡単によけた。それに、向こうから攻撃する様子はないわ。こう、リュウの実力を図っているような。そんな余裕が見えるわ」
「そんなやばそうなやつを、リブが戦うのか。でも、エレクタクノロジーを使えばこっちに勝機があるんじゃないか?」
「そうね、エレクタクノロジーを使えば勝機はあるわ。だけど、リブは使おうとは思っていないはずよ」
マスには思い当たる節があった。あの人格はリブのものとは思えない。シェインとの戦いの後、独りで悩んでいるリブをよく見ていた。ひょっとしたら、エレクタクノロジーの発動と何か関わりがあるのではないか。だから、独りで鉄道の最後尾から地平線を延々と眺めていたのか。その間にもリュウは徹底した攻撃を仕掛けていた。だがガダルに一切当たらない。ここまで攻撃が当たらないとなると、さすがのリュウも焦りを感じていた。
「なんだと? お前、見かけ通りの奴じゃないな」
「で、お前の攻撃はただ炎を飛ばすだけか? ならこっちから行くぞ!」
「ぐだぐだ言ってないで、さっさと来いよ」
「幸せな奴だ・・・お前の左腕を見ろ」
何かの脅しかと呆れていたリュウだったが、自分の左腕を見て表情が変わった。リュウの腕から紅い液体が数滴垂れていた。血だ。自分が気が付かない範囲で攻撃を仕掛けたのか? 一体どうやって? あんな奴に、この俺がやられるのか?
「これで分かっただろ? 俺たちは別にお前たちを殺すことはしない。あのお方からは生きた状態で俺の前に二人を連れてこいとの命だ。だが、俺のさじ加減でお前らの命などどうにでもできるのだ」
「なるほど、シェインを裸の大将扱いできる実力は備えているようだな。これは驚いたな」
つ、強い、こいつは。隣で見ていたリブの心境だ。もちろんマスとエイも同じ心境だ。今まで戦ってきたデスリーンやシェインとは違う。こいつは力でねじ伏せようとはしない強さだ。得体のしれない奴だ。
「殺すのは簡単だ。だが、今は気絶させる程度に抑えよう」
ガダルが一言話した時だ。リュウの様子がおかしい。急に力が抜けたような、意識が飛んだような・・・足に力が抜けたリュウはそのまま床に倒れてしまった。
「今、何が起こった!? リュウ!! どうしたんだ!!?」
リュウからの反応はない。ガダルが特に攻撃をしかけたわけでもない。ただその場に直立不動であった。なのに、リュウが倒れてしまった。意識は、分からない。
「さぁ、次はお前だ。リブとやら」
ガダルがゆっくりとリブに歩み寄ってくる。一体どうやってあのリュウを一撃で戦闘不能にしたのだろうか。リブたちは知らないが 、リブとマスが決死に逃げたデスリーンを一撃で倒した実力を持つリュウだ。それでも、リブたちはリュウの実力を認めていた。
「一体どうやって、リュウを倒した?」
「手品師は、タネと仕掛けを教えないものさ」
「じゃあ、タネも仕掛けもあるからリュウを戦闘不能にしたのか?」
「いや、違うな。正確にいえば、タネも仕掛けもなく、実力で倒した、とでも言っておこう」
「そうは思えないな。あのリュウがお前なんぞにやられるとは思えないな。大方、麻酔銃のようなものでリュウを打ったんじゃないのか?」
「ほう、俺がいつ、どうやって?」
「さぁ、それはこれから暴いてみせる」
リブとガダルの心理戦か、それともリブに考えがあるのか。リブは腹の探り合いのように戦闘を長引かせていた。
「リブ、ひょっとしたら、何か考えがあるのかしら。あの顔は妙に自信がある顔よ」
「確かに。けどリュウを倒した奴だぞ。一体何を企んでいるんだ」
エイとマスもリブの考えに何があるに違いないと睨んでいた。だが、どんな考えがあるかは二人にはわからなかった。
「エイ、マス。これから俺はこのガダルという奴を相手にする。でも、二人とも安心してはいけない。周りに気をつけるんだ。二人もどこかで狙われているかもしれないからね」
気のせいか、ガダルの眉間がわずかに反応した。
「・・・そうね、どこからか私たちを見ているかわからないからね」
「では、リュウを倒したトリックを解明しようじゃないか」
第二ラウンドが始まった。
リブはガダルに突撃した。先ほどのリュウの炎を簡単に打ち返したガダルだ。きっと自分の炎を簡単に打ち返されるだろう。そう判断したリブはまずは体術で向かった。ガダルの内側に入り込み、まずは顔面めがけてハイキックを仕掛けた。だが、簡単にガダルの腕のガードで塞がれた。
「あ、あれ? 発動しっぱなしじゃなかったのか」
「エレクタクノロジーね。あの力はリブが正気に戻ってから消えてしまったわ」
「何だって? それはリブも感づいているのか」
「そこまではわからないわ。でも、今の一撃で本人は一番わかったんんじゃないかしら」
リブとガダルの戦いを見ていたエイとマス。
(う・・・エレクタクノロジーって、完全に覚醒したわけじゃなかったんだ。やっぱり、あの精神暴走状態じゃなきゃ効果がないんだ)
「こんなキックでシェインを倒しただと? これならシェインの方がまだ強いぞ」
リブに対して虫を払うかのように手を払いのけたガダル。簡単に払いのけたガダルだったが、リブも簡単に吹き飛んでしまった。
「リブ!!!」
「待って、今リブの前に行ったら、私たちまとめてやられるわ」
「う・・・」
どこかで自分たちを見ている。その可能性を捨てきれない限り、この場を動くことはできない。どこかにリュウを倒したトリックがあるはずだ。それを暴くために、
エイは炎を飛ばした。
カナルに!
「「「何!!?」」」
一同が驚いた。遠くから見ていた中間管理職風のカナルの手元に炎をぶち当てた。
「あち―――――!!!!!!」
それはまさに刹那の間だった。その手から落とされたもの、それは麻酔銃だ。
「これがリュウを一撃不能にさせた根源ね。なんだ、あっけないものね。こんな古典的な手を使うなんて、ね」
千年前の人間であるエイに古典的と言われるトリック使ったカナル。
「そうか、ガダルがリュウの気を引いて、後ろでカナルが麻酔銃をリュウに目掛けて打ったってわけね。にしても、こんな古典的な手に引っかかるリュウもリュウだ」
マスが同調している。
「そうさ、この手は確かに古典的なトリックだ。だが、俺たちの目的は殺すことじゃない。連れて来いとの命令だからな。なるべく手をかけたくはないと言ったのが本音だな」
「何カッコつけてるんだ? さっきまでタネも仕掛けもないと言っていたんじゃないのか?」
エイがトリック見破ったのもつかの間、開き直るガダルに対し呆れ口調のリブ。
「しっかし、こんな古典的な手に引っかかるリュウって、大したことないわね」
「エイの言う通り」
「エイとマスの言う通り」
「その点には同意だな」
「アチー!!」
全員からひどい言われようのリュウである。きっと彼が起きていたら、怒り狂っているに違いない。だって、キャラ設定では二枚目ですよ。ちなみに、カナルは未だにエイの炎の後遺症に苦しんでいる。
「確かに、リュウを戦闘不能にしたのはカナルが打った麻酔銃だ。だが、この手しか用意していないと思っているのか?」
「何?」
「そう、例えば俺が指を鳴らせば、おまえを戦闘不能にすることができる・・・って言ったらどうなるかな?」
「ほう、そんな簡単にうまくいけばいいがな」
「では・・・一、二・・・・三!!!!」
「別に、何ともないぞ。失敗でもし・・・た・・・・か・・・・・・」
「「リブ!!!!」」
「え、なんで? ちょっと、リブ、どうしちゃったの?」
「おい! リブ!! いったいお前までどうしたんだ!!?」
リブはその場に倒れてしまった。まるで、リュウと同じように。
「言っておくが、リュウもリブも気絶させたのは、カナルの麻酔銃じゃない。そもそも、カナルなんて奴は、一体どこにいるのかな?」
マスとエイが振り返ると、木の枝が燃えているだけで、人影がなかった。
「い、いない。さっきまで確かにいたわ」
「こ、これは一体どういうことだ?」
二人は呆然とした。列車襲撃から確かに二人組でいたガダルとカナル。まさか、カナルは初めから存在しない人間だったのか? あれだけ中間管理職ヅラの顔立ちをはっきりと覚えているのは、何だったのか? 床に落ちていたはずの麻酔銃も、いつしか消えていた。
「これはどういうこと? 初めからカナルなんていなかったってこと?」
「ほう、察しがいいなお嬢ちゃん」
「それじゃあ、カナルが使ったはずの麻酔銃で眠らせたのは」
「あれは俺が仕組んだことだ。本当は麻酔銃なんて使っていない。そっちの方がトリックだと油断させるためだ」
やられた! エイの心境だ。最初は大したことのないインチキヤローだと思っていたが、今は違う。この男はかなりのやり手だ。相手をネチネチ追い込む陰険な策士だ。最初に感じた怪しい雰囲気はこのことだ。結局このガダルはリブとリュウの二人をもの見事に戦闘不能にさせた。それもトリックがわからないままである。
「あなた、只者じゃないわね。シェインを大したことないというのも納得できるわ」
「ようやくわかったか」
勝ち誇った顔を浮かべて、ガダルはリブとシェインを担ぎ上げた。やや重たいなとため息を付いている。
「え、ちょっと、二人をどうするの」
「決まっているだろ。俺はあるお方の命でこの二人を連れて行かなきゃならないんだ。だから、この二人を連れて行くんだよ」
「そんなことだろうと思ったわ。黙って、このまま連れ去るのを見てろっていうの?」
エイの語気が強まっている。それはマスにも感じていたが、マスも元々は短気な方だ。
「俺もエイに同意だ。このまま黙っているわけにはいかないだろ!!」
第三ラウンドが始まった。
「やれやれ、どいつもこいつも好戦的だな。そこまで戦いたいか? 相手を傷つけてまで」
「あなたには言われたくないわね、二人も戦闘不能にしている人には」
「どうかな? 俺は暴力など一度として振るっていない」
「あっ・・・」
エイは気がついた。どうしてこの男が得体の知れない人物だと気がついたかといえば、一度も戦っていないのだ。だから相手の実力がわからないのだ。ここがエイの住む世界とは違うのだ。エイの時代は、戦国時代。食うか食われるかの世界だ。相手の動向を悠長に見ている時間などない。エイは今まで相手にしたことのないタイプであった。
「ちょっとまずいわね・・・あの男は私たちが思う以上に手強い相手よ」
「どうしても戦うのであれば、それもいい。そこのお嬢ちゃんは見た目よりはるかに強いと見える。只者じゃないのは君の方だろ? まやかしとはいえ麻酔銃のトリックを見破ったのだから。久しぶりに俺を退屈させない相手に巡り会えた。だが、今はお前たちを相手にしている時間はない」
「なんです・・・っ・・て・・・」
「な、なんだか意識が・・・」
エイとマスも力が抜けたそうにその場にうずくまってしまった。
「お前たちが意識を失う前に話をしておこう。別に俺はこいつらの命などなんとも思っていない。あのお方が用済みであればそれだけだ。それに、お嬢ちゃんの戦闘能力にも興味がある。だから、こいつらを助けたければあの塔の頂上まで来い。その時には、本気の俺と勝負ができる。では、俺は任務に取り掛かる」
そう言って、ガダルはリブとリュウを抱えて去っていった。
「ま、待ちな・・・さいよ・・・」
「ち、ちくしょう・・・」